局長に聞く 44
地域と自治体の「結び目」として
青少年・治安対策本部長 樋口眞人氏
東京都の各局が行っている事業のポイントを紹介する「局長に聞く」。44回目の今回は、青少年・治安対策本部長の樋口眞人氏。安全・安心のまちづくりの取り組みのほか、青少年の健全育成、最近大きな関心を集めている自転車対策などについて聞いた。
(聞き手/平田 邦彦)
子供見守りボランティアを育成
―東京は世界の大都市の中でも治安がよいと言われますが現状は。
都内の犯罪件数は、昭和40年代に30万件を超えていましたが、昨年は18万6千件と数字の上では大きく減少しています。しかし都民が日常生活の中で感じる、いわゆる「体感治安」は依然として厳しいのが実態です。
当本部としては、安全で安心して暮らせる「まちづくり」には、行政や警察だけではなく、「自分たちの街は地域で守る」という、地域の取り組みが非常に重要と考えており、さまざまな施策を実施しています。
具体的には、商店街などによる防犯カメラ等の防犯設備の設置や、防犯パトロールの際に着用するベストや合図灯などの装備品に補助を行っています。とくに防犯カメラの要望は強く、先日開業したスカイツリー周辺にも、都の補助で77台が設置されました。
―子供に対する犯罪防止も大きな課題です。
犯罪が起こりにくい環境をつくってほしいという要望に応えるため、子供たちの通学時間帯にパトロール等を行う「子供見守りボランティア」のリーダー育成講座を平成22年に開講しました。
地域で先駆的な取り組みをしている防犯パトロールリーダーなどを講師に招き、3ヵ年で約300人を育成する予定です。
―もうひとつの柱である青少年の健全育成の取り組みは
都は現在、石原知事の提唱した「心の東京革命」を推進していますが、その理念は、「次代を担う子供たちに対し、親と大人が責任をもって正義感や倫理観、思いやりの心を育み、人が生きていく上で当然の心得を伝えていく」というものです。当本部は「心の東京革命推進協議会」(会長・川淵三郎・日本サッカー協会名誉会長)と連携を図りながら、さまざまな施策に取り組んでいます。
その一環として、アスリートが学校や地域のイベントを訪れ、あいさつの大切さを訴える「あいさつ・ふれあいチャレンジプロジェクト」を実施しています。また、家庭・地域・学校が互いに協力し合い、地域ぐるみで子供を育成する取り組みを「心の東京革命推進モデル」として指定し、その成果を広く紹介する取り組みなども行っています。
―インターネットや携帯電話を通じて青少年が犯罪やトラブルに巻き込まれ、被害者や加害者になる事態が頻発しています。
まず、保護者が青少年の利用状況を適切に把握、管理することが重要なのですが、アナログ世代の親とデジタル世代の子のギャップがあり、家庭でのルールづくりがなかなか進まないのが現状です。
そのため、当本部では、家庭でのルール作りのコツを学ぶグループワーク形式の講座を開催するなど支援に努めています。
さらに、インターネット上のトラブルや過度の利用による弊害について、青少年が適切に理解できるよう、「青少年のインターネット利用に関する啓発の指針」を制定、その内容を分かりやすいパンフレット等にして配布しています。
このほか、インターネットにつながらない携帯電話など、青少年の健全な育成に配慮した携帯電話端末等を推奨する制度を国に先駆けて、昨年度から始めたところです。
実効性ある自転車対策目指す
―交通安全対策も所管ですが、現在の取り組みは。
特に力を入れているのが、最近大きな関心を集めている自転車対策です。自転車は「車両」でありながら、免許、車検、ナンバー、強制保険がなく、また、利害関係者も多いことから、多くの課題があり、当本部では、長期的な視点から自転車対策を検討することが必要と考えています。
昨年、自転車の安全利用に関する課題について、警視庁はじめ関係各局、区市町村、交通安全協会等による検討委員会で検討し、本年2月に「報告書」をまとめました。
この「報告書」を基に、交通ルールの遵守、マナーの向上、放置自転車の改善、安全な走行空間の確保、自転車の安全性向上、事故への備え等について検討するため、「自転車対策懇談会」を設置、6月4日に初会合が開かれたところです。懇談会には学識経験者、自転車利用者、教育関係者、運輸業界、保険業界、地域団体、歩行者代表等が参加しており、幅広い視点から認識を共有し、対策の方向性について合意形成を図り、実効性のある自転車対策の枠組みをつくっていきたいと考えています。
一方、渋滞対策では、ITS(最先端の情報通信技術等を活用した高度道路交通システム)の活用や交差点の改良、荷さばき可能駐車場の増設といった施策を対象路線で集中的に行う「ハイパースムーズ作戦」を展開しているところです。
―最後に本部事業を進める上での抱負を。
当本部は、こうした事業のほか、ひきこもり対策、振り込め詐欺対策、不法滞在外国人対策、落書き消去啓発事業、暴力団排除対策などの事業も担当しています。
現場執行部門を持たず、また、本部態勢も約80人と小さい組織ですが、各部門の精鋭を集めており、地域社会やNPO、警察、自治体等が連携する際の「結び目」としての役割を基本としつつ、新たな行政課題を早期に把握し、迅速に対応していく考えです。