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【防災特別対談】大都市東京が備えるべき自然災害対策2016年03月20日号
司会 幣紙主筆 平田 邦彦
東日本大震災の教訓を踏まえて考えた「エアハイパーレスキュー」
平田 やがて来る、必ず来ると言われている、首都直下地震による災害を想定した備えは、年々充実してきてはいるものの、これで完全とは言えないものがあります。
さらに東京は、そうした地震災害だけではなく、集中豪雨、土砂、火山噴火、落雷、竜巻といった自然災害に加えて、世界で頻発するテロ災害、サイバーテロなど、これまでには考えにくかった事案の発生が予測されます。
都民の安全を預かる東京消防庁消防総監と東京都危機管理監にそれぞれのお立場から、現況をお話いただくとともに、都民に知っておいてもらいたい様々をご紹介いただこうと思います。
早速でございますが、東京消防庁ではこれまで以上にそうした災害対応に力点を置かれて、航空消防救助機動部隊「エアハイパーレスキュー」の設置など強化に努められています。そのあたりをご紹介いただけますでしょうか。
高橋 今年1月6日に航空消防救助機動部隊「エアハイパーレスキュー」を発隊いたしましたが、これは東日本大震災の時の教訓を踏まえて考えたものです。
我々は消防体制の強化をやってまいりましたが、基本的には陸上から部隊が入っていくんですね。しかし、あの時は陸上からアプローチできない災害がかなりあった。津波が来て、学校やスーパーの屋上に取り残された方がたくさんいました。
そのような視点で東京を見てみると、東京には超高層のビルが建っています。超高層のビルについては消防設備の基準は厳しくなっていますから、建物自体は火災を防ぐようになっていますが、東日本大震災の時にも新宿の超高層ビルが長周期の揺れで非常に大きく揺れました。そういう状況を踏まえ、空からの救助、救急、消火する部隊が必要だということでエアハイパーレスキューを発隊したわけでございます。
平田 東京都が初めてですね。
高橋 そうです。国際的に見ても消防が持っているケースはないだろうと思います。
高層ビルは消防上のシステムが強化されていますが、住宅部分についてはスプリンクラーがついてないことが非常に多い。そうすると火災が発生した場合には燃え広がる可能性がある。となると、空からの消火も必要ということで、今回、エアハイパーレスキューの新しい装備機材として、ヘリコプターに水のタンクを積みまして、毎分600リットルの水がヘリコプターから水平方向に放水できる新たな機能を付け加えました。
平田 実際にはどれくらいの量なのですか。
高橋 遠くから見た時と近くから見た時の印象に違いはあると思いますが、毎分600リットルというのはかなりの量で、1分間でドラム缶3缶を一杯にする水量になります。
平田 3・11の東京電力福島第一原発事故の時に陸自のヘリが水を撒いていましたね。
高橋 あれはバケット式と言いまして、山林火災の時にバケットで水を汲んで、バッと落とすんですね。確かに有効なのですが、水が溢れて落ちる場合がありますから、基本的に市街地は飛べません。
エアハイパーレスキューの場合は、タンクに水を入れますから水が落ちません。ですから、湖で水を積んで山にかける時はバケットを使いますが、市街地で燃えている時には使わない。シチュエーションによって使い分けます。
平田 幣紙でお付き合いのあるメーカーでは、手すりの下にLEDランプを入れて、発火源と反対方向に光が走るような商品を計画されています。また、ドクターヘリにスマホを搭載して、医者から指示が行くようなシステムを開発したという話もうかがいました。
そういう意味では、新しい知恵と言いましょうか、試みがどんどん出てくる。そういう技術の普及も減災につながるのではないかと思うのですが。
高橋 測定機器だとかICTを活用した技術は日進月歩で進んでいます。それをいかに消火設備と組み合わせるかという技術も進んでいます。
一つ例を上げれば、東京ドームのような大規模な空間では、部屋と違って煙を感知できないんですね。そういう大きな観覧施設には、赤外線や炎で感知してその距離を測定し、放水銃等で照準を合わせて一定の水を飛ばして命中させるとか、あるいは大型のスプリンクラーで命中させるといった技術が入ってきています。
技術はある。それをどういうふうに組み合わせて使っていくか。東京消防庁として、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を見据えて、研究して進めていかなければならないと思っています。
地域に密着している消防団は地域防災の要
その活動能力の充実も図る
平田 東京都は「東京防災」なるすばらしい防災ガイドブックをお作りになって、プレミアムがつくほどの人気です。反応はいかがでしょう。
田邉* 読みやすい、分かりやすいと好評をいただいています。特にニュース等で取り上げられているのは「もしもマニュアル」ですが、もしも何かあった時、この道具がこういうふうに使える、例えばペットボトルを半分に割るとお皿に代わるとか、そういう知恵や工夫が非常に役に立つという声が多いですね。
750万部を刷って各家庭に735万部配りました。有償での販売も開始しましたが、すぐ売り切れてしまい、増刷して3月1日に販売を再開したところです。某企業ではまとめて購入し社員に配りたいとか、そういう反響も出ています。
平田 昼間だけの都民もたくさんいます。その人たちにも役立つ内容ですものね。
田邉 瞬間都民は約300万プラスですから、大変な数です。
平田 「東京防災」の中でも「自助、共助、公助」について書かれていますが、共助の部分で、地域、コミュニティのバインディングが問題になっています。
例えば消防の場合には消防団がそれぞれの地域にあって、それなりの機能をしているという理解でよろしいでしょうか。
高橋 消防団の方は生業の傍らやっていただいておりますので、本当に大変なんですね。しかし、東日本大震災の時も、消防団の方が非常に活躍してくださった。消防団は我々の最大のパートナーですから、その活動能力を高めていただきたいと、指導もしていますし、装備の充実も図っています。消防団の方は地域に密着していますから、地域防災の要となると思っています。
平田 東京都としては、防災については区市町村に負うところが多いと思いますが、どのようなご指導をされているのですか。
田邉 地域防災力を高める努力をさらに推進していくために、防災隣組という認定制度を設け、都として後押しをする事業を行っています。今年で5年目になりますが、マンションの自治会組織や地域の学校を中心とした活動など、さまざまな活動を認定し、それを紹介することによって、さらに広げていこうと考えています。
地域のコミュニティは重要ですが、防災隣組の活動を見てみますと、中核になっているのは消防団員の方が多いんですね。活動を広めていく段階では消防団に依存せざるを得ないのですが、もし発災した時は消防団員の方は消防団として活動をすることになります。ですから、地域でしっかりと人を育てていく必要があると思います。
平田 外国人居住者の問題についてはいかがでしょう。
田邉 これは難しい課題です。言葉の壁もありますから、その人たちにどうやって地震の情報を伝え、どのように避難をしてもらい、どうケアをするのか。オリンピックを控え、都としても力を入れているところです。
先日、帰宅困難者の訓練をやったんですが、その際も外国人対応をしっかり入れました。「ボイストラ」という同時通訳アプリがありまして、スマホに入れているだけで「助けてください」と言うとすぐ翻訳してくれる。20カ国語が入っていて、訓練ではベトナム語を使いました。
それから、生活文化局が外国語ボランティアというシステムを組んでいて、大使館経由で外国人の方々に来ていただき、年に1回、外国語ボランティアとの顔合わせと併せて防災教育を行っています。
いかにして地域コミュニティに外国人を取り込むか。主体的には区市町村がやることになりますが、ニーズがあれば外国語ボランティアを派遣するとか、都として支援していく形になると思います。
生命の限界である72時間は各自が生き延びる
生きて、余力があって初めて共助につながる
平田 都としては、帰宅困難者は72時間はその場にいてくださいと指導していますが、どこまで市民レベルで浸透しているのでしょうか。
田邉 要は人命救助活動に対して阻害になるような行動はやめてくださいということですが、都の政策として、地域協力会、事業者、避難したビルの管理者の人たちにご支援をお願いし、3日間は生活できるよう備蓄を奨励しています。
今、予測されている帰宅困難者は、発災当初で約517万人です。そのうち会社や学校に残っていることができず、行き場のない人が92万人ぐらい残るだろうと言われています。この約92万人が3日間、一時的に避難する施設が必要になるわけですが、都や区市町村の施設、国の施設だけでは足りません。それで事業者等にいろいろお願いをしているのですが、まだ約24万人分しか確保できていません。これをどう確保していくかということも大きな課題です。
次に問題となるのは、会ったこともない帰宅困難の人たちに3日間コミュニティを作ってもらわなければならないということです。普段のコミュニティを活性化するのも難しいのに、急にできたコミュニティを3日間しっかりと機能させるよう支援しなければいけません。そのために、例えば駅前の協力会とか地域の人たち、もしくは避難した建物の管理者の人たちにコミュニティを作る支援をしてもらいます。そういうところもしっかりと訓練していかないといけないと思っています。
平田 2004年の新潟県中越沖地震の現場を取材した時のことです。避難所が開設されると、いちばん先に来るのは健常者なんですね。具合の悪い方が後から来ると、いる場所がない。結局、乗ってきた軽乗用車の中で老夫婦が一夜を明かしたというような話がありましたが、現実の問題としてそういうことは起きるわけです。
住民一人一人の良識に任せるしかないということになろうかとも思いますが、どのように指導していこうとお考えですか。
田邉 今は、基本的には区市町村が避難所を運営します。一時滞在施設ではなく地域住民の人たちが運営する避難所ですね。発災すると自治体の職員がそこにある程度派遣されて活動の運営支援をします。ただ3・11の時もそうでしたが、自治体自体も被災していますので、それが確実に機能するかどうかは分かりません。
ですから、地域のコミュニティの中には避難所運営訓練をやっているところもあります。そういうコミュニティをどんどん増やしていくのが一つの手だと思いますね。コミュニティである程度運営してもらいながら、行政とタイアップしていくというスタンスになると思います。
各区市町村には避難所運営マニュアルがあります。それを各避難所に落としながら設計をしていただいていると思いますが、スペースやトイレなど避難所によって異なりますから、それぞれで工夫してやってもらうしかないと思います。
平田 やはり、いちばん大事なのは自助・共助という部分になるんでしょうね。もっと意識をもってちゃんと準備しろと。消防庁の立場としても、自分でできることはやってくれと言わざるを得ないのではないでしょうか。
高橋 そうですね。東京消防庁は「地震その時10のポイント」というのを作って、指導しているところです。
かつては「地震、火を消せ」とお話していたんですが、今は「まず身の安全を図ってください」というふうに変わりました。けがをしては次の行動ができません。実際に揺れている中で火を消すのはけがの元です。ですから、まずは自分の身の安全を守り、次に周りの方を守ってくださいと指導しています。
田邉 自助が成立しないことには共助も成り立ちませんし、共助がしっかりしないと公助にもつながりません。
やはり、まず一人一人が防災意識を高めることが原点で、生き延びて、余力があって初めて共助につながるのだと思います。
人類の歴史を見ると、自然災害との戦い
天は自ら助くるものを助く
平田 そこで重要になってくるのが、教育と訓練ではないかと思います。
高橋 東京都の長期ビジョンにも入っていますが、今後10年間で2000万人の都民の方に防災訓練をしていただくこととしています。つまり毎年200万人の方に防災訓練をやっていただくと。
世論調査や火災予防審議会のアンケート調査等によると、防災訓練に一回も参加したことのない方が半数いるんです。なぜ参加しないのかというと、一つには防災訓練をやっていることを知らなかった、あるいは時間が合わなかった。出たくないという人もいますが、そういう人は1割程度なんですね。約9割の方は機会があったら防災訓練に参加してもいいと思っているわけです。
東京消防庁では「まちかど防災訓練」と言っておりますが、消防職員が出前して、自宅の近くで短時間で簡単にできる訓練をやっています。
また、東京は非常に地域性がありまして、一回も防災訓練をやっていない町会自治会もあります。そういうところに区市町村とも連携して働きかけをしていますが、そのツールとして「東京防災」を活用しています。
田邉 付け加えますと、小学校、中学校、高校でも防災教育をするようにしましたので、教材として取り入れています。教育機関において繰り返し教育すると、防災意識を持った大人になると思います。「東京防災」をただ配るだけではなく、しっかりフォローしているということが一つの大きな施策です。
平田 スタンドパイプという非常に有効な消火器具が登場しました。そちらの訓練も進んでいるのですか。
高橋 今は各区市町村で配布をしていますが、東京都でも水道局が応急給水セットと一緒に配布していますので、かなり広まっています。実際にスタンドパイプを使って消火した実例も出てきています。
田邉 防災訓練でもスタンドパイプの訓練が入っていますからね。
平田 ところで、発災を想定した都のシミュレーションは、自衛隊や警察を絡めたプラン作りが進められているという理解でよろしいですか。
田邉 それをにらみながらやっています。実際に機能するのか、机上の空論で終わらないためにどうすべきか、ということに取り組んでいます。
高橋 消防庁が今取り組んでいるのは、訓練の練度を上げることです。
例えば、訓練をするといっても時間が限られています。ですから、やったつもりとか、できたことにして終わらせることがけっこうある。それではダメだろうと、昨年、24時間一昼夜の訓練をやってみました。すると、これが抜けてたとか、いろんなことが分かってくるんですね。
訓練をやりながら中身とか練度を上げていくことが、今は大切だろうと思います。
平田 最後に一連の話の延長線上で、これは言っておきたいということがおありになれば。
高橋 一つあるとすれば、水害への対策があると思います。
去年は関東で、一昨年は広島で、その前の年は大島でもありました。東京の水害を考える時、堤防の決壊のようなことにも備えなければなりませんし、山間部を見れば土砂災害にも備えなければなりません。
これらはどこで起きても不思議ではありませんから、消防庁として水に対する備えは力を入れていかないといけないと考えています。
そういう土砂災害も含めて、エアハイパーレスキューは、先ほども申し上げましたように有効な部隊だと思っております。
平田 あれは本当に威力を発揮するでしょうね。
田邉 人類の歴史を見ると、自然災害との戦いだと思うんですね。そういう中で生き残っている人たちというのは、自立しているというか、自ら命を守ろうとした人たちです。
『学問のすゝめ』で著名な福沢諭吉は、翻訳本『西国立志編』で「天は自ら助くるものを助く」と言っています。幕末から明治の動乱期において、我が国が独立国として生き残る術は、災害時の混乱期と同様、自ら生き残ろうとするものを「共」と「公」は助け得る、ということではないかと思います。
また、行政には普段の業務と非日常の業務があり、社会は安全性と利便性のバランスの中で成り立っています。すなわち、完璧な安全もないし、完璧な利便性もないことを前提に、非常時には多くの人命を救うことを第一義として動いているということを、皆さんが理解しておく必要があると思います。
平田 いざ大災害が起こった時、自分の身をどう守るか。そこに尽きるということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
*田邉様の漢字は、一点しんにょうの「邉」が正式なお名前です。便宜上、上記の表記にさせていただきました。
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