第11回 つまもの① 紫芽(むらめ)
刺身や吸い物など、各種の和食料理の添え物として使われる「ツマもの」。その種類は、紫蘇、木の芽(山椒の芽)、蓼、大葉、アサツキ、小蕪など数十種類にもおよぶ。
紫芽(むらめ)とは、紫蘇の若い芽のことで、大葉の双葉の芽を青芽(あおめ)、赤じその双葉の芽を紫芽という。青芽、紫芽ともに刺身のツマや薬味に使う。紫芽は紅たでに似ているが、紅たでよりも一まわり大きく、葉の裏が赤紫色で表が薄紫色をしている。ほのかな紫蘇の香りが特徴だ。
足立区の地場産業のひとつとして高い生産技術と伝統を誇る紫芽農家の荒堀安行さんを訪ねた。
荒堀氏宅でツマものの栽培が始まったのは戦前。「男手がない時に母が女手ひとつでやれるようなものを、と始めたのがきっかけでした」と、荒堀さん。戦後、高度経済成長期には年間で使用する紫芽の種の量はドラム缶1本分、200リットル以上にもなったという。
「子どもの頃、箱詰めする木箱の生産が間に合わず、よく手伝いに行かされたほど。今ではその箱屋も1軒になってしまいました」。
栽培の期間は冬場で30~40日、夏場で20~30日。双葉の幅が1・5~2センチ程度になったときに刈り取るが、「大切なのは色。ちょうどよい大きさのときに、赤紫の色が出ているかどうか、色目を見ながら収穫します」。1つの箱に10グラムほどの紫芽が箱詰めされる。1日の出荷量は50~100箱前後。足立区内の8軒の紫芽農家が出荷組合を作り交代で直接築地市場まで運ぶ。値崩れを防ぐための調整をしながら、荒堀さんは余裕を持って1年を通じて紫芽を栽培している。
「最近紫芽を扱ってくれる店が少なく、栽培していくのも非常に厳しいのが現状です。それでも紫芽を使ってくれる人がいる限り、そして伝統野菜を残していくためにも続けていかなければ」。愛犬を撫でながら話す荒堀さんのやさしい眼差しの奥には、力強い志がうかがえた。
お詫びと訂正
本記事でご紹介した紫芽を使った料理「紫芽と真鯛のカルパッチョ」の作り方はこちらをご覧ください。