HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.105 経済財政諮問会議 議員/株式会社日本総合研究所 理事長事 高橋 進さん
1 The Face トップインタビュー2016年09月20日号
経済財政諮問会議 議員
株式会社日本総合研究所 理事長
高橋 進さん
正確な経済分析や予想、さらには日本経済のあり方などを、様々な視点から提言し続けてきた。 経済財政諮問会議議員など政府の要職を歴任し、国の中枢から日本経済の行方を見据える株式会社日本総合研究所理事長、高橋進さんにお話をうかがった。
(インタビュー/津久井 美智江)
リサーチは現状分析だけではなく、予測することが本命
—日本総研というと日本のシンクタンクの代表のようなイメージがありますが、主な業務はどんなことでしょう。
高橋 日本総研は二つの顔を持っていまして、一つはリサーチやコンサルティングを行うシンクタンクと言われる部門。もう一つは情報システム部門で、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の情報システムのアウトソーシングを引き受けています。実は情報システム部隊のほうが圧倒的に大きくて、いわゆるシンクタンクの部隊は、3000人近い社員のうちの500人ぐらいです。
リサーチというのは現状分析をすることだけではなく、予測が本命と言われていますが、予測が望ましいものにならないことが多々ありますから、望ましいものになるようにどこをどう変えていけばいいのかという政策提言も行なっています。
—銀行がこのようなシンクタンクを作った意味といいますか、目的は?
高橋 私どもの研究所ができたのは、1990年代初めですが、当時は日本最大のシンクタンクは役所だと言われていました。役所の中に情報が全部あって、役所が政策を立案し、民間はそれについていくだけという時代。本当にそれでいいのかということで、限られたデータに基づいて、問題提起をするところから始めました。
その頃、役所にかみつく提言をしたことがあるんですね。そうしたら「おまえたちの言っていることはおかしい。ついては訂正をする論文なりを出せ」と。でも、「基づくデータが間違っていない限りは見解の違いだ」と言って譲らなかった。すると、うちの研究所の別の部隊が請け負っていたその役所の仕事を減らすと脅してきたんです。
その時の社長の一言が素晴らしかった。僕らのリサーチの原点になったんですが、「リサーチとビジネスは別だ。結果が気に食わないからといって、仕事を減らしてくるような役所は二流官庁だから相手にしなくていい。その結果、うちのビジネスが減っても構わない」と言った。
それで吹っ切れて、正しいことは正々堂々と言っていこう、役所がデータを独占しているのであればもっと出してくれと言っていこうと、覚悟が決まりました。
—この二十数年で日本もずいぶん変わりましたね。
高橋 そうですね。しかし残念ながら、私どもも失われた20年の中で、どうしたらこれを克服できるかという明確な答えが出せているわけではありません。それなりの主張はしてきたつもりではありますが、この20年は難しい20年だったと思いますね。
安倍政権になって、この20年を取り戻すべくやっていますが、私はやっぱり社会を変えていくのは大変なことだと思います。ただ、何もしなければこの20年がさらに10年、20年と続いていきますから、何とかして経済、社会を変えるべく官も民も努力をする。従来とは違うやり方で取り組んでいかなければならないと思っています。
財政出動と構造改革を突き詰めると働き方の改革につながる
—経済財政諮問会議の議員として、これからの日本はどうあるべきとお考えですか。
高橋 よく3本の矢と言われますが、安倍政権になって大金融緩和もやり、財政出動もやり、これによってデフレではないというところまではきたと思います。私はいずれデフレは脱却できると思いますが、それには経済の好循環が続いていかなければなりません。
ところが過去1年半くらい見てみますと、外的な環境がガラッと変わってしまった。特に中国経済が大幅にスローダウンして、しばらくはこういう状況が続きそうです。ここを過小評価してはいけないと思うんですね。
日本の対中輸出が伸びないだけではなくて、企業のマインドにもものすごく影響してしまって、せっかくデフレを脱却しかけて企業マインドが前向きになってきたところなのに、またマインドが委縮している。そこをどうやってもう一度鼓舞していくかということが、安倍政権の大きな課題だと思います。
—デフレを脱却したとしても、少子高齢化で日本は人口が減りますよね。マーケットは縮小し、働く人も減るとなると、日本経済の活力は失われていくのではありませんか。
高橋 財政が悪化している背景の一つが少子高齢化で、これからも医療・介護を中心に社会保障支出が増えていきます。この構造をどう変えていくのか。
これまでは金融緩和を中心にやってきましたが、これからは少し政策をシフトさせて、財政出動と構造改革を組み合わせていく。過去、財政出動だけではだめでした。構造改革をやればいいかというと、デフレの元では必ずしも需要がついてくるとは限りません。財政も使って需要を引き出しつつ、同時に構造改革をやって体質を強化していく。その政策をどう具体化していくかということが、今問われているんだと思います。
私も諮問会議の議員になって3年半たちますが、今が本当の意味で正念場というか、剣が峰という気がします。
—具体的にはどんな政策を考えていらっしゃるのですか。
高橋 例えば、人口が減り、労働力の供給が減っていく中で、女性、非正規の若者、高齢者をどうやってもう一度戦力化していくか。そこに着目した政策を打つ過程で、1億総活躍という言葉が出てきたわけですけれども、これなどは今までとは発想の違う政策だと思います。
働く人の数を増やし、彼らが所得を得ることによって経済もよくなりますし、かつそういう環境を作ることによって、中長期的に出生率も上がっていく。
去年からその政策に政府は力を入れていますが、本当の意味で大きな政策にしていけるかが非常に重要なポイントだと思います。
例えば、女性について申し上げれば、女性が働きたい時に働けるテレワークとか短時間労働とか、働き方も柔軟にしていかなくてはなりません。
また、子どもを生めとか働けとか、女性にばかり押しつけるのではなく、それをサポートする男性正社員の働き方そのものも変えなくてはなりません。突き詰めていくと働き方の改革につながるんだと思います。
2020年後の東京は、アジアの中のトップになる
—少子高齢化などは、国よりも東京都のほうがむしろ深刻な問題です。これからの都政を考えるポイントはどこでしょうか。
高橋 自治体によっては高齢化はもうピークを過ぎて、むしろ高齢者の数がどんどん減りはじめています。しかし、東京や大阪といった大都市では待機児童の問題がこれからも続くと同時に、すさまじい勢いで高齢者の絶対数が増えていきます。そこにどう取り組んでいくかが大きなポイントになるのは間違いないでしょうね。
—新しく小池百合子さんが都知事になられましたが、知事に最も必要な資質はどんなことだと思いますか。
高橋 私はビジョンと構想力と申し上げたい。もちろんそのビジョンは偏狭なものではだめで、グローバルな視野に基づくもの。それから先進性を踏まえたうえでの構想力。私は実務家より、そういうビジョンや構想力をきちっと打ち出して、実現していける知事がいいと思います。
東京都は経済規模で言うと中規模の先進国並み、例えばオランダよりも大きいですよね。国にも匹敵するような規模の組織が、行政の思惑だけで動いていくということはありえないので一つの組織がどういう方向に向かっていくのか、どういうビジョンを持っているのかということがすごく大事だと思います。
—日本の首都、東京という特殊性もあります。
高橋 日本国内だけを見れば、誰が何と言おうと東京がトップであり、むしろ一極集中の弊害まで言われています。しかし、アジア、あるいは世界に視野を広げると、東京はすさまじいバックグラウンド、日本という後背地を持っているにもかかわらず、シンガポールや上海に負けていました。
これからは先進的な人や物が集まる場所が極めて発展していきます。日本にもそういう場が必ず必要で、そういう場に東京がなれば、人、物、金が地方に流れ、活性化にもつながります。
東京が国内から人、物、金を集めることが問題なのであって、世界から人、物、金を集めて地方にばらまくのが、私は東京の役割だと思います。
—2020東京オリンピック・パラリンピックは一つの起爆剤となるでしょうか。
高橋 個人的に言わせていただければ、今度東京でやるオリンピックは、むしろパラリンピックを中心にやるぐらいの発想をすべきだと思います。2020年までに徹底したバリアフリー、高齢者にも外国人にも優しい街を造るくらいのコンセプトを打ち上げて、徹底的に社会を変える。街の中で外国人に話しかけられても普通に英語が話せる、そのために都民が一生懸命勉強するくらいの意識改革をする。
あるいは世界一コンパクト化されたシティを目指す。東京は公共交通機関だけで遥かに遠くまで行ける素晴らしい機能性も持っているわけで、これをさらに磨いていく。階段やトイレなどのハードだけでなく、ソフトの面も含めてバリアフリー社会を作るということを合言葉にしてもいいと思います。
そして2020年の後は、アジアの中で東京がトップになる、大企業のリージョナル・ヘッドクォーターになるくらいの構想を打ち出していくべきだと思います。そういう意味でも、東京は遠慮せずにトップランナーになって、その恩恵が地方にも及んでいくという関係をぜひとも作ってもらいたいですね。
<プロフィール>
たかはし すすむ
1953年生まれ。76年一橋大学経済学部卒業後、住友銀行(現 三井住友銀行)に入行、主に調査部門を歩む。1982年から5年間ロンドンに駐在し欧州経済・金融情勢を中心に調査。 90年日本総合研究所調査部主任研究員へ。調査部長、理事を歴任後、2005年〜07年まで内閣府政策統括官(経済財政分析担当)。07年8月、日本総研へ副理事長として復帰、11年6月には理事長に就任し、現在に至る。また、13年1月から、第2次安倍内閣の発足に伴い復活した経済財政諮問会議の民間議員を務める。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」やフジテレビ「新報道2001」等の経済情報番組にも出演。著書に『10年後の日本を読む「先見力」のつけ方』など
タグ:(株)日本総合研究所 経済財政諮問会議