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大庭麗のイタリア食材紀行 第33回2017年02月20日号
第33回 南イタリアの唐辛子の産地で知られる“塗るサラミ”
今回も第31回のブティッロ同様、イタリアのつま先部分、カラブリア州の伝統食材をご紹介します。
“真っ赤な塗るサラミ”とも言われる、日本語では馴染みのない「ん」から始まる珍しい名前の「ンドゥイヤ」。唐辛子たっぷりの柔らかなペースト状の腸詰です。
豚の内臓を用いたフランスの伝統的な腸詰「アンドゥイユ」からその名が由来していると言われていますが、そもそもは1500年代の大航海時代に、スペインから唐辛子とともにカラブリアの地に伝わった腸詰の文化こそが、その起源ではないかとも考えられています。
全長1200㎞、半島の背骨と呼ばれ、アペニン山脈の南部に位置する、ポーロ山の麓にあるスピリンガ村。若干の高地でありながらも、海からの風が届き、強い日差しと涼しい風とが入り交じる、この地域の独特な微気候が、おいしいンドゥイヤの条件とされています。
スローフード協会が定義する伝統的なンドゥイヤは、天然飼料と牛乳由来の乳清(ホエー)を食べて育った生後14カ月以上の、この地域の豚の肩肉やもも肉、三枚肉などの厳選された部位を細かく挽き、肉の割合に対して約25%の唐辛子(収穫後に乾燥、熟成された数種類の辛さのもの)と塩を混ぜて腸詰にします。
約10日間の燻製ののち、数カ月間熟成させますが、この唐辛子の分量こそが先人の知恵。味はもちろん、その成分が防腐剤や酸化防止剤の役目をし、気温の高い南部の地域での豚肉加工品の長期保存を可能にしました。現在でも添加物や発色剤を一切必要としない数少ない加工品です。
真夏の気温が40℃を超えるこの地域は、本格的な夏の訪れの前に穀物を収穫し、初夏の収穫祭の際に、冬の間につくられたンドゥイヤを食べて祝うのが伝統的な習わし。辛みの中にも豊かな風味を持つ唐辛子の産地だからこそ、その風味が生かされたンドゥイヤは、唯一無二の辛いサラミのペーストとして、イタリア各地の人々に愛されています。
<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>
東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。
タグ:大庭麗 カラブリア州 ンドゥイヤ