第9回 金町こかぶ
日本では古来から「すずな」といわれ、春の七草の一つに数えられている、かぶ。1300年ほど前に大陸から渡来し、今では全国に栽培が広がり、山形の温海(あつみ)かぶ、京都の聖護院かぶ、江戸では品川かぶなど、多くの地方品種が生まれた。
金町こかぶは、明治末期に金町(現在の葛飾区東金町)で4月に早採りできるように改良された品種で、当時は新かぶと言われ、高級料亭等に高値で取り引きされていた。その後は金町一帯で広く栽培されるようになり、さらに東京から全国に広まった。青物の乏しい春先、青々とした葉や真っ白で光沢のあるかぶは消費者に大変喜ばれたという。
五日市街道沿いで農業を営む清水繁雄氏は、江戸中期から続く専業農家。JA東京みどりから「地元に江戸東京野菜を」という要請を受け、3年ほど前から金町こかぶの栽培を始めた。「伝統野菜は、品種改良されたものに比べて病気に弱く、大きさも不揃いで、最初は戸惑いました。普通の野菜の収穫は、端から順番に取っていけば良いですが、伝統野菜はそうはいかない。同じように育っているものを選り分けていく作業が必要になります」と清水氏。冬場に出荷するため、ビニールハウスで栽培し90日ほどで収穫する。
「販売当初は知名度も低く、見た目も不揃いでなかなか売れなくて……。袋に江戸東京野菜のラベルを貼ったり、直売所で説明したりして、徐々にお客さんが買ってくれるようになりました」
伝統野菜は不揃いというより、「個性」があるのだと清水氏はいう。
後日、取材用にと、取り分けてくれた金町こかぶを、清水氏おすすめの味噌汁にして茎も葉も丸ごといただいた。金町こかぶ本来の甘みも然ることながら、清水氏の温かい人柄が伝わってくるやさしい味だった。
本記事でご紹介した金町こかぶを使った料理「金町こかぶと塩鮭の粕汁」の作り方はこちらをご覧ください。