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NIPPON★世界一 The73rd2015年01月20日号
日本にある世界トップクラスの技術・技能―。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。新年を迎え、都内の多くの企業が2020年に向け始動していることと思うが、東京オリンピック・パラリンピックのワールドワイド公式パートナーであるパナソニックは、いち早く活動を本格化、2020年を見据えた東京の新たな都市構想まで描いていた。その全体像を実現するための同社の取り組みの一部を、2回にわたりお伝えする。
(取材/種藤 潤)
パナソニックとオリンピックとのつながりは深く、長い。1988年、カルガリー冬季五輪からパートナー関係がはじまり、以来、映像音響機器をスポンサーカテゴリーとして大会運営をサポートしてきた。そして2020年東京オリンピックを含め、2017年から2024年までオリンピックのワールドワイド公式パートナーを延長し、映像音響機器だけでなく、白物家電と電動アシスト自転車も対象カテゴリーに加えた。またパラリンピックに関しても、1998年以来、ローカルパートナーとして映像音響機器のサポートを行ってきたが、昨年10月からワールドワイド公式パートナーシップ契約を締結。結果、オリンピック・パラリンピック双方で大会運営を全面的にサポートできる体制が整った。
こうしたなか同社は、昨年より社内に「東京オリンピック・パラリンピック推進本部」を設置。2020年に向けて新たな技術・サービスの開発および関連ビジネスの拡大に、全社を挙げて本格的に取り組みはじめた。
2020年をトリガーに後世に残る東京の街をつくる
同推進本部の北尾一朗副本部長は、オリンピック・パラリンピックという国際的なイベントを開く立場で東京という都市を捉えると、多くの課題が浮かび上がると言う。
「海外の人への言語の対応、都心部の渋滞、災害対策、テロなどに対する安全面、バリアフリー……東京には改善すべき課題が山積しています。そのような観点で都市機能全体を2020年に向けて整備することが、結果としてオリンピック・パラリンピックの成功につながると考えます」
そのような課題を解決する手段として、同社では次の5つの「おもてなしソリューション」を提案している。(1)電動アシストによるエコでバリアフリー・渋滞フリーな都市生活(2)太陽光発電やミストの暑さ対策など、エコでスマートなエネルギー供給が支える快適な暮らし(3)自動翻訳をフル活用した言語の壁がない観光先進都市(4)オールマイティーな機能の決済PFで観戦も移動も買い物もキャッシュレスに(5)より安全で心地よさも担保したセキュリティ―そしてこれらはオリンピック・パラリンピックにとどまらず、それ以降の東京に待ち受けている“少子高齢化・成熟社会”に対応した持続可能な都市形成につながると、北尾さんは語る。
「2020年に向けた都市整備はトリガーに過ぎません。一過性でなく後世に残る“レガシー”の形成が必要であり、我々の真の使命は、技術とソリューションによる2020年以降の理想的な都市生活の提案だと考えています」
電動アシスト自転車こそ東京に適した未来の交通手段
東京の都市整備のソリューションとして冒頭に掲げられるのが、「(1)電動アシストによるエコでバリアフリー・渋滞フリーな都市生活」だ。その事業の中核を担うのが電動アシスト自転車だと、戦略企画グループ プロジェクト統括チームの井上英紀チームリーダーは、自信を持って言い切る。
「自転車には3つの利点があります。まず、渋滞を解消し環境の負荷を軽減すること。次に、運動にもつながり、健康・医療面にもメリットがあること。最後に、免許が不要で高齢者でも海外からの来訪者でも、すぐに利用できること。そしてこれらの利点が最も効果的に発揮できるのが、東京の都市部です。その上東京は坂道が多いので、電動アシスト自転車が力を発揮し、公共交通を支える交通手段となることが期待できます」
この電動アシスト自転車を活用しながら、すでに世界で普及しつつある「シェアサイクル」の定着を、2020年の東京の街づくりに組み込みたいと、井上さんは意気込む。
「すでに都内でも区単位でシェアサイクルの社会実験が行われていますが、いずれも小規模で特定の地域内でしか利用できないなど、利便性や事業性の観点でまだまだ改善や発展の余地があります。東京都心部での広域サービス展開には様々な課題がありますが、公共性の高い交通手段として行政面でどのように位置づけ推進していくか、民間企業の創意工夫や企業努力をどう活かしていくか、官民の連携・協力が、東京に適した社会システム構築にとって大きなカギになると思っています」
実は関わり深い自転車事業 ジャパンメイドの品質
映像音響機器・家電メーカーの印象が強い同社だが、実は自転車事業との関わりも深い。創業者である松下幸之助氏は、若かりし頃自転車店に奉公し、1923年には自転車用ランプを発売。1952年にナショナル自転車工業を設立し自転車事業へ参入、今日に至る。電動アシスト自転車は1996年に市場参入、2013年時点で国内シェア4割以上を占める。
同社の電動アシスト自転車の最大の特徴は、一貫した国内製造へのこだわりだ。その品質をオリンピックを契機に世界にPRしていきたいとも、井上さんは話す。
「グループの特色を生かし、開発から製造、信頼性試験に至るまですべて国内工場で行っています。まだまだ進化の余地がある分野だと思うので、2020年に向けてさらに開発を重ね、同時に充電場所の拡張など、環境の整備にも取り組みたいと思います」
これまで主婦層が中心だったマーケットを拡大すべく、中高生を含めた若者層を中心に、年齢を問わず気軽に街乗りできる新商品『Ene Mobile』も発売。一方でこれまで電動アシスト自転車に馴染みのない人への普及活動も積極的に行っている。
「ほとんどの人が利用したことがなく、でも一度乗るとその価値に気づくのも電動アシスト自転車の特徴。その価値を広めるのも我々の使命であり、その先に我々が思い描く“エコでバリアフリー・渋滞フリーな都市生活”の現実があると思います」
次号ではもうひとつの注目ソリューション「(5)より安全で心地よさも担保したセキュリティ」に迫る。
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