第20回 しんとり菜
しんとり菜は唐菜(唐人菜)、ちりめん白菜などと呼ばれていたアブラナ科の野菜。これを若採りし、芯の部分を摘みとって吸い物などに使っていたことから、いつしか「しんとり菜」と呼ばれるようになった。生のままかじってみるとシャキッとした食感でクセがない。火を通しても歯ざわりが良いことから、中国野菜が出回る以前には中華料理の炒め物やスープの具として使われていた高級食材でもあった。主な栽培地は昔から小松菜などの葉もの野菜栽培が盛んに行われていた江戸川区で、昭和40年代から始まった。同区は宅地化が進み、栽培は減少しているものの、現在も主産地となっている。
小金井市でしんとり菜を栽培している農家、土屋正子さんは、市内で5年ほど前に始まった「江戸東京野菜でまちおこし」のプロジェクトメンバーの一人。数少ない女性の生産者だ。土屋さんは春先に開催される市のフェアに出すもの以外は露地で栽培している。「野菜自身が本来持っている自然の力を引き出して育てたい」と9月に直播きした後、水やりはほとんどしない。肥料にはおからやぬかを使うなど、従来の方法にこだわらず、女性ならではの柔軟なアイデアを栽培に活かしているが、虫がつきやすい、寒さに弱いなど苦労も多い。それでも伝統野菜を作る理由は、「原点を忘れず、自然そのままの味を覚えておくことが大事だと思うから。人間の本質を忘れないっていうことと同じですね」と話す。
「私たち生産者が伝統野菜をただ作るというだけではなく、消費者の皆さんが実際食べて、味を知ってもらうということが伝統野菜の存続につながっていくのではないでしょうか」
取材の当日は、葛飾区立新宿小学校の3年生48名が新宿一本ねぎの収穫体験を行った。これは、葛飾区教育振興ビジョンの一環である、食育推進事業に矢作さんが協力し、今回初めて実施したもの。
本記事でご紹介したしんとり菜を使った料理「しんとり菜と帆立のスープ」のレシピはこちらをご覧ください。