日本に今、この光が必要だ!
東京都議会オリンピック・パラリンピック
招致議員連盟会長
川井しげおさん
東京2020オリンピック・パラリンピック招致活動も、残すは7月、スイスのローザンヌ・9月7日、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われるプレゼンテーションです。東京に、日本に、なぜオリンピックは必要なのか。オリンピックによって日本は何を世界に発信するのか。東京都議会オリンピック・パラリンピック招致議員連盟会長、川井しげおさんにうかがった。
(インタビュー/津久井 美智江)
オリンピック招致の大きな柱は岩手・宮城・福島をはじめとする被災地の復興
―国際オリンピック委員会(IOC)評価委員会による現地視察が終わりました。東京都議会オリンピック・パラリンピック招致議員連盟会長として、手ごたえはいかがですか。
川井 2016年の時よりずっと重いものを感じています。
同時に、イスタンブールは今回5回目の挑戦です。過去の失敗をふまえてより良い提案をしているはずですから、東京同様、前回より高い評価をいただいているだろうと思っています。
東京が再挑戦するに当たり、「石原知事(当時)は2016年の招致に負けたから、遺恨晴らしでまた手を挙げたんだろう」とか言う心ない人がいましたが、ロンドンも3回目で取りました。世界的に見れば、3回4回5回と挑戦するのは当たり前で、逆に1回でやめたところは「本当に招致する気があったんですか」ということになるんです。
日本のマスコミや評論家といわれる方々の勉強不足については非常に残念です。
―一方で、オリンピック・パラリンピック(以下オリンピック)を招致するにはナンバーワンとか初めてといった“物語”が大事だともいわれます。
川井 今回トルコが特に大きく打ち出しているのは、イスラム圏初ということです。それは前回、南米初ということで、ブラジルに決まったといわれているからですが、もうひとつ強く打ち出しているのが、ヨーロッパとアジアを結ぶオリンピック・シルクロードという言葉です。歴史的に見ても、ヨーロッパのアジアの窓口はやはりトルコですからね。イスラム圏の国にはイスラム圏初、ヨーロッパにはオリンピック・シルクロードということで、票をつかもうとしているんです。
―仮にそれらの国々がトルコを支持すれば、イスタンブールに決まってしまいますよね。
川井 そこで今回、東京がオリンピック招致の大きな柱として掲げているのが、岩手・宮城・福島をはじめとする被災地の復興です。
東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の中に復興専門委員会を作って、そこに岩手・宮城・福島の県職員も入っていただき、どんなオリンピックをやったら招致につながる か、あるいは東北の復興支援につながるのかを議論し、すでに答申を出しています。
先日も宮城県の県会議員が訪ねてきて、「被災地宮城県として、どんな招致運動をやったらいいでしょう」とおっしゃるんですね。私は「被災地である宮城県から声をあげてもらうだけで大変な影響があり、ありがたいことです」と言ったんですが、東北の皆さんは本当に一生懸命です。
事実、東京の支持率が60%台前半の時に、岩手・宮城・福島では70%を越していました。どうしてかというと、親を失った子供もいれば、兄弟を失った子供もいる。その子供たちに元気と勇気を与えたいし、大人たちも光がほしいのです。
夢と夢の場所を与え、スポーツ全体を底上げする
―2020年にオリンピックが招致できた暁には、どんな大会にしたいですか。
川井 東日本大震災に対しては、世界中の国々から温かい声、さまざまな援助をいただきました。まず、その多大なる支援に対して感謝の気持ちを示す場にするということです。
もう一つは、原発事故による放射能について、日本は安全宣言をする場にしなければならないと思っています。「東京電力福島原発」といえば、東京都の中に福島原発があると錯覚されても仕方ない。そのためには、国際会議やスポーツの世界大会などを東京で開催して、東京は危険だという認識を払拭していく必要がある。そのためにも、日本国民が一丸となって、オリンピックを求めているんだということを、さまざまな機会をとらえて世界に向かって発信し続けていくことが大切なのです。
さらにいえば、日本人にとって光が必要だということです。日本人としての絆を基盤として向かっていくその向こうに光はあるということは、大きな意味があると思います。
―日本の未来の姿を描く上で、夢をくれるというか、力をくれる気がします。
川井 そうですね。それとね、私は個人的に考えているんですが、高校球児にとっての夢は甲子園に行くことですよね。サッカーをやってる高校生にとっての甲子園は国立競技場、バスケットをやっている高校生の甲子園は代々木第2体育館、バレーボールをやってる高校生の甲子園って駒沢体育館、そして日本中の野球をやってる大学生の甲子園は神宮球場。アマチュアスポーツの甲子園が、正にこの東京に集約されているんですよ。しかも、それが全部更新期に来ている。更新には長い年月がかるわけですが、オリンピックがくることによって加速されます。オリンピックを招致するということは、日本全体の子どもたちや若人に対して、夢と夢の場所を与えると同時に、スポーツの復興、スポーツ全体の底上げにつながっていくだろうと思っています。
―安全宣言という点では、首都直下地震の心配もあります。
川井 3・11を体験し、我々は高度防災都市づくりという方向に舵を切りました。防波堤や水門だけでなく、橋やトンネルも更新期にきていますし、水道や下水道も60年以上前に敷設されたものが今も使われています。
そうしたインフラも含め、東京都は今年、約8000億円を超える予算を計上しました。投資的経費は9年連続の上積みですが、これは次の世代に強い東京を残すためであり、一方では雇用の場をつくるといった経済対策でもあります。
ただ、ここまでつくれば安全ということはないので、これは一定以上の災害には耐えられる街につくり替えていくということなんですね。東日本大震災を見ても分かるように、やはり、備えというものは物質的な物と心の両方がなければだめです。物質的な防波堤だけでなく、心の防波堤をきちんとつくっていくことが大事だと思います。
日本人としての誇りを持って世界に飛び出す人材教育が大事
―東京の防災力を高める共助の取り組みとして、それぞれの地域で意欲的な防災活動を行う団体を「東京防災隣組」として認定し、広く社会に発信していますね。
川井 今、町会に入らない人が多いんですよ。めんどうくさい、関わりたくないと。ところが、お宅で葬儀があったり、火災にあって近所の人たちの世話になると、初めてこういうことなのかと分かって入会する。そういう近所で助け合うとか支え合うということを体感したことがないんですね。これは日本の戦後の教育の問題でもあると思うんですが……。
先ほど投資的経費が約8000億円といいましたが、これは今回の6兆2700億円の予算のうちの3番目です。一番多く予算を割いたのは何かというと、医療・福祉・介護・子育て、いわゆる厚生費で22・1%(約1兆3850億円)、都の予算で初めて1兆円を超しました。2番目に多いのが教育費で約9000億円です。やはり、日本が世界と戦っていくには技術と人材です。次の世代を担う子供たちの教育、それも単なる教育じゃなくて、日本人としての伝統文化、あるいは歴史観というものをきちんと教え、日本人として誇りを持って世界に飛び出していけるような人材を育てる教育が、今まさに求められていることだと思います。
―日本の大事な部分を教えないで来てしまったと。
川井 日本に脈々と伝わってきた技術にしても文化にしても、世界に誇れるものだったはずなんですよね。それが戦後教育によって途切れようとしている気がしてなりません。
例えば、大田区の中小企業の技術が宇宙にロケットを飛ばしているわけでしょう。ロケットの先端の丸みとか、日本人にしかできない技術です。でも、もう後を継ぐ人はほとんどいないんです。
よく話すんですけど、ドイツのマイスター制度って、政府がやっているんじゃないんですよ。企業が集まってやっている。もちろん、国もそれを法律でバックアップしていますが、日本も伝統技術であり文化というものを継承していくような職種については、やはり国、あるいは行政が守っていかなければならないと思います。
それから、マイスターを取った人たちは大学卒業生より給料は上ですし、社会的な評価も高い。日本の職人は、あれだけの技術があるのに賃金は安いし、社会的にもあまり認められていない。
―社会のシステム自体が変わらないと、技術の継承は難しいでしょうね。
川井 東京2020オリンピック・パラリンピックは、日本の伝統文化だけでなく、日本が持つ革新性や最先端の科学技術を体感してもらい、日本の存在感・素晴らしさを世界に示すための大会でもあります。
日本の技術を守るという意味で、行政が技術者を金銭面で支援することは、日本の将来を考えれば決して無駄ではない。日本が世界の中で生き残っていくには、技術力は不可欠です。技術の伝承も含め、教育には力を入れていこうと思っています。
<プロフィール>
かわい しげお
1947年、東京生まれ。1971年、武蔵工業大学土木工学科卒業。1979年、中野区議会議員初当選。1997年、東京都議会議員初当選、議員4期連続当選。都市・環境委員会、警察・消防委員会副委員長、財政委員長、自民党政務政調会長代行、予算特別委員会委員長、自民党政務政調会長、自由民主党幹事長、自由民主党幹事長代理などを経て、現在自由民主党東京都連幹事長代理、東京都議会オリンピック・パラリンピック招致議員連盟会長