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仕事に命を賭けて Vol.912016年01月20日号
海上幕僚監部 防衛部施設課長 一等海佐
富田 清浩
文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。海上自衛隊のあらゆる活動のベースとなるのが、日本各地に設置されている基地である。そこの設備の保守管理から増改築までを担うのが、施設課といわれる部署だ。キャリア20年以上の担当自身が「異色」と語るその任務があるからこそ、海自の「命を賭ける」仕事は成立するのだ。
(取材/種藤 潤)
拠点となる基地全般の建設と維持管理が任務
海上自衛隊の装備品といえば、まずは艦艇、次いで航空機に注目が集まるが、それらが円滑に活動を行うためには、拠点となる基地及び装備品等の諸設備の存在が不可欠である。それらがきちんと管理され、必要に応じて増改築等されることで成り立っているわけだが、そうした業務を担う施設課という部署は、一般的にあまり知られることはない。
「私自身、施設課一筋で今日まで来ましたが、海自内でも“異色”の職種だと思います」
キャリア27年を誇る富田清浩1佐自身が認める通り、その業務は直接的な防衛に携わることは少なく、むしろ不動産デベロッパーに近い。ただその内容は、防衛業務とは異なる厳しさ、過酷さが求められていた。
しぶとさ、粘り強さがこの業務では求められる
施設課は各基地に配置されている。そこでは基地内にある艦艇が接岸する岸壁や、航空機の離着陸場や格納庫、さらには基地全体の電気系統や熱源、水設備など、基地に関するあらゆる設備の保守管理を行い、必要に応じて修理、増改築も行う。
「基地は国有財産ですから、我々施設課は限られた国の予算内で既存の施設の保守を行っています。また、増改築等する必要があればその必要性と予算を国に提案し、土地確保から設計、建設までを管理します」
ここで大切なのは、隊員たちが任務を快適かつ安全・安心な状態で行える環境を整えることはもちろん、その活動を周辺地域へ理解してもらうことである。
「整備次第では、隊員たちだけでなく、周辺住民の方々の命に関わる事故にも繋がりかねませんから、緻密かつ正確な業務が求められます。一方で、地域住民はもちろん、近隣の漁業関係者、地元関係業界などの理解があって、はじめて基地は存在できます。そのためには地元自治体等と緊密に連携をとるなど、常に関係者の理解を得る必要があります。特に新たに施設を建設する場合などは、納得していただけるまで数年、十数年かかることもあります。しかし、近道はありません。時間をかけじっくりと取り組む粘り強さが求められるのです」
大切なのはものづくりを好きになること
富田1佐自身、横須賀基地での隊の宿舎新設を皮切りに、各地の基地施設の建設・維持管理に携わってきた。その間には解決の糸口すら見えないような、理不尽な内容のものも少なくなかった。しかし、その言葉通りしつこく粘り強く対応することで、周辺地域からの理解を取り付けてきたという。
「一生懸命やってもその時点で解決しないこともあります。しかし時間が経てば、驚くほど簡単に解決することもある。大切なのは、あらゆる物事を大きな視点で見ること。地域全体の経済を考え、それぞれの利益を想定し、その中で基地の存在の必要性を丁寧に伝えていけば、結果は見えてくるものです」
現在は全国の施設課の任務を把握し、予算等を調整する立場にいるが、やはりこの仕事は現場にこそやりがいがある、と言い切る。
「施設課は、結局はものづくりですから、特に増改築等の施設が完成した瞬間の達成感は、何にも代えがたいものがあります。逆に言えば、その達成感があるからこそ、粘り強く対応し続けることができる。若い隊員には、とにかくものづくりを好きになれ、と伝えるようにしています」
まさに、ものづくりニッポンの縁の下の力持ち的存在。彼らが粘り強い仕事をしているからこそ、海上自衛隊は命がけの任務を行えるのである。
- 【プロフィール】
- 1960年8月北海道生まれ。室蘭工業大学にて土木を専攻。修士課程をへて一度は就職するも、1987年に幹部候補学校に入学。1989年に横須賀地方総監部にて施設課のキャリアをスタート。以後大湊、八戸、舞鶴、佐世保、硫黄島など各基地や海上幕僚監部にて施設整備を担当。2008年には再編された南関東地方防衛局の補佐官にもなった。2013年7月より現職。
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