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社会に貢献するために 第12回 (株)乃村工藝社2016年10月20日号
株式会社乃村工藝社
女性の社会進出が進むに伴い、特に育休を経た女性の職場復帰は、どの企業にも共通する課題だろう。昨年4月に発足した乃村工藝社内の「チームM」も、当初はその解決が目的だったが、今や育児経験を生かした空間創造の提案という、同社の新たな事業のひとつになりつつある。企業だからできる社会課題の解決の答えが、ここにはある。
(取材/種藤 潤)
育児中ママの“あったらいい”を
子どもと過ごす空間に提案
とあるショッピングセンターのキッズコーナー。アースカラーを中心にまとめられた空間は、まるで自然の中にいるような雰囲気。室内ながら大きめの遊具が配され、子どもがストレスなく遊びまわる様子が想像できる。子育て世代の家族にはありがたい空間だろうが、ここまでは近年よく見られる事例。しかし、この乃村工藝社「チームM」が関わったキッズコーナーには、育児中ママにとって“あったらいい”機能が含まれている。
例えば、授乳室とおむつ替えコーナー。施設によっては同じスペースになっているが、あえて仕切りを設置。また、おむつ替えコーナーには、男性も入れるように動線を設けた。
「授乳室とおむつ替えコーナーは、いわば食卓とトイレ。それを同一空間にすることに抵抗を感じるという声が多く、また、授乳室には男性が入ると困るけど、おむつは交換してほしい。そんな現役育児ママならではの声を生かしました。でも、実際稼働してみると意外な問題が出てきます。その検証をするのも、チームMの仕事ですが、難しいですね」
この提案をした同社「チームM」の松本麻里さんは、まだまだ課題は多いと振り返る。
社会課題の解決を最優先にクライアントに空間を提案
チームMが発足したのは、昨年4月。美術館・博物館を中心に手掛けてきたデザイナーの松本さんに加え、営業、制作、本社部門と、多様な部署の育児中ママ5人が集結した。
「部署横断型の様々な職種のメンバーが所属していることもこのチームの特徴のひとつですね」(松本さん、以下同)
チームMの事業スタイルは、子どもと過ごす空間の課題解決をテーマとしていることが特徴。同社の主事業である集客施設の企画設計・施工業務において、特に優先されるのはクライアントのニーズだ。だが、チームMにおいてはそれを踏まえつつ、まず、子どもが過ごす空間の社会課題を調査し、それを具現化することが第一。そして、解決法を検証し、課題に応じて様々な専門家とのコラボレーションを考える。その上で空間の企画・デザインを行い、クライアントに提案する。これがチームMのスキームだ(詳細は図A参照)。
社会課題に対し、子育ての専門家と協力して仮説を検証し、ユーザーの声を吸い上げ、論文やデータ化する。また、空間の企画・デザインに関しても、産学の専門家の監修のもと、サイズや機能性を検証し、商品化する。これらの組み合わせを検討し、コーディネートを行った上でクライアントに提供するという、社会課題解決型の事業モデルと言える。
子どもの過ごす空間創造のノウハウを社会全体で共有化
子どもと過ごす空間の課題を探るべく、他社の育児中ママで編成されたチームとも積極的に交流することにより、事業化におけるコラボレーションの幅も、着実に広がっているという。
目指すは、子どもがいる空間をすべて安全・安心にすること。そのために、空間づくりに関わるあらゆる人に、チームMで培ったノウハウを将来的にオープンにし、社会全体の課題解決につなげていきたいという。その取組みのひとつが、子ども空間・場づくりのナレッジを集めた『子どもと過ごす空間を快適にするための デザインハンドブック 基礎編』という一冊の資料だ。
「年齢別の子どもの身長や体重、集客施設などで実際に起こった事故などを、イラストを中心にチームMでまとめました。詳細なデータは専門書から参照・引用し、事故データは専門機関の監修のもと、イラストで表現しました。このノウハウが空間づくりに役立つものになれば、と考えています」
チームMは、出産から復帰した育児中の女性社員の活躍の場の創出を目的に、社内新規事業コンペで優勝したことで発足した。だが、本格始動に向けて動き始めると、育児中社員の課題は、職場だけにとどまらないことが見えてきた。やるなら、子どもや育児に関わる様々な課題を、乃村工藝社の事業「空間創造と活性化」で解決したい−まさに同社だからこそできる、CSV(Create Share Value)と言えよう。
「育児等のために時間制限がある働き方のなかで、女性が何かを諦めてほしくない。一方で、そのための組織を立ち上げる以上、仕事として成立する仕組みが必要。その両方を実現すること、それは企業だからこそできる社会貢献だと思います」
2020年東京五輪をはじめ、これからの日本で共生社会の実現が必要になるのは間違いない。チームMが女性活躍の場のみならず、多様な人々が過ごしやすい空間づくりなど、あらゆる意味で社会を変えていくのは、これからだ。
タグ:乃村工藝社 チームM 空間創造