●株式会社三ツ矢 ●品川区西五反田 ●1931年創業 ●従業員数299名
TOKYO★世界一 (12)
めっき加工
株式会社三ツ矢
東京にある、世界トップクラスの技術・技能-。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。目黒川が流れる品川区西五反田の三ツ矢は創業以来、「海底から宇宙まで」さまざまに寄せられる多くの難問を、高度なめっき技術で解決。先端分野の進歩に大きな貢献を果たしてきた。これまでの道のりや、世界初となる製品開発の内側などに迫る。
(取材/袴田宜伸)
めっきと言えば金や銅で食器や装飾品を美しく仕上げる「装飾めっき」や「防錆めっき」が知られるが、そればかりではない。ITや次世代エネルギーなど、先端技術の開発に欠かせない技術でもある。
1960年代から三ツ矢は、特にその分野で手腕を発揮。通信機や電子部品などの繊細なパーツを手がけてきた。
「引退した前社長・草間英一が常に口にしていたのは、『どんなに小さな仕事でも断わらずに、誠心誠意努力してお応えしろ』でした。それに則り、どんな仕事でもお引き受けして一生懸命に取り組んできました」
代表取締役社長・草間誠一郎氏はそう振り返ったが、一つの成果がまた新たな仕事を呼び、いつしか「困ったら三ツ矢に行け」とまで言われるようになった。
これまでに手がけた製品は「海の底から宇宙まで」。決して大げさな話ではない。
海底を通る光ケーブルや人工衛星に張りつける太陽電池をも手がけ、1980年代後半からは、パワーモジュールや世界シェア40%を誇るエンジン用センサーなど、自動車のパーツも加工するようになった。
世界初を生み出すのは経験とすり合わせ技術
三ツ矢に舞い込んでくる依頼には、方々で「加工が非常に困難」と断られてきたものも少なくない。つまり前例がない代物だが、それに対してどうアプローチしていくのか。技術センター長の小澤茂男氏はこう話す。
「お話を聞くと『うまくいく』と、瞬間的にひらめくことがありますが、根本にあるのは経験とすり合わせ技術。金属の性質などの知識にそれまでの経験を合わせ、数ある金属をどう組み合わせればうまくいくかを考えていきます」
そうして作られた世界初の製品の一つが、金属反射鏡。これは、毛利衛氏がスペースシャトル「エンデバー」で行った「高機能半導体材料の生成実験」に使用された。
宇宙に飛び立った高精度な金属反射鏡
従来の金属反射鏡の集光反射効率は約87%。だが実験の成功には、それ以上の数値が必要不可欠だった。
「金だけでは光を吸収してしまうので、87%くらいしか反射しません。このため金以外の金属と合金化することで、非常に反射効率が高い金合金のめっき皮膜ができないかと考えました」
最初は失敗が続いたが「諦めずに最後までやり通せば、絶対に成功する」との信念に基いて小澤氏は、「ちょうどいい配合があるはず」と、寝ても覚めても研究に没頭。
その結果、約1年半の時を経て完成。数千分の1ミリの誤差もなく、集光反射効率が99.8%以上と飛躍的に向上した金属反射鏡は、宇宙に飛び立っていった。
めっきのプロとしての意識を持たせる
こうした功績から三ツ矢は、先端分野を扱う国内大企業をはじめ、引く手あまた。日本全国から、さまざまな依頼が次々に寄せられている。
昨年には、宇宙研究開発機構の依頼で、従来よりも10倍も紫外線を吸収するめっき皮膜を手がけ、現在はめっき加工によるバネ作りや変色しない銀めっき皮膜などに挑戦している。
「お客さまが求めるものは難題ばかりですが、今後もご依頼をお断りせず、めっき1本で邁進していきます」
そのために必要なのは「人材教育」だと草間氏は続ける。
「当社は多品種少量生産をしていますので、数時間おきにラインに乗せる製品が変わります。その切り替えなど、細かい技術を伝承することもそうですが、作業者一人ひとりに『めっきのプロ』という意識を持たせることも大事。ですから主任以上は、全て外部で勉強させています。日本のめっき技術は世界一です。でも安心してはいられません」
飽くなき向上心。これからも三ツ矢は、確かな技術を手に業界をリードしていく。