HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.108 西武信用金庫 理事長 落合 寛司さん
1 The Face トップインタビュー2016年12月20日号
西武信用金庫 理事長
落合 寛司さん
“コンサルタント能力を持つ金融機関”を大看板に掲げ、「お客さま支援センター」の3つの柱を元に課題解決型の提案活動を積極的に展開。預金・貸出金の増加額、預貸率は信用金庫のトップクラスの業績を誇る。また、組織内では年齢による定年を廃止するなど積極的な経営を展開。驚異の成長を続ける西武信用金庫理事長、落合寛司さんにお話をうかがった。
(インタビュー/津久井 美智江)
コンサルタント能力を持つ金融機関を目指す。
—銀行と信用金庫は違う、信用金庫は地域のためにあると、常におっしゃっていますね。
落合 銀行は株式会社、信用金庫は協同組織なんですね。株式会社は投資家保護ですから、利益優先のビジネスモデルを組むしかない。一方で私たち協同組織は利用者保護なんです。ですから相互扶助という言葉がついています。金融機関と利用者がお互いにコラボレートしてお互いを助け合う会員制の組織体なんです。
では、金融機関がどんな利用者保護をできるのか。一つには安定した経営をして、安心して預けてもらえること。もう一つは融資ですが、西武信用金庫のちょっと違う点は、コンサルタント能力を持つ金融機関を目指していることです。つまり、地域経済を良くするために、地域やお客様の課題を解決しながら支援することによって、お客様たちが元気になって、そのことが地域経済を活性化させるシステムをつくっているんです。
—具体的にどんなことをされているのですか。
落合 「お客さま支援センター」というのがありまして、一つは地域を活性化するための街づくり支援。もう一つは地域の事業者が経済を潤したり、雇用を維持するための事業支援。それから地域の住民の中には資産家さんもいますので、そういう人のための資産形成・管理支援。この三つの柱が主体になっています。
—事業者とか個人の支援はわかるのですが、街づくり支援というのがよくわかりません。
落合 例えば、中野サンプラザですが、あれは一度売りに出ました。マンション業者が買おうとしたんです。でも、町の玄関にマンションではだめなんですよ。そこで、地域の住民と区と私たちでPPP(Public-Private Partnership)を使い、警察大学校の跡地と区役所の土地を一体にしてグローバル特区とし、町の賑わいをつくるような会場を中野区と造ろうということをやっています。
また、杉並公会堂の建て替え。これはPFI(Private Finance Initiative)と言うんですけれども、公的な施設としての位置づけをちゃんと残しながら、不稼働部門を民間で運営して採算を取る—負債は事業会社が持ち、区には負債を持たせない—そういう態勢をつくっています。
あるいは、マンションの建て替え。築40年、50年のマンションは建て替えるか、耐震にしなければならないんですが、築40年、50年のマンションは壊れません。でも、耐震工事の積立てをしていないから、このお金がない。
そこで、築50年のマンションでも鑑定士が見て問題ないと言ったら、マンション管理組合に耐震工事やリニューアルするためのお金は無担保、無保証で貸すことにしました。
今まではマンション管理組合で借りる場合、組合長さんが保証人にならなければなりませんでした。2億も3億も保証するの嫌ですよね。だから保証人も担保もない代わりに積立金を少し上げていただいて、そこにローンをつけることにしたんです。
そうすると、建て替えたかった人は売って自分のニーズに合ったところに行けますし、建替えずに住みたかった人はそのまま住み続けられます。
このような様々な地域の課題を解決していくのが街づくり支援なんですね。
これからの街づくりには経済力と環境力が必要です。
—いろんな課題があるのですね。
落合 私は、これからの街づくりには経済力と環境力が必要だと思っています。この環境力というのはCO2ではなくて、住みやすいとか、暮らしやすいとか、働きやすいとか、商売しやすいということです。税収不足で行政だけでは難しいでしょうから、元気な高齢者を中心にしたNPOを育成して、そこをカバーする。そのことが地域の大切な魅力づくりになって、その魅力づくりが地域住民の活性化につながるという発想です。
街づくり支援ではNPOに0・1%で融資していますが、ここはベースをつくるためにやっているので採算を取れなくていいんです。なぜなら、私たちは地域を選べません。地域がなくなることは、私たちがなくなることを意味するからです。
—地域が元気でないと、お金を貸すところもない。
落合 大変ですよ、貸しているところがみんな不良債権でつぶれてしまったら(笑)。
ですから二つめの事業支援では、メイン先はつぶさないという保証制度も検討しています。要は徹底的にコンサルタントをするということです。うちには今3万人の専門家がいます。例えば、学校では東京大学の准教授以下4200人。また、中小企業診断士協会、税理士会、民間のコンサル会社、弁護士、法律家、弁理士、大手の一流企業のOB人材も入っているんですよ。
—それはすごいですね。地域や企業を元気にしていくための一番のポイントは何でしょうか。
落合 いかに真の相談を受けられるかだと思います。
例えば、企業が私たちに相談に来るのが「売り先を紹介してください」。これが年間6500件くらいあります。でも、真の相談は「このままでは赤字になる」とか、「このままではあと5年ぐらいで仕事ができなくなる」というものです。廃業は倒産の2・8倍もあるんですよ。倒産より廃業のほうが重要で相談したいことだと思うんですが、これは年間に200〜300件しかきません。
なぜなら、信用されてないんです。本当のことを全部話したら、貸してもらえないんじゃないかと。そのくらい金融機関は冷たかった。このジレンマは1、2年では取り除けません。だからメイン先はつぶさないと言ったり、事例をいっぱい出してあげたり、専門家に見てもらってくださいとアドバイスしたりしてるんです。
企業の経営者にしても自分で自分は変えられない。今まで自分が努力してきてこの会社があるわけですからね。これをさらに良くするには、それなりに知識のある第三者に見てもらって経営改善する必要がある。中にいる人間はわかりませんが、外から見るといろんなことがよくわかるんですね。だからこそ真の相談をしてもらうことが重要。やっぱりいちばん重要なところを解決してやらないと、人間、元気にならないじゃないですか。
変革期と安定期の経営者はタイプが違う。私はたまたま時代に合っていた。
—そこまでする意味は?
落合 私は、今は変革期だと言っているんですよ。変革には二つ要因があって、一つは世界経済の主役が先進国から新興国に変わったこと。それにより先進国は高くても良いものを作っていれば売れた時代から、安くなければだめな時代になり、そのため日本の輸出産業は生産拠点を海外に持って行って産業の空洞化が起きた。それで下請けの中小企業は路頭に迷ったわけですね。
もう一つは、日本経済はずっと成長を続けていましたが、少子高齢化でこれからは衰退して行くだろうということ。自然界は基本的には強い者が生き残るんだけど、変革期は変化に対応した者が生き残る。マンモスや恐竜は死んでしまったけど、小鳥は生きているとよく言いますね。変革期は、適切に対応すれば小が大に勝てる絶好のチャンスなんですよ。
だから私たちは、この変革期をきちんと客観的にとらえて、自分たちのビジネスモデルを変えていっているんです。今までは、金融機関はリスクはお客様に取らせていましたが、私たちは金融機関がリスクを取るという全く逆のビジネスモデルを進めているんです。
—結果はいかがですか。
落合 リスク管理債権、つまり不良債権のことですが、今1・7%です。業界が6・8%ぐらい。延滞のお客さんは0・04%。業界は0・88%ぐらいです。
こういう結果が出ているから、いろんなアドバルーンを上げることができる。無責任に言っていたら私、背任になってしまいます(笑)。
—理事長になられて何年ですか。
落合 今、7年目です。
—この数年でグンと業績を伸ばされて。
落合 お客さまと、それと時代に恵まれたと思います。経営者は、変革期や改革期の経営者と、安定期の経営者はタイプが違うんですよ。私はたまたま時代に合っていた。
—確か定年制度もなくされたんですよね。
落合 はい。年齢の枠もなくしました。男性と女性の区別もね。このビジネスモデルにこの能力が足りないなとなったら、中途を採用するんです。今までいちばん年齢の高い人は70歳。優秀でした。今はもう辞めましたが、プロは自分の引き際がわかるんですね。
定年制度を見直すことで日本の年金制度や医療費制度は変わると思います。現役で働いていると、自分の体のケアを真剣に考えますし、やり甲斐を持っているから大事なファンダメンタルズが維持され病気にもなりにくい。時間がないから無駄に医者にも行きません。するとけっこうな医療費削減になる。
それから、罰を減らして賞を増やしました。私が理事長になった頃は罰が7割、賞が3割。これでは活性化なんてしません。故意、悪意、怠慢以外は罰にしない。失敗は、みんなで論理的にやった結果ならオーケーだと言って、成功例はどんどんアピールした。
—ある意味、いい時代にさしかかっているのかもしれませんね。
落合 そうです。だから今、ビジネスを楽しんでいます。変えなきゃいけないこと、いっぱいありますから。
—小が大に勝てるチャンスだと。
落合 そう。メガさんと対等にやって勝てる時代がやっと来たんですよ。コンサルみたいな手のかかること、付加価値の高いことは規模の大きいところはできません。デパートとブティックなら、ブティックで行くと。その代わり販売員はちゃんと知識を持つ。もしわからないことがあれば、後ろに専門家がいる。3万人いれば誰か一人はいるだろうと話しているんです。
<プロフィール>
おちあい かんじ
1950年神奈川県出身。1973年亜細亜大学卒業後、西武信用金庫入庫。立川南口支店長、常勤理事、専務理事を経て10年6月より現職。中小企業庁・中小企業政策審議会の委員をはじめ、関東経済産業局・成長産業育成戦略検討委員会の委員、金融庁金融審議会・専門委員、経済財政諮問会議政策コメンテーター委員会・政策コメンテーターなど数多くの公職に携わる。中小企業診断士
タグ:西武信用金庫 理事長 落合寛司氏 定年制度見直し