局長に聞く 41
自助・共助の取組を強化
総務局長 笠井 謙一氏
東京都の各局が行っている事業のポイントを紹介してもらう「局長に聞く」。41回目の今回は総務局長の笠井謙一氏。東日本大震災から1年。現在開催中の都議会第1回定例会では震災対策に関する質疑が活発に行われている。今回は、東京都の防災対策の要を担う総務局の施策の中から、都が新たに取り組む、帰宅困難者対策、「防災隣組」の構築を中心に聞いた。
(聞き手/平田 邦彦)
帰宅困難者対策で条例制定
―「3・11」以降、防災に関する都民の意識が高まっています。大都市東京では帰宅困難者対策が大きな課題となっていますが、東京都の取り組みは。
東日本大震災の際、都内では約352万人の帰宅困難者が発生しました。そのため、東京都は国や区市町村、9都県市、鉄道事業者など民間企業の参加を得て「帰宅困難者等対策協議会」を設置して議論を重ねてきました。
その結果、大災害時は、ある程度混乱が落ち着くまで会社等に留まって様子を見てもらう、つまり一斉帰宅を抑制するという基本方針を取りまとめました。
―2月には訓練も行いましたね。
東日本大震災の当日は、とくに駅周辺に多くの帰宅困難者が滞留したことから、2月3日に、ターミナル駅の新宿駅、東京駅、池袋駅周辺で、関係区や埼玉県、「駅前滞留者対策協議会」と連携して、駅や集客施設における利用者の保護、一時滞在施設への受け入れを確認する帰宅困難者対策訓練を実施しました。
―そうした取り組みをもとに、都は「帰宅困難者対策条例」を制定するということですが。
今、開催中の都議会第1回定例会に「帰宅困難者対策条例」を提案しているところです。ポイントは都民や企業が取り組むべき基本的な事項を明文化したということです。
具体的には、まず、大規模災害発生時の混乱や事故を防止するため、都民に一斉帰宅を我慢してもらいます。そのためには一時滞在施設が必要になりますから、都立施設を活用するとともに、民間施設に協力を求めることも盛り込みました。
また、企業には従業員が会社に留まれるよう、従業員の3日分の飲料水・食糧などの備蓄を努力義務として課します。
条例が可決されましたら、企業や関係機関と十分に調整し、本年秋を目途に、帰宅困難者対策を総合的に推進するための実施計画を策定していく予定です。
―大企業では対応が可能と思いますが、中小企業ではなかなか困難なケースもあるかと思いますが。
社員10人の会社に100人分の備蓄を求めるわけではありません。10人を3日間程度留めることのできる、最低限の備蓄をお願いしたいということですから、大きな負担になるとは思いません。大企業であれ中小企業であれ、それぞれの規模に見合った備蓄をお願いしたいということです。
“防災隣組”の構築目指す
―災害時要援護者対策という点では、近所同士の助け合いが重要ですが、都市生活ではなかなか難しいのが実態です。
地域のコミュニティを生かした取り組みとして、都は現在、「防災隣組」の構築を進めています。
都市は隣近所に煩わされたくないという傾向が強く、それが都市の魅力だという考えもあります。しかし隣の人の普段の状況を知っていれば、災害発生時にもお互いに助け合うことができ、有効です。
大震災の際は、行政にできることには限界があり、「自助・共助・公助」のうち、一番重要なのが「自助」で次が「共助」です。知事は最近、「近助」という言葉もよく使いますが、この部分をテコ入れしていきたいというのが「防災隣組」です。
具体的には、近隣住民の安否確認の仕組みづくりや区民レスキュー隊の結成など、意欲的な防災活動を行っている町会や自治会、自主防災組織などを3月に「防災隣組」として認定し、その活動を支援するとともに、さまざまな媒体を通じて広く発信していきます。
東日本大震災以降、各町会や自治会といったコミュニティの中に、防災に関する関心が高まっていることは間違いないですから、我々はこの機を逃さずにもう一押しして、地域の防災力の向上を図っていく考えです。
―最後に今後の防災対策に向けた決意を。
東日本大震災を受け、東京都は現在、被害想定の見直しを行っています。4月には発表できると思いますが、今後、それに基づいて各施策を展開することになります。
被害想定をどう捉えるかは人それぞれだろうと思いますが、いたずらに危機を煽るのではなく、防災を我が事として考えるきっかけとして活用されることを望んでいます。
東日本大震災以降、都民の意識は変わりました。帰宅困難者で街が溢れるという経験を通じて何かを学んだのだと思います。
首都直下地震が発生した場合に備えてロッカーに動きやすい靴を用意した人や、かばんにラジオや懐中電灯を常備している人も増えています。
震災による被害を完全に食い止めることは不可能ですが、被害を最小限に抑えることはできます。それをいかに実現するかが私たちの一番の使命だと思っています。