東京芸術劇場がリニューアル
本年9月1日にオープン予定
都民の芸術文化振興の拠点、「東京芸術劇場」が池袋に開館したのは平成2年10月。以来、20年以上にわたり、クラシック、演劇・舞踏、演芸など多様な芸術を提供してきた。しかし、経年劣化による設備の老朽化は避けられず、現在、空調設備や舞台装置、内装などの全面改修が進められている。改修工事は本年6月には終わり、9月にはリニューアルオープンする予定だ。改修を機に利用者の多様なニーズに対応するとともに、今後は自主企画にも積極的に取り組むとしており、芸術文化の発信拠点としてのさらなる魅力向上が期待される。
東京芸術劇場は、世界最大級のパイプオルガンを正面に配したクラシック専用の大ホール(1999席)をはじめ、演劇・舞踊等の公演を行う中ホール(841席)、小演劇や落語等の演芸や各種イベント向けの2つの小ホール(各300席)を有する。
このほか、3つの展示スペース、大小の会議室、リハーサル室も設置されており、展示や講座、ワークショップ等、上演以外の芸術活動も行うことができる複合的な芸術文化施設となっている。運営は東京都歴史文化財団が行っている。
今回の改修の目的は、①経年劣化による電気・空調・給水設備、舞台設備の改修、②各ホールの音響や舞台装置の改善、③アトリウム、エントランス等の内装のイメージアップ―の3点。以下、各ホールごとに改修の概要について紹介する。
大ホール
音響の改善図り舞台も拡張
クラシック専用の大ホールの改修では、音響の改善が最大のポイントとなる。
大ホール正面のパイプオルガンの手前の天井には、演奏者の音をまとめて客席に反響させる可動式の「天井反射板」が設置されている。これまでは反射板を一番下に下げるとパイプオルガンが見えなくなくなったが、今回、このセッティング形状を調整し、パイプオルガンが見える位置で最適な音響を確保できるように改善を図る。調整に当たっては、実際にオーケストラに演奏してもらい角度を決めたという。
また、大ホールの壁面には大理石が使用されているが、来場者から「音が冷たく感じる」との声もあったことから、今回、大理石の表面に音の反射を抑える加工を施すとともに、木製のリブをはめ込むことにした。これにより音響の改善を図ると同時に、落ち着きと温かみのある雰囲気を演出する。
さらにホール後方(2階・3階席)にあった調整室をなくし、客席に変更することで、客席の鋭角部分を解消する。これにより客席数を維持しつつ舞台を手前に90㎝拡張することができた。舞台の拡張は大編成の合唱などで生かされることになりそうだ。
このほか、座席も新しいものに付け替えるとともに、経年劣化の進んだ各種舞台設備をより使いやすく安全なものへ改修する。
中ホール
自由度の高いシンプル構成に
演劇用の中ホールは今回の改修でイメージが一新されることになりそうだ。これまでの内装はミュージカルを意識し、金色を使うなど華やいだ意匠が特徴だったが、平成21年7月に芸術監督に就任した野田秀樹氏の方針もあり、現代演劇の使用に重点を置き、来場者が舞台に集中できるよう、よりシンプルな雰囲気の内装に改修する。
プロセニアム(舞台と客席を隔てる部分)周辺についても、極力デザインによる個性を廃して、壁や天井に演出側が照明装置や音響機器を自由に設置できるよう、いわゆる「むき出し」の仕上げとする。
また、せりふがホールの壁で乱反射し、聞き取りにくいとの指摘を受け、舞台で発せられる肉声が自然に聞きとれるよう、壁面の一部をコンクリートブロックとするなどして音響改善を行う。
一方、開館当初、最先端と言われた28分割の舞台セリが、長年の使用により、一部動かなくなるなど、舞台装置の劣化・陳腐化は限界に達し、上演団体の中には、備え付けの設備を使わず、自ら機器を持ち込むケースも増えていた。そのため、今回の改修では、舞台設備を全面的に見直し、劣化対応とともに既存の複雑な舞台機構設備を実際の使用頻度、傾向に基づいた合理的なものへ改修する。
小ホール
舞台設備をより使いやすく
小ホール1は上下可動式の床パネルを組み合わせることで、ステージの大きさ、高さ、形が自在にできるため、伝統的な舞台様式にとらわれない演劇やパフォーマンスなどに活用されてきた。
今回、この既存の可変床ユニットを撤去し、「束立て式」と呼ばれる床に改修する。これは、床に切り穴を設置し、「束」を立ててさまざまな高さの床を構築できるようにするというもの。段床バリエーションにあわせた交換用の束を用意することで、段差のある客席が設置できるほか、より自由度の高い舞台セッティングが可能になる。
小ホール2は固定の客席が300席、舞台には緞帳もあり、落語等の演芸などでよく使用されているホール。
今回、舞台を客席側へ拡張し、奥行きを確保するとともに、客席部分の両サイドに新たに「技術ギャラリー」を整備、いろいろなところから照明が当てられるように改修する。また、調整室とキャットウォークとを結び、各種機器の仕込みや技術員の移動の利便性も向上させる。
角度が浅く舞台が見づらいとの声があった座席は、配置を列ごとに左右にずらす「千鳥」にして、より見やすい客席に改善を図る。
内装イメージを一新
アトリウムのエスカレーターは2段に
東京芸術劇場の入口をくぐると、巨大な吹き抜け空間「アトリウム」が来館者を出迎える。このアトリウムには5階まで一直線につながるエスカレーターが設置され、ひとつの名物にもなっていた。
しかし「宙に浮いて怖い」との声が多く寄せられていたことから、今回、不安解消のため2段に分ける「乗り継ぎ形式」にするとともに、壁際に寄せて、安心感を高めるようにする。
アトリウムの内装については、ロアー広場も含めて、落ち着きのある土色などのナチュラルカラーを基本に改修を図ることにした。原色を極力なくすことで、壁面の大理石の質感もより生かされるようになるという。
一方、東京芸術劇場にはホール以外に、絵画や書を展示するギャラリーもあるが、利用希望が多いため、今回、中会議室をギャラリーに改装し2つに増やすことにした。
さらに大会議室については、防音効果を高め、オーケストラのリハーサルにも対応できるようにする。これにより、地下のリハーサル室を自主企画の稽古場とするなど、より自由度が増した活用が可能になる。
創造・発信型の劇場に転換
自主企画公演の取り組みも開始
今回の改修に当たっては、東京芸術文化評議会(会長・福原義春企業メセナ協議会会長)がハード面の改修に加え、劇場の運営についても検証、これまでの「貸しホール」主体の運営から、芸術劇場が自ら作品をつくっていく「発信型の劇場」に生まれ変わるべきだとの提言がなされた。野田秀樹氏の芸術監督就任もその一環で、すでに芸術劇場主催の公演に向けた取り組みも始まっているという。
昨年4月から始まった改修工事は順調に進んでおり、各ホールとも現在、内装・仕上げ工事が大詰めを迎えている。6月には竣工を迎え、その後、オープンに向けた準備作業に入る予定。
9月1日のリニューアルオープンでは、より質の高い芸術文化の発信拠点として、新たな顔を見せてくれることになりそうだ。
東京芸術劇場沿革
昭和44年 5月 | 学芸大学付属豊島小学校跡地を国から取得 |
昭和49年 3月 | 用途を文化体育施設から芸術文化施設に変更 |
昭和53年 3月 | 国から土地を追加取得 |
昭和57年 1月 | 総合芸術文化施設懇談会が基本構想報告 |
昭和57年 12月 | 「東京都長期計画」で事業化を決定 |
昭和60年 3月 | 基本設計委託(設計者 芦原義信) |
昭和62年 7月 | 建設工事着工(工事施工者 大成建設JV) |
平成 2年 8月 | 建設工事竣工 総事業費320億円 |
平成 2年 10月 | 開館 |
平成 3年 5月 | パイプオルガン完成(製作マルク・ガルニエ) |
平成 3年 5月 | 初代館長 遠山一行氏就任 |
平成 5年 4月 | 2代館長 小田島雄志氏就任 |
平成11年 2月 | 東京芸術劇場ミュージカル月間公演開始 |
平成11年 5月 | ランチタイム・パイプオルガンコンサート開始 |
平成13年 9月 | 街づくりふれあいコンサート開始 |
平成14年 4月 | 教育庁から生活文化局へ移管 |
平成19年 11月 | 3代館長 福地茂雄氏就任 |
平成21年 7月 | 初代芸術監督 野田秀樹氏就任 |
平成23年 4月 | 改修工事着工 |