第6回 品川かぶ
品川は江戸湾に面し、中世以来の港町、宿場町として栄え、町を支える漁業や農業も盛んであった。特に農業は、目黒川、立会川流域の低湿田地帯と荏原台地に広がった畑地で、年貢のための稲作を中心に麦や雑穀を作る粗放的農業が行われていたが、野菜は荏原郡の中でも最も早く産地として発展した。品川かぶもその一つで越冬用の漬物として栽培された。
小平市の農家・宮寺光政氏は、品川かぶ(東京長かぶ)の栽培をはじめて今年で4年目。10月下旬から翌2月頃まで出荷される品川かぶは、まさに今が旬。「かぶ」というと丸い形が連想されるが、品川かぶは根が細長く、20~25センチぐらいの長さで、辛味大根のような形が特長。葉も普通のかぶと比べて大きく、柔らかい。出荷作業に追われる中、採れたてを皮ごとガブリ、といただいた。歯ごたえがあり、かぶというよりは大根のよう。噛むごとに甘みが広がっていく。食べ比べるため宮寺氏が同じく栽培している江戸伝統野菜の金町小かぶも食べてみた。こちらは品川かぶに比べて柔らかいが辛みが強い。「普通のかぶと同じように糠漬けや煮物などにも使えますが、甘酢漬けが一番のおすすめです」と宮寺氏。特有の甘みが引き立つという。
名前の由来でもある品川区では品川かぶのブランドで、まちおこしのひとつとして一役買っている。宮寺氏が栽培するかぶは、北品川商店街にある青果店の大塚好雄氏が全量購入している。同氏が中心となり、洋菓子店では品川かぶを使ったスイーツを、区内にある台場小学校では品川かぶを栽培し、給食で実際試食したりと地元での期待も高まっている。「伝統野菜は品種改良されていないぶん、ふぞろいで病気にもなりやすいので栽培にも人一倍気にかける。でもそれが魅力のひとつではないでしょうか」そんな思いが伝統野菜を復活・継続させる根源となっているのだろう。