HOME » サイトマップ » NIPPON★世界一<技術・技能> » (85) 株式会社東芝 インダストリアルICTソリューション社
NIPPON★世界一 The85th2016年11月20日号
日本にある世界トップクラスの技術・技能—。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。
インターネットに世界のあらゆるものをつなげ、機能させる「IoT(Internet of Things)」に大手企業が続々と参入しはじめている。2016年に“ソリューション企業”として新体制となった東芝もそのひとつ。これまで培ってきた技術と実績を駆使し、同社にしかできない“人を想う”IoTの実現に向け、本格的に動きはじめた。
(取材/種藤 潤)
例えば、とあるテレビ会議。インターネットを通じて日本と海外が結ばれ、音声と映像が表示される。その音声はリアルタイムで翻訳され、かつテキストデータとして表示、さらには会議内容が自動的に保存される。
例えば、コールセンターの応答。これまでは問い合わせに対し、スタッフである“人”が対応するのが当たり前だったが、ある企業では無人対応だ。問い合わせ内容はデータベース化され、問い合わせた人の音声内容を聞き取り、解析し、データベースから相応の答えを導き出して、適切な音声状態で問い合わせ相手に「回答」する。
音声認識、音声合成、音声翻訳、音声対話、映像認識、知識処理……一つ一つの技術は、すでに確立されたものだが、それらを高い技術で集約して、使う人の意向に合わせた最適なソリューションを提供する。まだ先の技術のようだが、前出の2例も含め、実用化されはじめている。
東芝のリソースを集約し「人を想うIoT」を提案
今年4月から新体制となり、4社によるソリューション企業へと生まれ変わった株式会社東芝。その一つが、ICT(Information & Communication Technology=情報通信技術)ソリューションにより人とモノをつなげ、ビジネスの新たな成長をサポートする「インダストリアルICTソリューション社」だ。先の例は同社が手がける実例であり、これらの商品を『RECAIUS(リカイアス)』と総称している。
「この言葉には、リカイ(理解)+アス(私たち)と、RECognize(認識)with AI(人工知能)+US(people=人)という二つの意味がありますが、一言で言えば、“人を想うIoT”。それを創り上げ、提供するのが仕事です」(同カンパニー社長の錦織弘信 東芝執行役上席常務、以下同)
多くの人が安心・安全・快適に過ごせる社会を目指し、人の言動を理解し、人にわかりやすく伝えることで、人々の様々な活動をサポートしたい。そのために同社は東芝として50年以上かけて積み上げた音声技術、映像技術を集約して、AI技術と組み合わせ、クラウドサービスとして提供しはじめた。当然ながらその形は千差万別。だが、その活用の幅広さも、『RECAIUS』の強みとなっている。
「長年築き上げてきた多様な取引先様との強いつながりと、そこから学んだノウハウも、もちろん『RECAIUS』に生かされています。それもまた、当社にしかできないIoTソリューションだと考えています」
業務効率、顧客満足が向上
コストダウンも実現
同社の他の事例を見ていくと、IoTソリューションはここまでできるのか、と目をみはる。
例えば、神奈川・鶴巻温泉の旅館「元湯・陣屋」では、社内SNSと『RECAIUS』の音声認識技術を連動させ、トランシーバのようにお客様の状況などを音声として共有、テキスト化するとともにデータ化し自動保存。リアルタイムの情報を共有し、過去の顧客データを共有しやすくすることで、業務効率を上げるだけでなく、顧客サービスの向上も可能にした。クラウドサービスを利用するので、端末はタブレットのみでよく、これまでのトランシーバが不要になり、コストダウンにもつながったという。
ラグビーのプレー分析にも、『RECAIUS』は活用されはじめている。これまではユニフォームにセンサーを付け、自軍選手のみの動きを分析、戦略を立案していたが、『RECAIUS』の画像・音声認識により、センサーを付けずに自軍はもちろん相手チーム選手の動きもリアルタイムで収集・解析できるようになり、連携プレーの「見える化」も可能になったという。
「音声を映像化できれば、かなりの精度であらゆるものをデータ化、蓄積、分析し、最適な形でアウトプットできるレベルまできています」
あらゆる国の人の想いに応えるIoT社会を目指す
同社がIoT事業に着手したのは、2011年ごろ。新しい時代における東芝らしさをどう表現するか試行錯誤した結果、培ってきた音声、映像などの「メディアインテリジェンス技術」の活用に行き着き、それが『RECAIUS』へとつながっていった。
「音声機器開発を主軸にしてきた当社としては、高い音声技術を生かしたICTソリューションが強みです」
すでに具体的な事業化が進む『RECAIUS』だが、あえて課題を上げるとすれば、「音声の個人差」だそうだ。どうしても滑舌の良し悪しなどで差が出てきてしまうというが、今後は「音声の東芝」の技術力で、限りなくほぼ全ての人が利用できる、音声収集精度の実現を目指すという。
見据えているのは、世界中の人々が一同に会する2020年だ。東京を中心に、多種多様な言語、表現をする人々の「想い」を汲み取り、形にできる社会の実現を、『RECAIUS』により目指す。
「今の技術なら理論上は、それこそ表情からでも人の意思を読み取り、解釈して言語・映像化することは可能です。それをどこまで誤差なく、どんな人でも快適に使用できるようにするかが課題です。2020年には、間に合わせたいと思っています」
情熱あふれる声で、錦織社長は語った。
タグ:株式会社東芝 インダストリアルICTソリューション社 RECAIUS リカイアス 旅館「元湯・陣屋」