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大庭麗のイタリア食材紀行 第31回2016年12月20日号

 
大庭麗のイタリア食材紀行

 

第31回 バターの表面をチーズで覆い保存性を高めた南イタリアの伝統的なチーズ

 

 久しぶりにイタリアのつま先、カラブリア州を訪れ、数世紀もの歴史を持つ珍しいチーズ“ブティッロ”をいただきました。古くから、牛を高地で放牧しバターを作る習慣があったカラブリアでは、冷蔵庫などがなかった時代に、作ったバターを劣化させずに長期保存するために、バターの表面をチーズで覆い、空気との接触を防ぎました。このチーズがブティッロです。

 主に南イタリアの各地で作られる”ブリーノ“と呼ばれる、中央にバターを入れた独特なチーズの原型こそが、このカラブリアのブティッロだと言われています。

伝統的に特別な機会に食べられてきたブティッロには、このチーズ専用のカット台がある

伝統的に特別な機会に食べられてきたブティッロには、このチーズ専用のカット台がある

 南イタリアでは、モッツァレラチーズやカッチョカバッロなどを代表とするパスタフィラータと呼ばれるチーズは、独特な製法で作られます。まず、生乳にレンネットと呼ばれる凝固酵素を加え固めた後、余分な水分にあたる乳清を取り除きます。その後、カードと呼ばれる残った凝乳を熱湯で練り、組織を繊維状にしたものを、高温で伸縮性のある状態のうちに形成していきます。

 ブティッロもまた、バターを包み込んだこのチーズを、瞬時に水で冷却して、洋ナシのような形状にします。そして、チーズの上部を紐で結び、吊るして表面を乾燥させながら保存熟成します。

 こうして大切に保存された貴重なブティッロは、大切なお客さんが来た時や、特別な機会に伝統的に食べられてきたのだそう。薄くスライスして、そのまま食べるほか、熱々のパンに載せて食べると、それまでチーズの中に閉じ込められていたバターの香りが広がり、まさに食べる高級バターと言った感じです。

 残念ながら、昨今では牛を放牧できるような広大な牧草地が減少し、EUの法律によって生乳を扱う生産者たちへの過剰な課税などが原因で、もともと少ない生産者の数はさらに激減しているそうです。昔ながらの高山放牧された牛の乳を使って作られる伝統的なブティッロは、またもや貴重品になってしまったという話が印象的でした。

 


大庭麗

<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>

 東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

 

 

 

 

タグ:大庭麗 カラブリア州 ブティッロ ブリーノ 

 

 

 

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