局長に聞く 35
交通事業者の責任を実感
交通局長 野澤 美博氏
東京都各局の取り組みを局長自ら紹介する「局長に聞く」。35回目の今回は交通局長に就任した野澤美博氏。3月11日の東日本大震災で交通局はいち早く都営地下鉄や都バスの運転を再開しているが、今回のインタビューでは今後の公共交通機関のあり方、人材育成の方針、さらに10日に好評のうちに終了した「東京の交通100年博」などについて聞いた。
(聞き手/平田 邦彦)
震災後にいち早く運転を再開
―3月11日の東日本大震災では、都内で多くの帰宅困難者が生じました。公共交通機関のあり方が再度問われていると感じます。
3月11日は、これまで行ってきた各施設の改良が功を奏して、都営地下鉄が被害を受けることはありませんでした。点検業務も効率的に行うことができたため、都営地下鉄は早めの運転再開が可能でした。
ただ、ひとつの路線だけ運転を再開すると、そこに利用者が集中してしまい却って混乱してしまいます。東京メトロさんや警察、消防などと連絡を取りながら、「まず銀座線と大江戸線を動かそう」ということで話を進めました。その後順次、他の路線でも運行が再開し、待っているお客様がいる間は運転を続けようということで終夜運行も行いました。
お客様からは感謝の言葉をいただきましたが、私たち交通事業者の持つ責任を改めて感じました。災害があってもすぐに復旧し、移動手段を提供するという、課せられた任務の大きさですね。
―東日本大震災のとき、東北新幹線はひとつの脱線事故もなく無事故でした。技術レベルの高さが世界に証明されたと思います。
私たちはあたり前だと思っていますが、日本は安全に関するハードルが高い国です。中国で列車脱線事故が起きたこともあり、日本の技術レベルの高さ、安全への信頼性を改めて国内外に示すこととなりました。
鉄道事業には、線路の管理、車両の管理、電路の管理、運転や駅のマネジメントなど、数多くの業務があります。これらの業務がしっかり結びつくことではじめて、日々安全に運行することができるのです。交通局の職員もその自覚をしっかり持って働いてくれています。
―3月11日の都バスの対応については。
あの時は運転手が一生懸命ハンドルを握ってくれたと思います。大渋滞に巻き込まれましたが、それでもバスが走っているということで非常に感謝されました。
想定外だったのは、帰宅困難者を迎えに来る車が都心に入ってきて道路が渋滞したことです。警視庁や道路管理者、そして我々公共交通機関等がどのような仕組みをつくっていくかが課題です。
9月1日に警視庁が行った大規模訓練では環状7号線より内側の道路の規制を行いましたが、これは大きな実験でした。この訓練が今後に活かせればと思います。
「トコポ」の会員数も順調に増加
―人材の育成では常にチャレンジ精神を失わずにいることが交通局のみならず、東京都の職員に求められることと思いますが。
上からの指示を待つだけになってしまうと、その職場にいる意味がないし、我々も採用した意味がありません。
我々は現場を持つ局です。若手職員がやりたいことを意識して、その実現のために取り組める。そういう組織であることが求められます。それが安全やサービスの質を高めることになり、お客様が求めている要望にしっかり応えることにつながります。
こういう意識を最前線の職員が持ち、最前線からの要望を組織としてしっかり受け止めてフォローする仕組みを機能させることが、より良いサービスを提供できるベースになると強く感じています。
―交通局100周年の記念展覧会、「東京の交通100年博」が好評のうちに終了しました。
14万人を超える大勢のお客様にお越しいただき、大変ありがたいと感謝しています。3世代が楽しめる視点で展示構成しましたが、展示物を懐かしがっている方、子供に語り聞かせている方などを会場で多く見ることができました。我々も率直に良かったと思っています。
―サービスの質の向上策の一環として、8月から開始されたポイントサービス「トコポ」の利用状況はいかがでしょう。
入会キャンペーンポイントや、タレントの木下優樹菜さんを起用した一日駅長イベントの実施によって順調に会員数を伸ばし、すでに5万人を超える方にご登録いただいています。さらに多くのお客様に都営交通をご利用いただけるよう、より良いサービスに育てていきたいと考えています。