局長に聞く 33
「公正かつ中立な」調停を順守
収用委員会事務局長 藤井 芳弘氏
東京都の各局が行っている事業を、局長自らが紹介する「局長に聞く」。33回目の今回は、収用委員会事務局長の藤井芳弘氏。収用委員会は、公共事業で必要となる土地の取得に向けた調停を行う第三者機関。一般都民にはなじみの薄い組織だが、なくてはならない重要な業務を担っているといえる。
(聞き手/平田 邦彦)
権利者と起業者の理解が不可欠
―収用委員会事務局の業務内容はどのようなものですか。
収用委員会は公共事業に必要な用地の取得に向け、補償に関して当事者間の調整を行う第三者機関です。法律・経済・行政に関して専門的な知識を有する学識経験者7名で構成されています。
我々事務局は委員会の事務方で、委員会を補佐する役割を担っています。収用委員会での具体的案件の審理や、審理後の裁決に向け、必要となる権利関係の書類や土地家屋の登記関係の書類などを整え、権利者や起業者の参加を得ながら収用手続きを進めていくのが基本的な業務です。
―収用委員会が取り扱う案件の件数は。
平成12年以降の傾向ですが、年間取扱件数は約100件前後で推移しています。それぞれの案件を処理する際には、我々がまとめた「収用制度の活用プラン」に基づいて、迅速に審理から裁決に結びつけるようにしています。権利者や起業者から十分な協力が得られれば、受理から裁決まで10カ月程度で終わります。
取り扱い事件の内容ですが、従前は東京都が起業者というケースが多かったのですが、近年は区市の割合が高まっています。その他、鉄道事業者など民間事業者の割合も増えてきています。
―案件の内訳を見ると、道路整備に関するものが多いですね。
ほとんどが都市計画道路の整備に関するものです。この他にも鉄道の連続立体交差事業に関するものや区画整理に関するものもあります。
任意折衝で用地を提供していただいた案件と、収用委員会で取り扱う案件とでは、用地取得までの期間がかなり違います。公平性の観点から言えば、一日も速く用地を取得して、道路であれば開通して事業効果を発揮できるようになるのが望ましいです。
―収用委員会の事業内容は、いわば「最後の砦」ですね。
権利者にとっても収用委員会が公平に裁決してくれるということで、最終的には納得いただいています。権利者にとって自身の権利を保護してもらえるということがもっと理解されれば、制度活用は進むことになります。
土地所有者や賃貸借をしている方から「早く新しい生活再建をしたい」という要望があれば裁決申請請求という対応をしており、最近はこの制度を利用する権利者も増えています。
区職員対象の収用研修を実施
―用地の買い取り価格についての精査も行うのですか。
収用委員会の委員には法律、経済、行政のそれぞれの分野を専門とする方々がおられます。例えば商店を経営している方の営業補償額が適切かどうかということも含めて整理しています。土地の権利取得をする際の価格や土地の明け渡しまでの期間などが適正かどうかということも、収用委員会として考えをまとめています。
―過去、解決までに苦労したという事例はありますか。
近年、増えてきているのが、区分所有のマンションが対象となり、権利者が数多いことから手続に非常に時間がかかる案件ですね。また、権利者が海外にいるというケースや、相続の手続きが済んでいないケースなど、権利の確定が進まない事例も東京都の場合、多くあります。収用すべき土地の区画が確定できないような案件もあります。
―「公正にして中立」であるがために、地味ですがなくてはならない重要な仕事ですね。今後の収用委員会事務局の業務の方向性はどうでしょう。
3月11日の東日本大震災を受け、今後の防災対策を含めた都政の方向性が示されましたが、道路整備などの都市整備はさらに進めていくことが必要となりますので、我々の仕事の重要性は高まると考えています。
都が計画している道路整備は、三環状道路では外環道を除いてほぼ整備が進んでいます。今後は区市の道路整備がメインになってくると思いますので、我々も昨年から区市の職員を対象にした収用研修を実施しています。
これまで都下のほぼ全ての区市町村を対象に実施してきましたが、研修に参加した職員は収用制度の内容をしっかり理解し、制度活用につながってきたという実感があります。