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大庭麗のイタリア食材紀行 第12回2015年05月20日号
第12回 南イタリア ナポリ発祥のビックサイズのショートパスタ
南イタリア、ナポリの地域に伝統的に根付いた“クリナリア・パルテノペア(パルテノペ美食法)”を起源とするパスタ、“パッケリ”。
古くは、そのパスタの大きさ(縦5㎝、横幅3㎝)とボリュームから、少しの数でお皿を充分に満たし、満腹感が得られる、貧民のためのパスタと呼ばれていた時代もありました。この地域の方言で“平手打ち”という意味も持っています。その理由は、たっぷりのソースと絡めるこのパスタの調理法にあり、鍋の中で混ぜ合わせたり、お皿に盛り付けた際に生じるその独特な音が、平手打ちの音に似ているからだそう。イタリア人の想像力や独創性には面白い感覚があるものです。
17世紀、ナポリの地にトマトが上陸し、それを機にそれまでの味付けの定番であった、野菜のソースやアグロドルチェ(甘酸っぱい味付け)に、トマトを用いた新しい味わいが加わりました。パスタの持つセモリナ粉の味わいをより引き出し、口の中に広がるトマトとパスタのハーモニーは、この地域の料理のスタイルを大きく変えたそうです。なかでもパッケリは、そのザラザラとした大きな表面に、ほどよく絡むトマトとの相性が格別と言われてきました。
このように、イタリアの人々にとって、パスタの形状とソースの相性はとても重要とされています。それは形状や生地の厚みの違いから、口の中で感じるパスタ本来の小麦の味の強さが異なるからで、ソースとパスタには譲れない黄金の法則のようなルールがあります。
「このソースに合わせるパスタは何がいい?」とは、イタリアの日常ではよくある質問ですが、多くの場合、その模範解答となるパスタの形状は、すでに決まっているように思います。そして正解を答えると、“この外国人なかなかわかっているな”と言わんばかりに、満足気に頷かれる。そんなイタリアパスタ道。
パッケリの美味しさを理解しはじめた頃、その法則の意味が少しだけわかり始めたような、そんな記憶のあるパスタです。
<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>
東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。
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