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大庭麗のイタリア食材紀行 第17回2015年10月20日号
第17回 週末は郊外で自然を満喫するイタリア人的生活
久しぶりに小さな姫りんごを食べたら、イタリアの野生のりんごの味を思い出しました。
イタリアでは、郊外に別宅を持っている人の割合がとても多く、週末など、まとまった時間を見つけては、“カーザ・ディ・カンパーニャ”と呼ばれる、海や山、ま た森などにある田舎の別宅を訪れる習慣があります。日常の喧騒から離れて、束の間の自然を楽しむ、そんなカーザ・ディ・カンパーニャの話を聞いていると、だいたい その人たちの嗜好や性格が見えてきます。
夏は海で日差しを満喫する派と、山での避暑派。秋はキノコ狩りや、シーズンが解禁する狩猟、そのほか釣りやトレッキングなどを行うアクティブ派と、ただ自然を感 じて、のんびり読書をする人や、特に何もしないという人もいます。
彼らにとってのその滞在は、あくまでも日常の延長のようなごく普通のことであり、あえて別宅に行ったことを自慢げに話す人は、ほとんどいないように思います。
ある日“カーザ・ディ・カンパーニャの裏の森で収穫してきたの”と珍しい野生のりんごを食べさせてもらいました。ほとんど手入れもされずに育った、原種に近い野 生のりんごは、形もいびつで、酸味が強く、市場に出回る果物に比べると、やはり甘さが劣るなどと言われます。しかし私は、その豊かな香りと繊細で複雑な味をとても 気に入りました。
そんな私を見て、若干不思議そうにしていた友人たち。小さな頃から、森に行っては何気なく食べてきた野生のりんごを絶賛されたことは、彼らにとっては驚きととも に、嬉しくもあったのでしょう。その後もしばしば、そのりんごを収穫してきてくれたり、その土地の伝統的な野生のりんごを使ったお菓子の作り方を教えてくれたりし ました。
今でもイタリアのその友人宅を訪れると“好きだったでしょ?”とわざわざ収穫してきた野生のりんごを用意しておいてくれることもあり、いつのまにか、私にとって も懐かしい、特別な味になっています。
<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>
東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。
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