局長に聞く 42
都庁舎を災害時の支援拠点に
財務局長 安藤 立美氏
東京都の各局が行っている事業のポイントを局長自らが紹介する「局長に聞く」。42回目の今回は財務局長の安藤立美氏。財務局は都庁舎の維持管理も主要な業務のひとつだ。昨年の東日本大震災で都庁舎は帰宅困難者の支援拠点となったが、今後の設備更新のあり方を聞いた。
(聞き手/平田 邦彦)
帰宅困難者対策で条例制定
―東京都は現在、都庁舎の大規模な設備更新を行っていますね。
設備更新は平成21年度から始めています。既に議会棟のエレベーターや外壁の更新を行っています。そこにあの東日本大震災が発生しました。
都庁舎はそれまで、帰宅困難者の受け入れ先という位置付けではありませんでしたが、あの日、帰宅困難者を受け入れるかどうかの決断を迫られることになりました。
ピーク時には5000人近い帰宅困難者であふれましたが、物的にも人的にも5000人が一晩過ごせる用意はしていませんでした。急遽、毛布を福祉保健局の備蓄倉庫から都庁舎に運んでもらいましたが、遠方のものは渋滞のため、輸送ができず不足する状況でした。そこで庁内中か
らダンボールを集めて、帰宅困難者の方々に提供しました。
あの日以降、都庁舎は帰宅困難者の支援拠点になりましたね。職員は一睡もしないで対応しましたが、公務員の使命を改めて自覚したと思います。
今回の震災は、都庁舎はBCP(ビジネス・コンティニュティ・プラン)を支障なく実行できる体制を整えていなければならないことを教えてくれました。
この経験と教訓を踏まえて、単なる設備更新であってはならないと、思いを新たにしています。
―重要な視点です。
この後、発生したのが電力の供給不安です。当初、節電目標として25%削減が打ち出されましたが、都庁舎がそれを真っ先に実行することにしました。
温度設定を28度にし、エレベーターも運行台数を減らし、照明を2分の1にするなどの取り組みを行いました。
節電をBCPの中でどう位置づけるかが問題になるなかで浮上してきたのが東京電力の値上げです。
災害拠点としての都庁舎のあり方、電力の問題が、宿題として浮上してきたわけです。これにどう対応するかが課題ですね。
―都庁舎は20年経過していますね。
老朽化した設備の更新は必要です。平成21年から10年かけて更新を行う予定で、トータルの予算は780億円になります。
大震災の時には都庁舎のエレベーターが止まったため、エレベーターを支えるロープを絡みにくくしたり、庁舎内の非常用発電機について、通常の50%の電力を供給できるように増強するなど、防災対応を兼ねた設備更新を進めています。
このほかの設備についても、ライフサイクルコストの低減や利便性の向上等に配慮するとともに、省エネ・再エネを積極的に活用し、CO2の一層の削減を図っていく方針です。
“防災隣組”の構築目指す
―都庁舎は超高層ビルで、長周期地震動も懸念されると思います。
昨年の3月11日、まず立て揺れが都庁舎を襲いましたが、その後は長周期の横揺れが続きました。
実際に調べたところ、都庁舎は幅1・3メートルにわたって揺れていたのです。長周期地震動対策は、この都庁舎が建設されたときにはできていなかったのです。
3月11日以前から、財務局では長周期地震動に関する研究会を開催し、東海、東南海、南海の三連動地震、規模はマグニチュード8・3を想定して、それが発生した場合、都庁はどうなるかということを研究していたのです。
長周期地震動によって建物の給排水がやられ、天井からの落下物があり大変危険だと。それこそBCPにも影響を与えることから対策を講じようと決めた矢先に震災が起きたのです。
最近、国から三連動地震でマグニチュード9・0の地震が起きた場合の震度の推計が公表されましたので、今後、データを分析した上で、都も長周期地震動について検証することが不可欠になると思います。
―電力問題の対応の内容はいかがですか。
電力の供給を東京電力だけに任せておいていいのかというのが問題の発端です。停電が長時間に及ぶ場合を想定して、非常用発電機の能力増強を図るとともに、東京電力だけに頼らない電力調達の多元化にも取り組んでいます。
100万キロワットの発電所建設構想などがあげられていますが、昨年5月から取り組んだのは、東京ガスの子会社に地域冷暖房用のエンジンを使って発電してもらい、それを都が買い取る制度です。
3000キロワットの電力を買い取るため、6月ごろから都庁舎の受電設備工事を予定しています。年内を目途に工事を完了し、受電を開始することにしています。
この取り組みが成功すれば、他の自治体や地域にも広がるものと考えています。