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1 The Face トップインタビュー2014年04月20日号

 
コドモエナジー株式会社 代表取締役社長 岩本泰典さん
いろんな方とのご縁が、 僕の財産です。

コドモエナジー株式会社 代表取締役社長 岩本泰典さん

 「人にやさしいものづくりをしたい」と誘われ、それまで縁のなかったものづくりの会社を一緒に設立した。ところが草創期にパートナーが急逝。捲土重来を期していた時に出合ったのが、自然発光する有田焼。後に「ものづくり日本大賞」に輝くことになる蓄光建材「ルナウェア」だ。今年5月、災害時に人の命を救う製品の量産拠点となる工場を、福島原発20㎞圏内の福島県川内村で稼働させるコドモエナジー代表取締役社長、岩本泰典さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

自然発光する焼物に衝撃を受け、これを製品化したいと思った

—「コドモエナジー」という社名がユニークですね。

岩本 未来の子どもたちに向けて、やさしいものづくりをしようという願いを込めて名付けました。子どもにやさしいものは、人にもやさしく、環境にもやさしい。子どもはすべてにつながるということですね。

—具体的にはどのようなものをつくっているのですか。

岩本 日光や蛍光灯の光を吸収して蓄え、暗くなると自然に発光する蓄光建材「ルナウェア」という製品です。これは400年の伝統をもつ有田焼の釉薬を塗る技術を応用して、蓄光顔料を磁器製タイルに厚く焼き付けた高性能な蓄光タイルで、磁器での製品化に成功したのは世界初です。

今年5月に稼働予定の福島県川内村の工場

今年5月に稼働予定の福島県川内村の工場

—「コドモエナジー」を設立するまでは、ものづくりとは関係ない世界にいらしたそうですね。

岩本 ずっと建築関係の仕事に携わってきました。父親が住宅設備の工事会社をやっていたので、高校を卒業してすぐにその会社に入り、ユニットバスの職人として働きました。

 4、5年もすると仕事はほぼ覚えますから、今度は商売を勉強したいと思い、そこで身に付けた技術を活かしてユニットバスの工事請負業を立ち上げたんです。

—お父様のお力添えはあったのですか。

岩本 父からは「施しはしない、自分のことは自分でやれ」と言われていたので、仕事は自分で取るしかありません。北海道から沖縄まで飛び回り、同業者が避けるような仕事、つまり非常に難度の高い仕事や面倒なクライアントの仕事を請け負うことで業績を伸ばしていきました。やがて、商社と組んで独自の流通形態を構築するようになると、人脈も広がりノウハウも蓄えられてきました。

 そんなたくさんの出会いのなかで、「コドモエナジー」設立のきっかけとなる大手建材商社の営業本部長とご縁をいただいたんです。

 「人にやさしいものづくりをしたい。ついては、会社を共同でつくってもらえないか」と相談を受け、その方と一緒に2004年に「コドモエナジー」を立ち上げました。

 スタートは、良い技術をもち、かつしっかりと裏付けされた開発商品を、費用を払って弊社のブランドとして独占販売させてもらおうという知的財産ビジネスでした。

週に一度は福島に足を運んでいる岩本社長

週に一度は福島に足を運んでいる岩本社長

 ところが、2年目に一緒にスタートしたパートナーが急逝してしまった。私はどちらかというと工事上がりで、パートナーはどちらかというと営業主体。いちばん肝心なお金を握っていた人がいなくなってしまったので、いったん休眠状態にすることにしました。ただ、いずれは自分の力でもう一度コドモエナジーを復活させよう思っていました。

—復活のきっかけはなんだったのですか。

岩本 有田焼の窯元を紹介されたことです。自然発光する焼物を初めて見た時の衝撃は今も忘れられません。これを製品化してみたいと思い、窯元と一緒に動き出しました。それが「ルナウェア」なんです。

 

技術は進化していくが、創業者の会社への思いは進化してはいけない

—「ルナウェア」は2012年の「第4回ものづくり日本大賞」を受賞されたそうですね。

岩本 賞をいただいた時に何人かの方から「この賞は『技術』や『製品』に対してではなく、開発を成し遂げた『人』に対して与えられるものだ」と言われました。それから、「皆さん賞をもらったらそれで終わるけれど、岩本さんにはそれを一つの形にして世の中に出していく力がある」とも。

 東日本大震災から約1年後のことでもあり、大災害が起きた時に多くの命を救うことができるこの「ルナウェア」を製品化することは、会社をつくった本来の目的でもあり、僕らに課せられた使命なのではないかと強く思いました。

 そのためにも工場をつくって量産したい。経済産業省に相談に行くと、福島に工場をつくってくれないかと言われたので、すぐに福島に飛びました。福島空港からカーナビを頼りに行った先が、実際に工場をつくることになった川内村です。

—福島原発の近くですよね。

「ルナウェア」を使った避難サイン。電気なしでも8時間以上光り続けるので、災害時にも威力を発揮する

岩本 20㎞圏内のところでは、当時は川内村しか入ることができなかったんだそうです。今思えば、何かに導かれたのかもしれません。この工場が福島の復興の一助になればと思っています。

—雇用にもつながるわけですから、現地の方はさぞ喜ばれたでしょうね。

岩本 そうですね。すでに7名を雇用しました。今は5月末の稼働に向けて週一回は福島に行き、一緒に汗をかいているところです。普通の会社ですと社長はどんと構えていて、番頭さんが動くのでしょうけど、自分の思いを伝えて、その思いを共有して一緒にものをつくっていただきたいのでね。そうしておけば、いつ僕に何かあっても、思いはそこに残っていますから。

 会社は何が継承されていくのかと考えると、やはり創業者の思いだと思うんです。技術は自ずと継承されていくでしょうし、進化していくものでしょうけど、思いは進化してはいけないと思うんですよね。だから、僕が今やるべきことは、その思いを一人でも多くのスタッフに伝えていくこと。そして、その思いを周りの皆さんにご理解いただいて応援していただくことだと思っています。

 

川内村の工場とゲストハウスが福島の復興の一助になってほしい

—福島の実情はどんな感じですか。

岩本 被災三県といわれますが、福島は原発事故というもう一つの問題を抱えていますから大変ですよね。

 国だけではなく、僕たち民間も正面から向き合い、リスクをリスクと思わず、未来に向けて共に力を合わせて行きたいと考えています。「ルナウェア」という商品を福島から発信することが、一つの復興のシンボルになるといいですね。

—民間のもつ潜在能力をもっと発揮すべきだと。

築120年の古民家を再生してゲストハウスとして活用

岩本 そうです。国も県も自治体もさまざまな取り組みをされていますが、僕たちのような県外の企業も、積極的かつ恒常的に被災地に目を向けるべきだと思うんですよ。

 しかし、風評被害もあって、避難した地元の方も戻って来ないのが実情です。生きる根源をいったん否定された地域ではありますが、一方で、現実を正面から受け止めて、しっかり前を向いている方もいらっしゃいます。重要なのは、そこで生きることの意義を見出すことです。

 僕たちはそんな方を一人でも多く増やしたい。そのためには、県外からどんどん人を呼び込むこむ必要があると思っています。

—確かに外部の人のほうが、その土地の良さがわかるかもしれませんね。

岩本 だから、僕たちが福島に行って、拠点を作って、人口を増やしていくことが大事だと思うんです。

 ところが、福島原発一帯のその地域は、泊まるところがないんですね。それで、築120年くらいの朽ち果てた古民家を売ってもらって、1年かけて再生させました。コドモエナジーのゲストハウスとしてだけでなく、みんなのゲストハウスとして使っていただいています。

—有料なんですか。

岩本 無料です。ここでお金を稼ぎたいとは思っていないので、シーツの洗濯代くらいはいただこうかというくらいです。それよりも、とにかく一人でも多くの人にここに来てもらって、いろんな意見を出しあって、地域をよみがえらせたいんです。

—ところで、5月31日に公開される映画『瀬戸内海賊物語』に「ルナウェア」を使ったブレスレットが印象的に使われているそうですね。

岩本 この映画の製作プロデューサーである益田祐美子さんが、ものづくり日本大賞の審査員をされていたんです。そのご縁で、「ルナウェア」のブレスレットをお使いいただけることになりました。

 僕がここまでやってこられたのは、本当にいろんな方とのご縁があったからです。そしてまた、この映画を通じて「ルナウェア」がいろんな人とのご縁を育んでくれていると感じています。いろんな方とのご縁は、僕にとって最高の財産だと思っています。

 

コドモエナジー株式会社 代表取締役社長 岩本泰典さん

撮影/木村 佳代子

<プロフィール>
いわもと やすのり
1962年、大阪府生まれ。大阪府立城東工業高校卒業。ユニットバス工事、自動車部品の検査代行業を経て、2004年、省エネルギー製品の製造販売会社「コドモエナジー」を設立。2009年、有田焼の伝統技術を活かした蓄光・蛍光建材「ルナウェア」を開発。2012年、同製品で経済産業省主催「第4回ものづくり日本大賞(内閣総理大臣賞)」を受賞。今年5月には、量産化に向けた工場が福島県川内村で稼働予定。5月31日公開の映画『瀬戸内海賊物語』制作委員会メンバー。

 

 

 

 

タグ:コドモエナジー株式会社 ルナウェア 川内村 瀬戸内海賊物語 ものづくり日本大賞

 

 

 

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