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1 The Face トップインタビュー2016年03月20日号

 
サンガレン財団 特別顧問 鈴木悠二さんさん
心理的バリアを取り払って、世界に打って出てほしい。

サンガレン財団 特別顧問 鈴木悠二さん

 1960年代後半、世界の至るところで学生紛争が巻き起こっていた。今日のリーダーと明日のリーダーが同じテーブルについて議論すべきと、1970年、スイス・サンガレン大学の学生が国際会議を開催。同種国際会議ではスイス最古となったこのサンガレン会議を応援するサンガレン財団特別顧問、鈴木悠二さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

現存するスイス最古の国際会議は、学生が運営するサンガレン会議。

—サンガレン会議、サンガレン財団とはどういうものなのですか。

鈴木 スイスの首都チューリヒから車で1時間ほど、ドイツやオーストリアとの国境沿いにサンガレンという町があります。そこのサンガレン大学の学生が主催しているのがサンガレン会議です。

 第1回は1970年に開催されたのですが、そこには1960年代後半という時代背景がありました。アメリカはベトナム戦争がピークに近く、同時に撤退も考えはじめているような時。フランスではカルチェ・ラタンの若い人たち、特に学生が政治に目覚め、当時私が留学していたロンドンでも学生デモやストライキが起き、日本でも東大闘争が起こるというふうに、世界中で学生と政府、あるいは学生と世の中のリーダーの間が非常に先鋭化していました。

 そういう状況を見ていたサンガレン大学の学生が、暴力に訴えるのではなく、世の中の今日のリーダーと明日のリーダーが同じプラットフォーム、同じテーブルにつき、ディスカッションをすべきだと、この会議を立ち上げたんです。

 会議を開催するには、まず学生の参加者を募る必要があります。参加してもらう学生に対しては、宿泊代や旅費もサポートしなければなりませんから、金銭的に大変です。

 それで金銭的な支援をし、かつ毎年のテーマ設定や講演者の選定の手伝いをすることで、ベースをしっかりさせようと、1974年にサンガレン財団が設立されました。以来、財団がシンポジウムをスーパーバイズ(監督)しています。

—いつ開催されるのですか。

鈴木 毎年5月に2日間開催しています。全体会議と部門会議とに分かれていて、1000人弱の参加者全員が参加する全体会議と、30〜40人のグループに分かれて議論する部門会議が同時並行で行われます。

サンガレン会議の部門会議

30〜40人のグループに分かれて議論する部門会議

 2日間に先だって学生だけが参加する会議もありますので、それも合わせると1週間。それら全体のマネージを学生がやっています。学生の参加者を募るのも学生の仕事で、実際に日本にも毎年来ていますよ。

 参加者のうちの200人が若者で、100人が純粋な学生、残りの100人が30歳未満の推薦ベースの人です。学生はエッセイ・コンテストを受けて選ばれるのですが、世界90数カ国からアプリケーション(申込み)があり、50〜60の国から参加者があります。非常に厳しい選抜を経た若者と、600人ぐらいの政治、経済、社会、学問、ビジネスといった各界の代表が集まって議論するわけですね。

—日本からは何人くらい参加しているのですか。

鈴木 前回は、学生は70人がエッセイ・コンテストを受けて通ったのは8人でした。それから推薦ベースの9人と合わせ、若手は合計17人が参加しました。これは全参加国の3、4番目で、有力参加国ということになりますね。なお、講演者等一般参加者を含めた日本からの総参加者は28人でした。

 

社会貢献活動は互いを理解する機会。ビジネスにおいても重要。

—サンガレン財団に関わるようになったきっかけは?

鈴木 もともと僕は日本興業銀行にいたんですが、2000年にクレディ・スイスに異動したんです。

サンガレン会議での質疑応答

参加者全員が参加する全体会議での質疑応答

 そうしたら、ただちにこのシンポジウムの方から日本における顧問というかアドバイサーを探していると相談があった。ロンドン留学時代に学生紛争を目の当たりにしていましたので、この話を聞いた時に非常に臨場感があった。それで、大学の成り立ちからシンポジウムの仕組み、運営状況などを調べ、また過去の参加者に話を聞いたりして、1年考えてお手伝いすることにしました。

 しばらくやってみると、自分一人では大変だということに気がつき、サンガレン・クラブ・オブ・ジャパンという応援団を2003年に作ることにしました。メンバーはサンガレン会議に参加したことのある人たちを中心に、最近はスポンサー企業の代表の方も入っていただいています。

—本業をなさりながらでは大変でしょうね。

鈴木 そうですね。私は興銀時代にニューヨーク支店長をしていたんですけど、その時にIBJ(Industrial Bank of Japan)財団というのがあって、プレジデント・チェアマンをやっていたんです。

 アメリカにいると社会貢献活動、いわゆるフィランスロピー(Philanthropy)を非常に密接に感じるんですね。興銀関係以外でもNPOなどのアドバイザリー・ボード(諮問機関)を頼まれていたんですけど、アドバイザリー・ボードの会議に出ると、金融機関や大会社のチェアマン、プレジデントがきら星の如くいる。これはなんだろう、キリスト教の影響かと思ったりもしましたが、力の入れ方が違う。

 はたと気付いたのは、日本は業界ごとに必ず業界団体がありますが、アメリカは独禁法の関係で非常に少ない。つまり、同じ業界のトップ同士が顔を合わせることが難しいんです。ところが、NPOのアドバイザリー・ボードということになれば、そこで挨拶もできるし、話もできるわけです。

—会社の肩書は関係ないですものね。

鈴木 ビジネスの話だってしようと思えばできるでしょうけど、お互いを理解する得難い機会なんですね。そんなこともあり、僕はクレディ・スイスの会長になって、フィランスロピーという社会貢献活動をいろいろ考えました。

 その延長線上にあるのが、このサンガレン財団の活動です。日本の、特に若い人たちの今後の成長を考える時、世界と接点を持つことができるサンガレン会議を応援することは非常に大事だと思っています。

 

英語はほとんどの国で外国語。
だから、みんなそれなりに間違える。

—スイスの国際会議というと、毎年スキーリゾートで開催されるダボス会議が有名です。

鈴木 ダボス会議が初めて開かれたのは1971年なので、歴史的にはサンガレン会議のほうが古いんですよ。当時は政府と若者、政府と民間、あるいは国と国との軋轢、特に東西冷戦などがありましたから、世界のトップリーダーが同じテーブルについて話し合う必要があるということでダボス会議が始まった。サンガレン会議は、学生主催でそれを始めたということですね。

—スイスというお国柄もあるでしょうか。

昼食ビュッフェの風景

昼食ビュッフェの風景

鈴木 あると思いますね。どういう意味で中立かということはさておき永世中立国であり、EUの真ん中にはいるけどEUには入っていない。それにアメリカ、ロシア、中国等との間では距離を置いているけれども、存在意義を発揮している。ビジネスの面でいえば、世界のトップ企業が何社もある。金融機関をはじめ、食品ではネスレ、製薬ではF・ホフマン・ラ・ロシュとかね。

 また、サッカーのFIFAの本部はチューリヒ、国連の人権擁護関連の本部はジュネーヴにあるように、国際機関の本拠地としても選ばれることがとても多いです。

 さらに、地理的な関係で必然的にそうなったのかもしれませんが、独、仏、伊、それからロマニッシュという地元の言葉、これに英語を含めるとみんな最低3ヶ国語は話します。ランゲージ・バリアが少ないせいか、国民が非常にインターナショナル・マインドです。そういうこともあって、スイスでは様々な国際会議がよく開かれるんでしょうね。

—エッセイ・コンテストの言葉は英語だそうですが、日本人にとってやはり言葉の壁は大きいですか。

鈴木 それなりに長文のエッセイを書くとなると、日本は決定的にランゲージ・バリアが高いですね。でも、それは学生に限ったことではなく、政治家、ビジネスリーダー、あるいは学者もすごくある。それで、サンガレン会議の講演者をお願いするのにいつも苦労するんです。スピーチはもちろん、質疑応答やディスカッションも英語ですから、そこで腰が引けてしまう。そういう点でも、日本は国際的な人がまだまだ少ないですね。

—2018年から小学校でも英語教育が始まりますが、それについてはどうお考えですか。まずは日本語をという意見もありますし、早いほうがいいという意見もあります。

鈴木 私は早い方がいいと思いますね。可能な限り早いうちから、空気の一部みたいにいろいろな言葉に接したほうがいいと思います。

 ただ、英語はアメリカ人、イギリス人にとっては母国語ですが、その他のほとんどの国では日本と同じように外国語なんですね。だから、みんなそれなりに間違えます。英語の教科書に慣れた日本人は、文法が違うとか、これはAじゃなくてTheじゃないかとか気にしがちですが、外国人にとっては要は趣旨が伝わればいいのであって、一つや二つの文法の間違いは気にしない。クレディ・スイスに行って非常に気が楽になりました(笑)。

—間違えてはいけないという心理的バリアのほうが大きいのかもしれませんね。

鈴木 そうですね。若い人には、まずは心理的バリアを取り払って、世界に打って出てほしいですね。サンガレン会議は1週間くらいの体験ですが、国際的に通用する人材育成の一助になればと思っています。

サンガレン財団 特別顧問 鈴木悠二さんさん

撮影/木村 佳代子

<プロフィール>
すずき ゆうじ
1943年東京都生まれ。66年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本興業銀行入行。68〜70年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス留学、91年ハーバード・ビジネス・スクール経営者教育課程終了。91〜98年興銀ニューヨーク支店駐在、興銀信託(株)社長兼副支店長、同支店長となり、ナッソー支店長、ケイマン支店長も兼務。98年同行常務取締役海外本部長。2000年クレディ・スイス・グループ日本会長、08年会長退任。クレディ・スイス証券(株)監査役、サンガレン財団特別顧問、サンガレン・クラブ・オブ・ジャパン専務理事、鈴木俊一元都知事の次男

 

 

 

 

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