第21回 のらぼう菜
のらぼう菜は、江戸時代にあきる野・五日市周辺で栽培が広まったアブラナ科の野菜。明和4(1767)年、幕府代官伊奈備前守が、ジャバナ(闍婆菜)の種を五日市の名主に配付し、採油用や救荒作物として栽培を奨励したという。天明・天保の飢饉の際、のらぼう菜のおかげでこの地域の住民が救われたという碑も残っている。
冬の寒い時期に育つのらぼう菜は、小松菜やホウレンソウよりも甘みがあり、くせがない。しゃきしゃきした食感で生でも食べられる。かき菜と似ているが、大きい葉のふちがギザギザで、成長してくると茎や葉のふちにほんのり赤紫色が出てくるのが特徴だ。
自家採取で味もかたちもばらばらだったのらぼう菜の品質を統一させ共同出荷しようと、10年ほど前に「五日市のらぼう部会」が発足した。部会では20軒から集めた種を立川市の農林総合研究センターで3年間試験栽培。育ち具合や味など、本来ののらぼう菜に近い種を認定した。種は交雑しないよう厳重に管理され、部会の生産者46名のみに配布。栽培方法も細かく決められている。
「8月半ばに種を蒔き、10月に定植する前に消毒を1回するだけで、あとは収穫まで無農薬。安全性の高い野菜なんです」と会長の中村義明さん。五日市の特産品として、もっと広めていきたいが、柔らかいため朝収穫したものでも夕方にはしんなりしてしまうという。そのため、遠方には出荷できないので、現在は昭島市場とJA直売所のみに出荷している。3月下旬から4月中旬の土・日曜には武蔵五日市駅前でも販売される。
「最近は他の地域でものらぼう菜が栽培されているようですが、『五日市産のものが一番美味しい』と言ってくれるのが嬉しい。やはりここの風土にあった伝統野菜なんでしょうね」と副会長の坂本彬さん。
葉も茎も柔らかくほんのりと甘いのらぼう菜は、春の訪れを告げる伝統野菜だ。
本記事でご紹介したのらぼう菜を使った料理「のらぼう菜とベーコンの炒め物とのらぼう菜の菜飯」のレシピはこちらをご覧ください。