局長に聞く 51
発災時の都のニーズを明確に
東京都危機管理監 宮嵜泰樹 氏
東京都の各局が行っている事業を局長自らが紹介する「局長に聞く」。51回目の今回は危機管理監の宮嵜泰樹氏。危機管理の実務経験者として、陸上自衛隊退官後の昨年8月、就任した。災害時における関係機関との調整などについてお話をうかがった。
(聞き手/平田 邦彦)
発災後の72時間が初動のカギ
―宮嵜危機管理監は陸上自衛隊のご出身です。プロフィールを簡単にご紹介ください。
私は34年間、陸上自衛隊に所属していました。普通科、いわば歩兵としてレンジャーも経験しています。
私の自衛隊人生は三つに区分されます。最初は北海道に配属されていました。当時は旧ソ連の勢いが強かった頃です。第2師団と第5師団にそれぞれ所属しましたが、旧ソ連からいかに防衛するかがメインの任務でした。
冷戦が終わると中国の担当となりました。防衛駐在官(大使館付武官)として北京に赴き、人民解放軍に関する情報を収集していた時期もあります。
その後、連隊長、施設団長、師団長などの指揮官を経験しました。陸上自衛隊の幕僚監部での経験はあまりなかったのですが、総務課長や陸上幕僚監部監察官なども拝命しました。
旧ソ連対策で約10年、中国関係で約10年、陸上自衛隊の総合的な役職に約10年ということになります。
―東日本大震災では災害派遣を指揮されたと聞いています。
東日本大震災の発災当時、私は陸上幕僚監部に在籍し、災害派遣全般のオペレーションに携わりました。
陸上自衛隊のマンパワーは約15万人ですが、国土の防衛を行いつつ、どれだけの部隊を被災地に派遣できるかが大きな課題でした。
その後、第10師団長となり、宮城県南部の被災地において、救援活動の陣頭指揮を執りました。
物流がストップした中で、膨大な被災地への支援物資をどうやってスムーズに輸送するか、宮城県内だけでも約千箇所ある避難所までどうやって物資を運ぶか、が大きな問題でした。物資も最初は水や食料がメインでしたが、やがてニーズが多様化してきましたから、その対応をどうするかも、関係者で知恵を出し合い進めました。とにかく初めての経験ばかりでしたね。
―危機管理監に就任後、まずなさったことは。
東京都でどのような防災計画が出来ているのか、何が出来て何が出来ないのかを、まずチェックしました。
びっくりしたのは、東日本大震災の後、速やかに新たな被害想定を取りまとめ、それに基づいて地域防災計画を修正するなど、都が防災対策に先行的に取り組んでいたことです。一方で、災害発生直後のオペレーションについては、ファジーな印象がありました。
東日本大震災の教訓として感じていることは、「発災後72時間が初動の命」ということです。この時間をいかに密度の濃いものにするかが非常に重要だし、それが私の仕事だと感じています。
―責任重大な役職です。
72時間の中で効果的な活動を行うためにも、行政が自ら動くだけでなく、自衛隊や警察、消防にニーズを述べる、さらにこれらの機関では出来ないことをできる誰かを探すという、調整役をしっかり担うべきです。
私のこれからの立場は、関係機関に対して都としてのニーズを出すことだと実感しています。「東京都はこれだけの準備をしている」ということをしっかり把握し、関係機関に対して「これとこれをやってください。そのときの問題点については都が調整します」と、しっかり説明することです。都のニーズを明確にして自衛隊や警察、消防等との調整を行う。主導権はあくまでも都が担うことが前提です。
2月に部内で図上訓練を実施
―そのあたりが腕の見せ所だと思いますが。
自衛隊にいた時にも、津波対策で自衛隊がやるべきこと、自治体がやるべきことのすり合わせを行ったことがあります。
自衛隊といえども出来ることと出来ないことがあり、それを理解できない人たちとの間では議論が空回りすることもあります。行政は自衛隊に「こういう仕事をしてほしい」とニーズをしっかりと伝えることが重要です。
―消防との連携は?
首都直下地震と東日本大震災の最大の違いは何かと言えば、火事です。東京は木造住宅密集地域もあり、火災対策が大きな課題となると考えられるので、東京消防庁等としっかり連携を図る必要があります。
また、救急医療については、東京消防庁に加え、自衛隊や警察などと連携して搬送を行う仕組みなどを考えなくてはなりませんね。
―今年はまず何をしようと考えていますか。
関係機関が連動して活動できるよう、発災後72時間の災害行動全体を統合した対処要領を新たに作り上げていきます。
例えば、被害想定を細部まで分析し、地形に応じたオペレーションをしっかり考える必要があります。地域が違えば食料や医療品などの備蓄庫をどこに設置するかもおのずと違ってきますからね。
実効性ある対処要領の策定に向けて、2月1日には部内で図上訓練を実施します。問題点をあぶり出すために行うのが訓練ですから、しっかり行い一つずつ課題を確認します。
また、都庁内各局との連携も重要です。ハード面の対策だけでなく、医療救護などソフト対策も含め、各局とともに、一つずつ手順を確認していきます。
都の職員の方も、地図を見るだけではなく、土日を使って実際に現場を見に行ったりしてくれています。これまで頭の中だけで理解していたものが、現実を見据えた取り組みへとつながっていきます。こういうことが積み重なれば、東京の力になると思います。