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1 The Face トップインタビュー2013年07月20日号
豊島区長 高野之夫さん
破綻寸前だった豊島区の財政を一から見直し、職員や区民の理解を得ながらさまざまな施策を断行した。まずは人件費の削減、そして文化によるまちづくりや、ワンルームマンション税などユニークな取り組みで、財政赤字を解消してきた。区有資産の活用と民間の創意工夫や活力を活かすことで、税などの財源を使うことなく、新たな借金をすることもなく、新庁舎の建設に挑む。お金がないから知恵を出すしかないと笑い飛ばす高野之夫豊島区長にお話をうかがった。
(インタビュー/津久井 美智江)
安全・安心・セーフコミュニティ
区民との協働の「区民ひろば」が目指す自治
—区長になられて4期目ということですが、区長という仕事に対する率直な感想をお聞かせください。
高野 私が区長になった15年前は、区の財政が大変なピンチの時で、何しろ一般会計と同じくらいの借金があったんです。数字のうえでは区の基金(貯金)が300億くらいあるはずなのに、たったの36億しかなくて、借入金が872億。この数字が分かっていたら区長にならなかった(笑)。
本来なら区民サービスに使うお金を、借金の返済に回さざるを得ない。借金が返せなくて利息だけ払っている期間もあったりして、恥ずかしい限りです。
—夕張市が財政破綻しましたが、豊島区も同じような状況だったと。
高野 豊島区が財政破綻の代名詞になるところでした。
なぜ豊島区がここまで追いつめられたかというと、人件費が23区でもトップクラスで32%くらいかかっていたんです。そこで、最初に12ある出張所を全部廃止することにしました。職員が100人くらい配置されていて、かなりの予算を取っていたのでね。区民サービスが低下すると、ずいぶん区民に怒られましたけど、住民票や印鑑証明を発行するために一所当り5人も10人も職員を置いておけば財政破綻するのは当たり前です。
それから放課後の子どもをあずかる「児童館」を止めどもなく作っていました。高齢者向けの「ことぶきの家」が欲しいという地域にもどんどん作っていた。そこに人を充てて運営すれば、お金がかかるのは当たり前でしょう。それらを再編して、誰もが利用できる「区民ひろば」を、各小学校区に一つずつ作ることで経費の削減を図ることにしました。
また、各「区民ひろば」の運営は「区民ひろば運営協議会」という町会とは違う形の区民団体に任せることにしたんです。全部で22ある学区のうち19カ所できました。あと2年以内に全地域に「区民ひろば」を作りたいと思っています。
—区民の参加と協働はこれからの行政のあり方の基本だと思います。「区民ひろば」のような、区民のいろいろな要望が集約される場所づくりは、これからますます必要とされるでしょうね。
高野 豊島区は単身高齢者が23区で一番多いんです。「区民ひろば」には楽しいことや刺激がありますから、引きこもりがちな単身高齢者対策にもすごく役立っていると思います。
昨年、WHOによるセーフコミュニティの認証を取得しましたので、豊島区の安全・安心の取り組みが世界基準に照らして確認されたことになります。安全・安心・セーフコミュニティの考え方を豊島区の行政運営の憲法とも言える自治基本条例に盛り込むと同時に、「区民ひろば」も一緒に位置づけようと提案し、議会の承認を得ました。やはり、豊島区の目指す自治はそこにあると、私は思っています。
希望や将来の展望を開かせる文化政策
—財政がそのような厳しい状況にあって、豊島区をどのように導いていこうと思われたのですか。
高野 私はこの豊島区が東京の中で大きな役割を担える自治体でなければいけないと思っています。もっと輝かせなければいけない、魅力あるまちを作らなければいけない。財政再建をしていきつつも、すべてカットカットではみんなが萎縮してしまいますし、魅力あるまちはつくれません。
そこで、私は文化というものに着目して、地域文化を活かせる文化政策を進めることにしました。財政が破綻寸前の状況にあって、希望とか将来の展望が開けるのは、文化以外にないと思ったんですね。
—具体的にはどんなことをされているのですか。
高野 豊島区の駒込がソメイヨシノの発祥の地なので、区のシンボルマークをさくらに変えました。そして、「ソメイヨシノプロジェクト」を立ち上げ、駒込・巣鴨から区全体、さらには全国にソメイヨシノの苗木を植えて、新たにさくら街道やさくら並木を作る活動を展開していきます。
また、「グリーンとしま再生プロジェクト」として学校や公園に毎年1万本を植樹しています。学校でスタートしたんですが、31小中学校で、小学生が7000人、中学生が3000人でちょうど1万人。子どもたちが保護者の方と一緒に一人1本ずつ植えました。緑が少ない高密都市だからこそ、最低10年は続けようと思っています。
—10年後にはずいぶん変わるでしょうね。
高野 春には桜が咲き、新緑の季節があって、夏は暑さと同時に木陰の涼しさを感じ、秋には紅葉、そして冬には木枯らしが吹いて葉がなくなる。そういう四季の彩りを感じられるまちにしたいですね。
それからマンガとアニメ。今ではクールジャパンといわれ、日本を代表する文化になっていますけど、その原点ともいうべき、マンガ家の梁山泊と呼ばれた「トキワ荘」があったのが椎名町です。それから、アニメの殿堂ともいうべきアニメイト池袋本店もオープンして、大変なにぎわいです。マンガ創世記から最先端のアニメまで、世代を超えたマンガ文化が融合するまちとして、区の魅力を発信していこうと考えています。
さらに、かつて旧長崎町を中心として「アトリエ村」が生まれ、「池袋モンパルナス」と称されたように、芸術のまちがつくれないかと、「新池袋モンパルナス西口まちかど回遊美術館」を開催しています。まち全体がキャンバスとして輝き、子どもたちが美術の楽しさを感じてくれたらいいですね。
それから、区のもう一つのシンボルであるふくろうで、まちづくりの輪を広げようとしています。豊島区は、まるでふくろうが羽を広げたような形をしているんです。
—池袋と語呂が似ているからかと思っていました。
高野 ふくろうは知恵の神様であり、幸せを呼ぶ森の守護神なので、まちの中にモニュメントや像をたくさん作って大事にしています。
先ほどお話しした「区民ひろば」は豊島区全体を区民参加のまちにするためのものです。町会の加入率が下がって、地域のコミュニティがどんどんなくなっていく中で、大事なのはそれぞれの学区内に、セーフコミュニティの拠点があることだと思います。財政が厳しいからこそ、いろんな知恵をしぼらなければならないし、区民のみなさんの協力が必要です。私は、住民が参加できる、理想的な自治の運営をめざしているんです。
国交省のモデル事業になった区有財産を有効活用した新庁舎整備
—豊島区にはワンルームマンション税とかマンション管理推進条例といったユニークな規則や条例がありますが、どういったものですか。
高野 ワンルームマンション税は、正式には狭小住戸集合住宅税といいまして、30㎡未満の住戸を持つ集合住宅を建てようとする建築主に課税することにより、負担が重くなるという状況を作り出すことで、1戸当たりの面積が少しでも広い住宅の供給を誘導しようというものです。
ワンルームマンションに住む人は、夜寝るだけだから約半数が住民届けを出していないんですよ。住民票がないから住民税も払っていない。その一方、ゴミの収集や防災防犯などの行政サービスはおんぶに抱っこになっているんです。
—そういう方達がわずかでも税金を払ってくれたら、相当な税収になるでしょうね。
高野 マンション管理推進条例は、今年の7月1日に施行しました。
賃貸物件はオーナーがいるのでいいのですが、分譲マンションは区分所有なので、転売や投資目的で、持ち主が住んでいない場合があります。権利が複雑になると、管理組合が機能していない場合、修繕や建て替えに対応できません。
この条例では、管理の状況を届け出ることを義務化して、従わないマンションは公表することにしているのですが、そうするとそのマンションの価値が下がりますよね。自分のマンションの価値を保ちながら、新しい価値を作り上げていく準備をしていく必要があるという意識を持ってもらうのがこの条例の目的で、そこはよく理解していただけていると思います。
—新庁舎を建築中ですが、財源はどのように賄われたのですか。
高野 新庁舎は、廃校になった学校周辺一帯を、市街地再開発事業により、分譲マンションと合築するかたちで整備を進めています。庁舎床は2万5500㎡で、そのうちの1万700㎡は、市街地再開発事業区域内の旧小学校等の区有地を権利変換することで取得し、残りの1万4800㎡は、現庁舎地に定期借地権を設定して貸し付け、そこから生まれる地代を充てることで取得する計画です。
現庁舎は、池袋駅から歩いて5分ほどの一等地ですから、有効に使うのは当然のことだと思うんですよ。区有財産を有効活用した新庁舎の整備ということで、国土交通省の「第1回 都市のリノベーションのための公的不動産活用検討委員会」(平成25年6月4日)でも先進事例として取り上げられています。
—それは素晴らしいですね。
高野 新庁舎の建設は環境を主体にしていまして、自然を大事にしている建築家の隈研吾さんにデザイン監修をお願いしました。庁舎を1本の木とイメージし、49階までベランダ3面は全部太陽光パネルにしました。そして下の庁舎部分は庁舎を覆うようなかたちで壁面を緑化、10階には「豊島の森 屋上庭園」を設けます。
また、防災の拠点としても位置づけていて、区民生活の安全・安心を守る日本一の防災センターもつくる予定です。
議場も、赤絨毯ではなく木の素材感を活かした作りにし、本会議全体を見やすくするために両側面に傍聴席を配置します。議会が開かれない時は、区民が参加する会議や国際会議にも使えるような作りにしたんです。
—画期的ですね
高野 おそらくこういう議場は自治体で初めてだと思います。お金がないから知恵を出すしかないんですよ(笑)。
—演奏会をやってもいいですね。
高野 気兼ねなく誰でも365日フルに使える、まさに無駄のない庁舎の見本になるんじゃないかと思っています。
<プロフィール>
たかの ゆきお
昭和12年、豊島区生まれ。豊島区立池袋第五小学校卒業。35年3月、立教大学経済学部経済学科卒業。58年5月~平成元年6月、豊島区議会議員。元年7月~11年3月、東京都都議会議員。11年4月、豊島区長に就任。趣味は絵画(クレヨン水彩)、読書、スポーツ観戦。信条は、元気・やる気・勇気・笑顔。
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