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大庭麗のイタリア食材紀行 第9回2015年02月20日号
第9回 イタリアの冬の過ごし方ー暖炉
この時期、ふとした瞬間に、イタリアの冬の空気と同じ香りを感じて、イタリアの冬を思い出すことがあります。地中海の温暖な気候のイメージが強いイタリアですが、実際は南部でも毎年降雪があり、伝統的な石畳の街並みには、身体の芯から冷える寒さがあります。
そんな冬の時期、イタリアでは、暖炉に火をともす習慣があります。もともと暖炉のある住宅が多く、アパートやマンションでもよく見かけられます。薪と一緒に、剪定した際のオリーブの木や葡萄の木をくべることもあり、寒空の中を歩いていると、各家庭の煙突からは、さまざまな木が燃える独特な香りの煙が立ち上り、その香りに、心が一瞬温かくなる気がします。
部屋を暖め、暖を取ることのほかに、暖炉の脇でパンの表面に焼き色をつけてブルスケッタ(焼いたバゲットの上に具材を載せたもの)を準備したり、肉や魚を炭火焼きの要領で焼いてみたりと、普段とは違った調理法で暖炉のある生活を楽しんだりもします。
そして焼き栗もまたこの時期の定番。暖炉を囲んで焼き栗を食べながらのお喋りは、イタリアの冬ならではの光景です。
そもそも古くは多くの家庭で、煮込み料理をはじめ、豆類を煮込むのに暖炉の火が伝統的に用いられてきました。“暖炉の消し炭の上にテラコッタの鍋を置いておくと、とろ火でゆっくりと火が入って、数時間後には料理が完成していたものよ”と、年配の方から、そんな話を聞いたことが何度もあります。暖炉での調理は、その独特なとろ火加減のほか、薪を焼いた際の煙の香りが若干料理に残り、特別な美味しさになるのだそう。
“冬は寒いけれど、暖炉に火をともせるから好きよ”というイタリア人の言葉に納得。暖炉はまさに、心も身体も温まるイタリアの冬の伝統的な生活スタイルです。
<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>
東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。
タグ:大庭麗 暖炉 焼き栗 ブルスケッタ