HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.23 東武タワースカイツリー株式会社取締役社長 宮杉欣也さん
インタビュー
2009年11月20日号
東武タワースカイツリー株式会社取締役社長 宮杉欣也さん

世界一の観光タワーを中核に
エコで活力あるまちづくりを目指す

東武タワースカイツリー株式会社取締役社長

宮杉 欣也さん

 墨田区は北十間川のほとりに、徐々にその姿を現しつつある「東京スカイツリー」。自立式電波塔として世界一の高さ634mを目指し、着々と工事が進んでいる。日本の伝統的な技と美意識を受け継いだ意匠のタワーは、21世紀の最新技術を駆使し、2011年12月に完成。翌春には、人に、そして環境にやさしいコミュニティとともに誕生する予定だ。事業主体である東武タワースカイツリー株式会社取締役社長・宮杉欣也さんにタワーにかける想いをうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

行政と地元関係者の協力のもと、
大プロジェクトはスタート

―東京スカイツリーが200mまで立ち上がり、3合目までたどり着きましたね。最高高さは約610mと聞いておりましたが、世界一を目指して24m伸ばしました。設計等に影響はないのですか。

宮杉 そもそも600m級という数字は、都心部の超高層ビルの増加に伴う電波への影響を低減するためにNHKと在京放送事業者が要請した数字ですが、私どもは当初から自立式電波塔世界一を目指してきました。安全面も含めて構造設計上は640mくらいまで想定しておりましたので、特に大きな問題はありません。

―「在京6社新タワー推進プロジェクト」に立候補したきっかけは何ですか。

宮杉 墨田区や地元の方が、「東武さん、いい土地があるじゃないですか。そこを活用して、ぜひタワーに挑戦してください。地域の活性化にもつながります」というお話を受けたことです。

東京スカイツリー完成予想イメージ

東京スカイツリーを中心に広がる街並みのイメージ
写真提供:東武鉄道株式会社・東武タワースカイツリー株式会社
※画像をクリックすると拡大表示されます

 その土地というのは東武伊勢崎線の業平橋駅と押上駅の間にある貨物ヤード跡地ですが、私どもでも再開発を計画しておりました。しかし、具体的にどんなものをいつごろまでにという段階ではなかった。そこで新タワーを中心としたまちづくりに切り替えて検討した結果、東武鉄道として積極的にプロジェクトを推進しようということになったのです。

―いろんな候補地がありましたが、最終的にこちらに決まった理由、決め手は何だとお思いですか。

宮杉 押上・業平橋駅周辺地区が選ばれた理由は、まず、まとまった土地があるということ。それから、隅田川を挟んで隣の台東区に浅草、こちらの墨田区には両国、本所、向島という江戸文化の継承地があり、両地域が一体となって観光開発ができるだろうということ。そして何より、区をはじめ地元関係者や住民が応援して、一緒にやろうと言ってくれていることが大きかったと思います。

 さらにもう一つ、ここは非常に交通の便がいいんですね。東武伊勢崎線、京成押上線、東京メトロ半蔵門線、都営浅草線の鉄道4線が乗り入れる結節点になっており、成田や羽田からも近く、上野、大手町からも15分くらいです。もう一度、かつての下町の賑わいを取り戻せればいいと思います。

―地元の方が歓迎し、協力してくれるということは心強いですね。

宮杉 大変な工事ですから、いろんな意味でご迷惑をかける場面が多いんですね。一つひとつ丁寧にご説明していく中で、ご理解をいただき本当にありがたいと思いました。

―業平橋駅のすぐ近くに「東京スカイツリー インフォプラザ」を作り、情報公開されていますね。

宮杉 4月にオープンしまして、10月末で1万5千人を超えました。今でも一日150人から200人くらいのお客様が見えています。最初は地元の方に情報提供すると同時に工事の進捗状況をお知らせする目的だったのですが、今では日本全国からいろんな方がお越しくださるようになりました。たくさんの方に認知していただいて、応援していただける材料になったと思います。

 

伝統の技や美意識を盛り込んだ
美しいフォルムとライティング

―タワーそのものの魅力が注目されていますが、東京タワーが昭和のタワーだとすると、東京スカイツリーは平成のタワーという印象です。

宮杉 まるっきり姿形が違いますからね。東京スカイツリーは一辺が70mの正三角形で、それが丸みを帯びながらしなやかに立ち上ってまいります。また、東京スカイツリーは機能的な感じといいましょうか。

―近未来をイメージさせるタワーの構造には、日本古来の五重塔の制震システムの技術が使われているそうですね。

東京スカイツリー建設風景

日々高さを増している東京スカイツリー。今月10日に200mを超えた
※画像をクリックすると拡大表示されます

宮杉 東京スカイツリーの監修をお願いした彫刻家の澄川喜一先生が、「日本の伝統建築である五重塔は、火災で焼失したものはあっても地震で倒れたものは一つもない。なぜだろう。それは心柱(しんばしら)と屋根が別々に揺れているからだ。こういう技術を近代の科学技術に応用しなければおかしい」と、日建設計さんと一緒に心柱を中心に「そり」や「むくり」の曲線を生かしたデザイン・構造を考えてくださいました。

 色は日本の伝統色である、最も薄い藍色の藍白(あいじろ)をベースにしたオリジナルカラーです。スカイツリーホワイトと名づけましたが、白磁のようにかすかに青みがかった繊細な白色です。

―スカイツリーホワイトの昼間の姿もすっきりしていて美しいですが、ライティングも素敵ですね。

宮杉 若く優秀な戸恒浩人(とつねひろひと)先生が、日本の良さ、江戸の心意気を光で表したいと考えてくださいました。江戸で育まれてきた心意気の「粋」と、美意識の「雅」という2つのオペレーションが1日毎に交互に現れる新しいスタイルのライティングで、今日に続く明日、明日の先に続く未来を表現しました。随所に江戸の原風景を継承するデザインを取り入れることで、タワーの立つ下町の歴史文化を表しています。

―ライティングが人に与える影響は大きいですが、どんな点に気を遣われましたか。

宮杉 私どもが一番気にかけたのは、タワーの存在が大きなものですから、昼も夜も近隣の住民の方に圧迫感を与えないようにすることです。昼間もやさしい感じでありたいし、夜もけばけばしくなく、しっとりと景観に溶け込むようなものにしたいと、特に意識しました。

―確かに634mという高さは想像を絶する高さですからね。

宮杉 一方で、力強さ、頼もしさというのでしょうか、万一天災があったとしても、このタワーが凛として、何事もなかったように建っている―心の安心感、また頑張ろうと勇気を与えるような存在でありたいと願っています。

 

新しいまちづくりのモデル
地域冷暖房と自然エネルギー活用

―ただ単にタワーを作るのではなく、タワーを中心にして地域全体の再開発をする計画ですね。エコなまちづくりという点でユニークですし、注目されています。

宮杉 東京スカイツリーを核としたこの多機能複合型開発はRising East(ライジング・イースト)プロジェクトと称しておりますが、鉄道という環境にやさしい移動手段を提供している企業が手がける事業ですから、安全・安心はもちろんのこと、環境への配慮が重要だと考え、再開発に当たってはさまざまな省エネルギー、省CO2技術を導入しています。

 その柱となるのが、東武エネルギーマネジメントの地域冷暖房システムと自然エネルギーを活用する方法です。約7000トンの水を貯める大規模な貯水蓄熱槽によって複数の建物の冷暖房を行うことで、環境保全・省エネ・防災など多くのメリットが得られます。大規模にやるのは日本で初めてだと思いますが、地中熱を活用することでさらに効率をアップします。使用エネルギーは43%、CO2も48%減らすことができ、外に熱を出さないのでヒートアイランド現象も抑制できるんですね。

 それから、墨田区は雨水の再利用を推進しておりますので、雨水利用も積極的に採用して、トイレとか植栽の水まわり等に有効に使う予定です。また平常時はもちろんですが、災害時こそ電波塔の持つ情報インフラの機能を発揮し、地域の一時的な避難場所、防災拠点としてお役に立てると思います。

―未来のまちづくりの一つのモデルになっていくでしょうね。ところで、初年度の入場者はどれくらいを想定されているのですか。

宮杉 観光タワーとしてのキャパシティは、3層になっている第一展望台が約2000人、第二展望台が約900人です。エレベーターの輸送力もありますから、1日2万人を超すと相当混雑すると予想されます。最大で年間700万人として、そのほかにいろいろな条件がございますから初年度は540万人と考えています。

 商業施設は、年間2000万人くらい来ていただけると期待しています。浅草を訪れる3000万人と併せて5000万人の方々に、ぜひゆったりと隅田川の両側を楽しんでいただきたいですね。

―東京スカイツリーに期待することは?

宮杉 まずは、城東地区の復活です。これは、ただたくさんの人が来てくれればいい、賑わいが創出されればいいということではなく、下町の人情とか助け合いの精神とか、日本人がややもすると失ってしまったものを感じていただきたいということです。

 二つ目は、東武沿線の価値を高めてグループに貢献したい。

 そして三つ目は、高いところに上ることによって、人々の営みや自然の美しさ、宇宙の神秘といったものを感じて、新しい気持ちで生きていこうという希望を持っていただきたいということです。ですから、タワーの中ではアミューズメント施設などは極力排除して、純粋に眺望そのものを楽しむ施設にしたい。特に、夜景はすばらしいと思います。低い雨雲なら展望台はその上ですから、満天の星が見えるのではないかと期待しています。

―この先、事故なく完成するといいですね。

宮杉 大規模な工事には必ず犠牲者がありますけれど、この工事だけはゼロで終えたいと願っています。

 


東武タワースカイツリー株式会社取締役社長 宮杉欣也さんプロフィール

撮影/加藤 ゆみ子

<プロフィール>

みやすぎ きんや
昭和20年10月2日生まれ。43年3月、慶應義塾大学経済学部卒業。同年4月、東武鉄道株式会社入社。株式会社東武ホテル常務取締役営業本部長、東武トラベル株式会社代表取締役専務、同社代表取締役社長を経て、平成18年10月より新東京タワー株式会社代表取締役社長。新東京タワー株式会社は20年6月に東武タワースカイツリー株式会社に社名変更した。

 

 

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