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NIPPON★世界一 The88th2017年05月20日号
ナカ工業(株)
日本にある世界トップクラスの技術・技能—。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。
今や樹脂製の手すりは、自宅や公共施設などに、当たり前のように設置されるようになった。樹脂製手すりのパイオニアであるナカ工業株式会社は、色彩や形状、抗菌効果にいたるまで、多様な手すりを手がけてきた。そして創業85周年を迎える今年、「抗ウイルス」という新たな付加価値をつけた製品を世に送り出した。
(取材/種藤 潤)
「3年という歳月を経て、ようやく製品化にたどり着きました」
「抗ウイルス」効果のある手すりの研究開発を手がけてきた企画開発本部技術研究所開発部の長橋洋一主任は、その歳月をかみしめるように語った。10年ほど前から、インフルエンザやノロウイルスなどに対する関心が高まり、本格的に「抗ウイルス」の研究に着手。すでに同社では「抗菌」は手がけてきたが、「抗ウイルス」に関しては全く別の研究が必要であった。
「手すりの素材となる樹脂に練り込む薬剤も、抗菌と抗ウイルスではまったく異なりますので、その薬剤探しから始めました。そして樹脂との相性を検証しながら、高い抗ウイルス効果を持たせるにはどうしたらいいかはもちろん、変色しないか、持続性はあるか、コストパフォーマンスはどうかなど、様々な角度から検証を重ねました」
開発全体の指揮をとるとともに、同社の「樹脂製手すり」の研究開発に長年携わってきた村井信幸所長は話す。
こうして完成した「抗ウイルス性樹脂手すり」は、現在9種類。今後はさらに様々な用途に対応する製品を増やしていきたいという。
ノロウイルスも適応する抗ウイルス素材の手すり
ウイルスと一言で言っても、インフルエンザウイルスとノロウイルスとではタイプが異なる。一般的に、インフルエンザウイルスなどはウイルス本体が「エンベロープ(たんぱく質や脂質の膜)」で覆われているタイプで、アルコールや石けん等で破壊することができる。しかし、ノロウイルスなどは「エンベロープ」がなく、ウイルスそのものを破壊しなければならないタイプのため、次亜塩素酸などの強力な消毒液が必要となる。
「抗ウイルス」と銘打っていても、前者にしか対応していない場合もある。しかし、同社の「抗ウイルス」効果は、どちらのタイプにも対応。時間とともに効果が現れ、8時間後には99%以上の抗ウイルス効果があるという。
「この効果は、抗ウイルスの専門機関で試験を重ね、実証しました。この試験費用が非常に高価な点が悩ましかったのですが、おかげで自信を持って抗ウイルス効果を打ち出すことができました」(長橋主任)
樹脂製手すりの可能性をいち早く見出す
「抗ウイルス」に限らず、同社が手がける樹脂製手すりの数々は、今や私たちの生活になくてはならない存在だ
同社は今年でちょうど創業85周年。当初は金属加工が中心だったが、1950年代に入り、樹脂素材に着目、樹脂製の階段すべり止めを製品化した。そして、その約20年後に、樹脂素材を用いた手すりを開発。当時は、手すりといえば金属製や木製などで、形状や素材についても使用者目線のものはなかった。
「樹脂のすべりにくさに加え、手で握る部分の温かみを考え、製品化が進められました」(村井所長)
まずは歩行補助を目的とした「連続手すり」を、公共機関や医療機関などに向け発売。現在の都庁舎にも採用されるなど、様々な機関で使用されている。続いて、トイレや洗面所などの身障者用の手すりを商品化。そして前出の「抗菌」に着目し、これまでにない「抗菌手すり」を完成させた。また、社会問題にもなったMRSA(耐性菌)や大腸菌O-157にも対応できるよう品質向上を図ってきた。
その後、一般家庭用の手すりの開発にも着手。浴室でも使用できる「防カビ」効果や、屋外でも耐えうる耐候性、より握りやすい楕円形状やグリップ性を向上させたエンボス加工、樹脂でありながら木質感にこだわった木質系樹脂手すり……。様々なシーンに応じた機能を持つ多様な手すりを生み出してきた。
「弊社研究所においては、材料開発、加工技術開発のみならず、自ら実験装置を作り、製品の完成度を高めるためのあらゆる検証をしています。また、様々な人が実際に使用することを想定し、“官能試験”を繰り返して商品に反映しています。ここまでこだわるメーカーは、ほかにはないと思います」(村井所長)
世界中の人々が集う駅や空港、競技場で導入を
3年という研究開発期間を経て、新たにラインナップに加わった「抗ウイルス性樹脂手すり」。その効果から、まずはウイルス感染をいち早く予防したい医療機関・高齢者施設などへの導入が考えられるが、村井所長は他の場面での活躍も期待している。
「駅や空港、競技場など不特定多数の人が行き交う場所の抗ウイルス化により、感染のリスクを減らすことができます。特に東京は、2020年に向けて国内外から様々な人が訪れるようになりますから、弊社としても積極的に提案していきたいと思います」
また、災害時を想定した導入も推進したいと村井所長は話す。
「昨年の熊本地震では、避難所でインフルエンザが蔓延したそうです。避難所は体育館などの公共施設ですから、そうした場所に抗ウイルス手すりを導入すれば感染リスクを減らすことができると思います。その効果も訴えていきたいです」
樹脂製手すりがすっかり定着したのと同様、この抗ウイルス手すりも、いつの間にか世の中に浸透していることだろう。
タグ:抗ウィルス性樹脂手すり