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1 The Face トップインタビュー2016年04月20日号
東京都知事 舛添要一さん
2019年ラグビーワールドカップ、翌2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会という世界的な大会を目前に控えた東京。この二つの大会を成功に導く鍵、そして、その先に目指す大都市東京の姿を、舛添要一都知事にうかがった。
(インタビュー/津久井 美智江)
2020東京五輪では技術革新で水素社会を実現したい
—一昨年、「東京都長期ビジョン」を策定されましたが、そのトップに掲げているのが、「史上最高のオリンピック・パラリンピックの実現」です。2020東京五輪成功の鍵はどこにあるとお考えでしょうか。
舛添 ハード、ソフト、いろいろな面でやらないといけないと思っています。まずは、競技施設を含めてハードについてきちんとやっていきます。それから、ボランティアの皆さんに頑張ってもらいたい。日本ではこれまでボランティア文化があまり定着していなかった面がありますので、一気に定着させたいと思います。
また、パラリンピックがありますから、オリンピック・パラリンピックを通じて子どもたちがうんと伸びていくための教育をやりたい。もちろん、バリアフリーについても解決していかなければならないと思っております。
—オリンピック・パラリンピックのレガシーについてはいかがでしょう。
舛添 1964年の東京オリンピックの時は、新幹線が残りましたし、首都高速が残りました。プラスマイナスありますけれど。今は、中央環状線ができて、交通渋滞は非常に少なくなった。3環状をきちんと整備すれば、おそらく世界で初めて交通渋滞のない大都市が実現できると思います。
また、今度のオリンピック・パラリンピックでは、技術革新ということで水素社会も実現したい。
—水素自動車などもできていますものね。
舛添 水素は環境にもいいですし、日本にはエネルギー資源はありませんが、水素なら簡単に作れますからね。
それから、夜の街を明るく楽しいものにしたい。パリでもニューヨークでもロンドンでも、夜の街がきれいにライトアップされていますでしょう。都市の機能を明るく楽しいものにするために、ライトアップをします。さらに、水の都を目指すということで、川まわり、海まわりを整備し、ヴェニスに負けないようなウォーターフロントにしたい。
2020年は終わりではなく一つの通過点です。東京をもっともっと良くしていきたい、と考えています。
—ボランティアについては、子どもの時からの教育が大事かと……。
舛添 もちろん教育は大事ですが、誰もがみんな、簡単にボランティアになれる仕組みも大事だと思います。例えば、障害者の方もボランティアに参加してもらいたい。2月に開催された東京マラソンでも参加してもらいましたが、車いすに乗っていてもバナナやパンを配ることはできますのでね。
子どもの教育について言えば、今度のオリンピック・パラリンピックには200余りの国や地域から選手や関係者が来ます。例えば、一つの学校が一つの国を研究するというような取組みが行われれば、グローバルな人材を育てる絶好の機会になると思います。
揺りかごから墓場までの社会保障は国に先駆けてしっかりやる。
—将来にわたって東京が持続的に発展していくために、今いちばん大事な課題はどんなことだと思われますか。
舛添 少子高齢化だと思います。特に東京は厳しい状況にありますので、東京で結婚する、子どもをつくる、仕事を続ける、特に女性ですね、そして老後も安心して暮らせる―これをどの段階でもきちんとできるような社会保障をしっかりやることがポイントになります。厚生労働大臣をやりましたので、揺りかごから墓場までという政策は、国に先駆けてしっかりやりたいと思います。
待機児童ゼロとか、高齢者が住みやすくなるための地域包括ケアはもちろんですが、特に今、力を入れているのは女性の活躍です。「女性活躍推進白書」というのを、全自治体で初めて東京で出しました。
—東京で安心して暮らすためには、地震や台風等の災害に対する防災やテロ対策など、危機管理も重要だと思います。
舛添 都民の身の安全を守ることも重要な責務です。
昨年、「東京防災」という本を作って全戸に配布し、大変な好評をいただいたのですが、これを使って学校でも特別な教材を作り、教育を行っています。
防災訓練に関しては、今までは関東大震災の9月1日にしか総合訓練をやらなかったんです。9月1日は夏ですから、雪が降った時はどうするんだということで、私が知事になって、春夏秋冬年4回やるようにしました。
問題は木造住宅密集地域。これはなくさないと大火事になりますから、地域の開発と一体でやっていきます。それから、環七とか環八といった緊急道路になっている道沿いの建物は、倒れると道路を塞いでしまいますからその耐震化をやる。地震だけでなく都市型の集中豪雨もありますから、環七の下などに貯水池を造ってそこに水を流し、洪水にならないようにするとか、総合的な取組みをしっかりやっていくことが大切だと思います。
あとはテロ対策ですね。パリでああいうことがありましたので、警察官を増員するなどして万全の態勢を整えていきます。銃や爆弾を使ったテロ以外にも、サイバーテロなどコンピュータに対するテロもありますから、それも今やっていっているところです。
ただ、都民の皆さんに申し上げたいのは、行政ももちろんやりますけど、基本的に自助、共助、公助。まず自分の命は自分で守ってくださいということです。そのためにも「東京防災」を活用してください。いいことがいっぱい書いてありますから。阪神淡路大震災の時、助かった人のほとんどは家族や隣近所の人に助けられました。共助、隣近所でまず助ける。行政が来る前にやるということが大事です。そういうことも含めて万全の態勢を整えたいと思っています。
—ところで、横田基地の軍民共用については、どうお考えですか。
舛添 基本的に安全保障は国の専管事項ですけれども、例えば、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの時に民間で使えるようなところがあれば、それは一つのチャンスになるかも知れませんね。地域の方々とも話をしながら、考えていければと思っています。
家庭と仕事が両立できる
ゆとりある社会を目指す。
—知事に就任されて2年経ちましたが、残りの任期はどのようなことに力を入れていこうと。
舛添 就任して1年目に長期ビジョンを作りました。これは10年計画で、予算もつけて着実に政策に落としていっているところです。ただ、もう少し先、2040年ぐらいの東京の姿を見据えたグランドデザインを描くことによって、この10年計画、長期ビジョンは生きてくるので、二段構えでやっていこうと思っています。
いかんせん異常な状態で知事に就任しましたので、最初の年は私が自分で作った予算じゃないんです。3年目にしてようやく予算も自分なりの政策を反映する形で組めるようになりました。まいた種が少しずつ育ってきているので、残った2年足らずの間にきちんと花を咲かせたいと思っています。
—2040年のグランドデザインとおっしゃいましたが、理想とする東京はどんなまちですか。
舛添 やはり二つのオリンピックを比べてみるといいと思いますが、1964年の時は、戦争に負け、みんながむしゃらに働いて経済成長した。その結果、公害が起きたり空気が悪くなったりとマイナスはあるけれども、1945年に比べたら遥かに豊かになったという証だったと思うんですね。
では、2020年はどうかというと、それはがむしゃらな経済成長ではなく、ゆとりだと思う。私は若い頃フランスで勉強しましたが、フランスではみんなひと月もバカンスを取ってのんびりしている。お金があって豊かということに関しては、日本もある程度実現しました。だから今度は、時間があって豊かということを目指すべきだと。仕事だけじゃなくて、1週間につきどれだけスポーツに割ける時間があるか、どれだけ美術館行くとか文化に割ける時間があるか。それから家庭と仕事の両立。よくワーク・ライフ・バランスと言いますけど、それがきちんとできるゆとりが必要だと思います。
300年太平の世が続いた江戸時代というのは、いろいろ問題はあったにしても、ゆとりがあった。だからこそ、世界に影響を与えた浮世絵のようなすばらしい文化が生まれたと思うんですね。
先ほど交通渋滞対策を一生懸命やっていると言いましたが、車の中で1時間閉じ込められていたらもったいないじゃないですか。例えば、新宿から羽田まで今まで40分かかっていたのが19分で行けるようになりました。半分ですよ。浮いた時間で好きなことがやれる。お茶一杯飲める。ガソリンだって半分で済む。空気も汚れない。よく公共事業はいかんという人がいますけれども、中央環状線ができたからできるようになったわけで、ハードも必要です。そしてソフトも必要です。
ですから、成熟したまち、ゆとりのあるまち、そして仕事も家庭も趣味も、生活全体にわたって楽しめるまちにしていきたいというのが私の考えです。
—先ほど職員の方にうかがいましたら、知事はワーク・ライフ・バランスを大切にされていて、非常に集中して仕事をされているとのことでした。体力的、精神的なバランスは取れていらっしゃいますか。
舛添 大丈夫です(笑)。楽しみながらやっていますから。
<プロフィール>
ますぞえ よういち
1948年福岡県生まれ。71年6月東京大学法学部政治学科卒業。79年4月東京大学教養学部政治学助教授、89年7月舛添政治経済研究所所長、2001年7月参議院議員、04年10月参議院憲法調査会幹事、05年11月 参議院外交防衛委員長、07年8月厚生労働大臣、09年10月参議院予算委員会理事(筆頭)、14年2月東京都知事当選
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