局長に聞く 34
災害時の水の確保に万全を期す
水道局長 増子 敦氏
東京都の各局が行っている事業のポイントを紹介してもらう「局長に聞く」。34回目の今回は去る7月16日付で水道局長に就任した増子敦氏。3月11日に発生した東日本大震災では震災後の水確保の重要性が改めて大きな課題となった。そこで、東京水道の震災対策の現状と課題のほか、安全でおいしい水の供給に向けた取り組みなどについて聞いた。
(聞き手/平田 邦彦)
耐震強化をさらに促進
―東日本大震災では、ライフラインである水道が断たれ、水の確保が大きな問題になりました。
水道局の使命は「安全でおいしい水の安定供給」ということに尽きるのですが、今回の大震災を目の当たりにして、水を供給し続けることの重要性を改めて痛感したところです。
水道局では震災直後に応急給水支援や水道の復旧支援などを行ってきましたが、8月からは8人の職員を現地に長期派遣し、津波被害を受けた沿岸19都市の水道復興などを支援していく予定です。
―都内における被害状況と今後の震災対策は。
東京は震度5強でしたが、約450カ所の水道管で被害があり、そのうち4分の3が配水管から分かれて各家庭につながる給水管でした。実は公道の下の給水管はすべてステンレス化されているのですが、私道の下はまだ塩ビ(塩化ビニール)管がほとんどです。今回の地震で塩ビ管が弱いということが改めて分かったので、これについても順次ステンレス化を進めなければと考えています。
一方、配水管については、管自体の耐震性は十分ですが、継手のところで抜けてしまうという心配があります。そのため、平成10年から地震でも抜けない耐震継手管への切り替えを進めており、現在、約4分の1が整備済みです。
これをさらに促進するため、昨年から「耐震継手化緊急10カ年事業」を策定し、これまでの倍のペースで更新を進めています。平成31年には48%を耐震継手管にする計画です。
―電力不足の影響も心配です。
水道事業は電力を大量に使う事業ですから、この問題は深刻です。水道局では、年に数回防災訓練を行っていますが、毎回、さまざまな状況を想定して実施しています。例えば、金町浄水場の機能がすべて停止した場合のシミュレーションなども行っており、こうした訓練を通じて停電時の対応にも万全を期していきます。
さらに、長期的な対応では、浄水場などの予備力を高めるため、これから本格化する更新期に合わせて、施設能力の増強も検討しなければならないと考えています。
お客様に喜ばれる水道を
―東京水道は安全な水質、あるいは、おいしい水という点で、世界の大都市の中でも抜きん出たリーダーと言えるのではないでしょうか。
確かに蛇口から水を直接飲むという文化が根付いているのは日本以外では数カ国の都市だけです。
水道水をそのまま飲めるようにするには、浄水場での処理を良くするだけでは駄目です。浄水場での浄水と、家庭の蛇口に届くまでの給配水、このふたつがトータルのシステムとしてきちんと機能して、初めて安全でおいしい水が飲めるのです。
東京水道は漏水率2・7%に象徴されるように、諸外国に比べ管路の管理技術が格段に優れています。これも普段のメンテナンスがしっかりしているからです。
―かつて言われたカビ臭やカルキ臭もなくなりました。これも高度浄水処理の効果ですか。
かつての浄水方法は、簡単に言えば、濁りを沈殿させてから、ろ過して塩素を入れるだけというものでした。それでは臭いのもととなる物質が取りきれません。高度浄水処理では、濁りを沈殿させた後に、オゾンと生物活性炭により臭いと有機物を分解、その後にろ過する方式をとっています。これは非常にすばらしい方式で、本当においしい水ができます。
いわゆる「カルキ臭」は、塩素と有機物などが反応して発生します。ですから、高度浄水処理された有機物の少ない水は塩素が入っていてもカルキ臭がしないのです。
長年にわたり取り組んできた利根川系の高度浄水処理導入ですが、平成25年度中にいよいよ全量達成できる見込みです。
―安全でおいしい水道水の一層のPRに向けた取り組みは。
水道局では水道水のよさを子供のときから理解してもらう取り組みとして、「水道キャラバン」を続けています。これは小学校4年生時に行われる水道の授業の際に、キャラバン隊が小学校を訪問し、水道の歴史や仕組み、実際の水処理の実験などを楽しく解説し、学んでもらうというものです。
また、この夏休みにも水源地での植林体験や「水道歴史館」「水の科学館」を活用した各種イベントも予定しており、多くの申し込みをいただいています。
それから、これは私のアイディアですが、ヨーロッパの都市にあるような、洒落た水のみ場を東京にもつくれないかと。実は昨年、高尾山の山頂まで水道を整備したときに、水飲み場をふたつつくったのですが、いろいろ実験して水がおいしく飲める蛇口をつけました。水が柔らかく感じると評判もいいので、こういうものを街中にも設置していけないかと考えています。
せっかく、安全でおいしい水をつくっているのですから、ぜひもっと多くの方に飲んで、喜んでいただきたい。「お客様に喜ばれる水道」をつくること、これが私たちの一番の願いです。