第15回 つまもの⑤ つるな
つるな(蔓菜)は、暖かい地方の海岸に見られるツルナ科の一年草。日本原産で、昭和の初め頃までは夏の自家菜園で重宝された懐かしの伝統野菜だ。
葉は肉厚で、生のままかじってみると苦味と少量のしょっぱさが口に残る。欧米では「ニュージーランド・スピナッチ」と呼ばれ、ホウレンソウと同じような 方法で食用にされたり、またサラダに使用されたりもする。日本料理では、「椀だね」として芽の部分だけを吸物に使われることが多い。
足立区・栗原の農家、水野正平さんがつるなの栽培を始めたのは50年以上前のこと。
「当時は紫芽(むらめ)や穂紫蘇などのツマものをいろいろ栽培していました。でも、ツマものは手間がかかる。今では比較的簡単に栽培できるつるなだけに なってしまいました」
つるなは周年ビニールハウスで栽培されている。種まき等の作業はほとんどなく、秋に土を軽く耕しておくと自然に落ちた種から芽が出るのだ。簡単そうに見 えるが、実は虫がつきやすく、葉が弱いため農薬にも気を遣う。「農薬も同じものを2回使うともう効かない。その都度変えていくのが大変です」と水野さん。
収穫作業は主に奥さんの愛子さんの仕事。茎から3センチほどのところをハサミで一つひとつ丁寧に摘み取り、1箱に500グラム詰めたものを毎日15~20箱築地市場へ出荷する。
「今じゃ、この数が精一杯。景気が良い時は夜の10時ころまで作業したものです」
今では築地市場につるなを出す農家は3軒ほどになった。
江戸の粋を今に伝えるツマもの。その高度な生産技術を次代につなげるためにも、身近な『和製ハーブ』としてもっと簡単に入手できるようになり、手軽な食 べ方が広がってほしいと切に願う。
本記事でご紹介したつるなを使った料理「つるなのごまよし」「つるなの天ぷら」の作り方はこちらをご覧ください。