HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.81 学校法人日本航空学園 理事長 梅沢重雄さん
1 The Face トップインタビュー2014年09月19日号
公益財団法人JAA人間力育成協会 会長
学校法人日本航空学園 理事長
梅沢重雄さん
就職率100%。毎年、卒業生の数を上回る求人がある学校がある。それだけ社会で評価される人材を育てているのは、働くことの意味、責任感、表現力―つまり、人間力を向上させる教育。40年以上教育に携わり、NGOのボランティア活動や会社経営など、様々な経験を経て心の器が大きくなったと話す学校法人日本航空学園理事長、梅沢重雄さんにお話をうかがった。
(インタビュー/津久井 美智江)
愛というものは段階を追って教えていかなければならない。
—パイロットや整備士が足りない、今後ますます足りなくなると問題になっていますが、実際はどうなのですか。
梅沢 現在、JAL、ANA以外に独立系のエアライン、例えばフジドリームエアラインズ、スカイマークエアラインズがあり、LCCもどんどん飛びはじめています。それに、定年退職者が増えていますし、日本もそうですけれども、旅客数が世界的に増えています。
20年後の予測では、世界では新造機が3万6770機ぐらいになり、パイロットは約51万名不足し、整備士は116万名必要になると言われています。さらに日本製の飛行機の開発が成功すれば、メーカーの航空技術者が多数必要になります。
国土交通省の航空政策においては、安全を追求するということで、パイロットや整備士の規制や規定のレベルをものすごく高くしているんですね。それこそ、整備士になるには、3年間土日もなく勉強をしないといけないくらい大変なんですよ。しかし、就職率は100%。毎年10月にはほとんどの卒業生は内定します。エアライン、メーカー、グランドハンドリング、CA、GSなどです。
—人の命を預かるわけですから、それは大変だと思います。
梅沢 アメリカなどは合理的で、これだけ知識があればいい、これだけ技術があればいいというのがきちっと決まっていて、そのことだけを覚えればいいんですが、日本は大学の受験みたいに落とすための試験で、やらなくてもいいような教育もしなければいけない。あまり難しいから整備士になるのがだんだんいやになってしまうんですね。
それに、日本ではオフィスの中で働くのが当たり前のようになってきて、寒いところや暑いところで、あるいは真夜中に、航空機を安全に整備するという厳しい仕事がだんだん敬遠されるようになってきた。
それは、日本の教育そのものに、使命感を持って働くという教育、国を、あるいは社会を構成する一員として、何か一つの部門を担当して役に立つという教育が不足しているからだと思うんです。
—学校の案内を拝見して、航空の技術を学ぶ学校なんでしょうけれど、人間を鍛えるというか、心の有り様を大事にしている印象を受けました。
梅沢 本学は82年間の伝統教育の中で、まず働くことを教える、責任感を教える、表現力を教える、人間の器を大きくすることを教える―そういう人間力を向上させる教育をこれまで一生懸命やってきました。
それから、道徳教育や規律訓練をする一方で、自分を愛する、家族を愛する、地域を愛する、国を愛する、さらには人類を愛する、自然や動物を愛するというように、愛というものを段階を追って教えていかなければならないと思っています。ところが、今の教育は、人類愛だったら人類愛だけを主張するから、地域や国がどっか行ってしまう。自然愛だったら自然愛だけを主張するから、人間愛がどっか行ってしまう。
その教育が欠けているから、くだらない闘争になったりしているのではないかと思うんです。だから、せめて教育の場でそういう価値観というか、何が正しくて何が間違っているかをしっかり教えなければならないと思っています。
企業に求められる人材、それは人間としてたくましいこと。
—そんな教育の賜物でしょうか、貴学の就職率は100%、すごい求人数があるそうですね。
梅沢 日本航空大学校(能登空港キャンパス/石川県輪島市)、日本航空専門学校(千歳キャンパス/北海道千歳市、白老町)、日本航空高等学校(山梨キャンパス/山梨県甲斐市、能登空港キャンパス/石川県輪島市)、東京サテライト(東京都墨田区)の他に日本航空高等学校通信制課程がございますが、ありがたいことに、企業が欲する人数に本学の卒業生の数が足りない状態です。
いずれの学校も学生は企業訪問はせず、企業が来校して企業グループ別のブースを設けて、生徒に説明をしていただき、そこで希望を出し合って決めていくという形をとっています。
—どんなところが求められているのでしょうか。
梅沢 一番はたくましいということでしょうか。それに、返事はきちっとしますし、挨拶もできます。どこかに行く時は行ってきますと申告し、終わったならば帰りましたと報告をする。
日頃の学校生活の中できちんとしつけをしておりますので、そういった社会人として当たり前のことが、本学の学生は自然にできるんですね。そこが、多くの企業から人材を求められる点ではないかと思っています。
—それだけ社会で評価される人材を育てる秘訣は、どういうことだとお思いですか。
梅沢 まずは規律と自由です。飛行機が大空を自由に飛ぶためには、航空法を守り、運航規則を守り、整備基準をしっかり守って、運行することが基本です。それらはすべて人間が操っているわけですから、操る人間の人間性がしっかりしていないといけないですよね。だから、本学は規律に関しては厳しいです。
ただし、厳しいだけではなくて、たとえば服装に関してはレベルがあって、制服制帽白手袋のレベル1、観閲式とか卒業式とかそういう時もありますし、レベル4というジーパンにTシャツで登校してもいい日があります。レベル5になると猛暑対策なので、半パンツにクロックスでもいいんですよ。そんなドレスコードを教務からHPやLINEで流すんです。明日はレベル4だから、制服でなくていいんだとか、明日は重要な来賓の視察があるからレベル2だとか。
—そんなふうに基本的なマナーや社会的なルールというものを学べたら楽しいでしょうけど、一方では厳しいわけで。退学する生徒はいないのですか?
梅沢 ほとんどいませんね。たとえば今年は、能登空港キャンパスの高等学校の1年生は夏になってもまだ中退者0です。夏休みが終わり、全員が元気に帰寮、登校しました。他のキャンパスでは数名程度でしょうか。
最近は夏休みが終わると生徒が半分しか学校に出て来なくて、担任が一生懸命家庭訪問するという話も聞きますが、本学はそういうことはありません。決まったことをきちっとしていれば、あとは楽しいんですよ。
—まさに規律と自由。規律があるからこそ、自由が楽しめるわけですね。
梅沢 そうですね。だから生徒は学校が楽しいんじゃないかと思います。
自分を許せば、相手も許せる。
許すことで、開放される。
—全寮制ではないと思いますが、寮生と自宅から通っている生徒の割合はどれくらいなのですか。
梅沢 平均して10%ぐらいが通学しています。山梨キャンパスはだんだん多くなって30%ぐらい、能登空港キャンパスは2、3%ぐらいです。
学校って特殊な世界で、先生は聖人君子で、生徒は本音で語らないものですが、本学では教師と生徒が本音で語るように指導しているんですよ。ですから、担任は夜、寮に行って寮監室に生徒を呼んだりして、お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さんの役割を果たしています。
職員室の教員同士の机も距離を置いて、なるべく生徒と話ができるように工夫しています。だから教員と生徒の仲がものすごくいいですね。
—学校行事がいろいろあることも影響しているのでしょうか。
梅沢 人間としての喜怒哀楽が大事だと思っているので、学校行事を多くしているんです。学園祭をはじめクリスマスパーティやサマーカーニバル、学園内にパーティルームがあるので、そこで生徒主宰のパーティをやらせるとか、あるいはクラス別のダンスコンテストや英語の合唱コンクールをやるとかね。人前で歌ったりしゃべったりして自分を表現することはすごく大事だと思うんですよ。
—クラブ活動やイベントを通して、社会人として必要なチームワークが鍛えられていくのでしょうね。
梅沢 クラブ活動でもイベントでも、立場は3つあるんです。自分の立場と相手の立場、リーダーの立場と部下の立場、自分の立場と同僚の立場。いろんな立場がある中で、全体としての立場も主張していく。学校は、授業やクラブ活動、行事を通して、そういうことを教えていくところだと思うんですね。
今はIT社会で、家族間でさえ会話がなくなっています。せめて学校にいる間は、一緒に歌ったり、踊ったり、ケンカをしたりと、濃い人間関係を持たせてあげたいですね。
—そうやって日本の企業が欲しがる人材が育っていくんですね。
梅沢 そうですね。常に多面的に物事を見られるようになるには、いろんなことを経験する必要があります。
ですから、教師には、この生徒はこうだと決めつけてはいけないと言っています。たとえば、この生徒とはどうもうまくいかない。そういう時は、その生徒の生まれ育った環境、両親の性格、地域性、そういうものを理解しなさい。人間そのものを理解すれば、嫌いな人間っていなくなると。教師は大きな心をもって、生徒と接しなければならないんですよ。
でも、難しいし、すごく悩む。だから、まず自分を許せと。失敗もあるかもしれないけど、まず自分を許せば楽になるし、相手の罪も許せる。許すことで、解放されるんですよ。あまり物事にこだわったり、とらわれたりしすぎると、そこからトラブルや苦が生じるものなんですね。
40年以上教育に携わり、NGOのボランティア団体でルワンダやソマリアの救援活動に関わり、会社を経営したりと、いろんな経験を経て、心の器が大きくなったように思います。だから、今の一番の仕事は、先生の担任なんですよ(笑)。
<プロフィール>
うめざわ しげお
1952年生まれ。日本航空工業高等学校航空整備科、明星大学人文学部心理教育学科卒業。自衛隊幹部候補生学校、アメリカをはじめとする海外の大学、高校の視察研修を繰り返し、独自性、革命性、超時代性を目標に学校経営、教育に努めている。75年、祖父、父が創設した学校法人日本航空学園に教諭として勤務、92年より同学園理事長に就任。全国学校法人立専門学校協会副会長、私学共済事業団運営委員などを歴任し、現在、公益財団法人JAA人間力育成協会会長、NGO国境なき奉仕団相談役、山梨県青年海外協力隊を育てる会会長、中国西部国際博覧会組織委員会国際顧問などを務める。著書に『15歳からのオンリーワン教育』『雄飛台の青春』『教育の原点』『不登校の子ほど良く伸びる』(自費出版)などがある。
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