局長に聞く 32
「犯罪に負けない」コミュニティを
青少年・治安対策本部長 倉田 潤氏
東京都の各局が行っている事業を局長自らに紹介してもらう「局長に聞く」。32回目の今回は、青少年・治安対策本部長の倉田潤氏にご登場いただいた。都民の都政への要望として「治安対策の充実」が高い割合を示しているが、地域コミュニティの強化を通じて青少年の健全育成や治安対策の充実を図ろうと、自治体やNPOなどの関係機関と一体となって施策を推進している。
(聞き手/平田 邦彦)
体感治安の改善が大きな課題
―青少年・治安対策本部は青少年施策や治安対策など、さまざまな施策を担っていますね。
青少年・治安対策本部の事業を一言で言うと、青少年の健全育成と都民の安全確保を図るため、地域社会やNPO、警察、自治体などが連携する際の結び目としての役割が基本です。
地域の安全を守るには、「犯罪に負けない」というコミュニティの強い意思が必要です。そして地域の中で一番関心が高く合意が得られやすいのが、「子供達を健やかに育て、その安全を守る」というテーマです。
子供達自身が通学路にある危険な場所はどこかを確認しあう「地域安全マップづくり」や、大人達がボランティアとして子供達の通学時間等にパトロールする「子供安全ボランティア」といった活動は都内各地に広まっています。子供達を守ることがそのまま地域の安全を守ることにつながっている例です。
安全・安心まちづくりの分野では、地域でボランティア活動を行うときのリーダーの育成のための支援に取り組んでいます。
昨年度から3ヵ年で「子供見守りボランティアリーダー育成講座」を開始しました。講座の受講生には、自分達の地域の実情にあったボランティア活動計画をつくっていただき、それを実行する際には都と区市町村が支援をします。地域のコミュニティが力を付けながら自分達の街を守ろうという動きが広がることを期待しています。
―刑法犯発生件数は減少しているにもかかわらず、都民の多くは治安対策の充実を求めています。体感治安が改善されない理由は何でしょう。
例えば、繁華街における無差別殺人事件や、振り込め詐欺事件などが発生しています。
これまでは自分で危ない所に近づかなければ自分の身を守れたのに、現在は犯罪が自分のすぐ近くにまで迫ってきているという不安感を多くの方が持っているのだと考えます。
それに世代間の意見が合わなくなっているということもあげられます。
これまでの日本社会では、多くの人の考え方がたいてい了解可能で、想定の範囲内にあったと思いますが、今では特に世代間でそれが崩れてしまっています。また、これまで結び目として機能してきた家族や地域が十分にその役割を果たせなくなっています。そのことに対する不安感もあると考えます。
それらの課題を解消するためには、やはりコミュニティが持つ力をいかに強化するかが重要です。家族レベル、地域レベルでの結びつきを強めることが今、求められていると感じています。
地域や行政のコーディネート役として
―交通施策も担当していますが、どのようなことをやっているのでしょう。
ひところは都内の交通事故死者数は相当な数に達していましたが、一昨年は戦後最低レベルにまで減少しています。昨年は戦後2番目に少ない数字でしたが、今年も昨年と同水準で推移しています。
東京の高齢化はかなり速いスピードで展開しています。高齢者の交通事故における死亡率は他の年齢層に比べて高くなっていることから、交通事故から高齢者をいかに守るかが地域において非常に重要な課題です。
65歳以上で交通事故で亡くなる方は、交通事故の死者数全体の約4割を占めていて、そのうちの約6割以上が歩行中での事故です。そしてその半分が夜間です。夜間は反射材をつけたり、明るい服装を心がけることを地域ぐるみで高齢者に訴えていくことが重要で、これも地域のコミュニティ力の問題ですね。
―交通施策では自転車の事故やマナーの問題もあります。頭の痛い問題ではないですか。
ルールやマナーに関しては啓発と取り締まりで対応することになります。取り締まりはもちろん、警察で行いますが、啓発は警察だけではなく行政も力を入れていくことです。
我々も啓発事業を行っていますが、全体として自転車施策が上手く展開しているかどうかについて、長期的な視点から検討し、課題があるとすれば自転車施策をどのように再構築するかをしっかり考える時期に来ていると思っています。
数年前に策定した「自転車の安全利用推進総合プラン」の見直しと再構築に向けた検討に着手する考えです。
―担当する事業内容をうかがうと、警察との線引きが難しいところもあるのではないでしょうか。
例えて言えば、外科手術と内科的予防の違いだと考えています。病気になった時、緊急の場合には病巣を取り除くことが必要で、これは警察の仕事ですが、病気になりにくい身体をつくることは、警察だけでの仕事ではあり得ないと思います。
社会全体が犯罪を起こし難い体質にするには、行政や都民などいろいろな方々の努力が必要です。そのためのコーディネート役が我々です。我々は何の捜査力も持っていませんが、コミュニティの力を強め、犯罪や事故に対する抵抗力のある健康な社会をつくることが我々の仕事だと思っています。