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NIPPON★世界一 The70th2014年10月20日号
日本にある世界トップクラスの技術・技能―。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。2012年12月に起こった中央自動車道・笹子トンネルでの天井崩落事故に象徴されるように、全国のライフラインの老朽化が問題となっている。下水道もそうしたライフラインのひとつだが、その更生手法として、これまでにない革新的な手法が誕生、各地で導入が進められている。
(取材/種藤 潤)
「大げさでなく、早急に手を打たなければ、東京の下水道は10年、20年後、大変な状態になりますよ」
そう語るのは、従来にない下水道管路更生工法『Kana Slip工法』を生み出したカナフレックス コーポレーション株式会社代表取締役の金尾茂樹社長。これまで各地の老朽化した下水道を補修してきた実績を持つが、全長約1万5900kmにも及ぶ下水道網を持つ東京こそ、緊急を要する状況にあると語気を強める。
「すでに都内各所で、老朽化した下水道の破裂事故が多数発生しています。にもかかわらず下水道の補強は一部しか進んでいない。『KanaSlip工法』を活用して、少しでも多くの都内の下水道を安全な状態にするのが、我々の使命のひとつだと思っています」
工場で製造した製品を下水道にそのまま引き込む
現在、全国で法令耐用年数である50年を超えた下水道の管路は、約1万1000km存在すると言われている。それに対し補強等の更生ができているのは、全体の4%の約450km(数字はすべて2012年)。ちなみに東京に限ると、耐用年数50年を超える下水道は、全長の約1割に当たる1500kmにも及ぶと言う。
対応が進まない要因は、従来工法だと莫大な時間と手間、コストがかかることにある。代表的な工法のひとつに、道路を掘り起こして工事する「開削工事」があるが、掘削するために時間も手間もコストもかかる。
近年は開削せずに管路に引き込む「非開削工法」も用いられるが、下水道の構造上、半製品の状態の材料を管路の中に入れ、特殊機材を用いて熱や圧力を使って製品を完成させるので、現地での作業にばらつきが出やすく、かつ特殊機材を用いるコストもかかる上、機材の設置スペースを確保する必要も出る。
この「非開削工法」のデメリットを、極めてシンプルな発想で解決したのが『Kana Slip工法』だ。これは従来の「非開削工法」のような半製品状態でなく、完成した製品をそのまま管路に引き込むだけで作業は完了するので、品質も安定、さらに大幅な時間短縮と低コストを可能にするという。
「この工法なら、従来よりもコストを1/3以下にできる上、作業時間を1/5に短縮することが可能になります」
シンプルだからこそ製品化が難しい
当然ながら、下水道に引き入れる製品は、従来管路に使用されているコンクリートなどに匹敵する強度を持たなくてはならない。一方で下水道の構造上、直角に曲げなければ引き入れることはできず、強度としなやかさという矛盾した要素を両立させなければならなかった。それを工業用品・電設資材・土木資材を手がけてきた同社の技術力を集結し、8年の歳月をかけて製品化を実現した。
「8年間、何度も試作品を現場で試し、そのなかで課題を聞き取り、強度・しなやかさはもちろん、工事のしやすさも含め改良を重ね、今日の製品にいたります」
その実力は、実際に取り入れてもらうとわかる、と金尾社長は自信を持って言い切る。実際、これまで鎌倉市、秋田市、金沢市など全国各地で導入されているが、品質の高さもさることながら、大幅なコストと時間の削減につながり、驚かれていると言う。
世界都市を目指すには老朽インフラ対応は急務
冒頭で金尾社長が危機感を募らせた背景には、近年、全国で増加傾向にある「ゲリラ豪雨」の存在もあるという。
「そもそも東京の下水道は、ゲリラ豪雨を想定して作られていません。老朽化が進んだ状況の下で排水能力がパンクしたら、東京は大変なことになる。そのためにも下水道を含めたライフラインの再構築は、すぐにでも着手しなければならない課題です」
さらに東京は、2020年にオリンピック・パラリンピックという世界的イベントも控える。世界に東京の都市力を発信する絶好の機会だからこそ、安全・安心の下水道環境を抜本的に整備しなおすべきだと、金尾社長は声を大にして語る。
「そのためには、下水道の関係事業者が総出で取り組まなければ間に合わないと思います。我々の『KanaSlip工法』が、ひとつの選択肢として力になれれば嬉しいです」
タグ:カナフレックス コーポレーション株式会社 KanaSlip工法 下水道管更生工法