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リニューアル工事進む上野の「東京都美術館」
新たな文化拠点として来年4月オープン
多くの美術館、博物館が集中する上野公園は、人々の憩いの場であると同時に、さまざまな文化と出合える場所として親しまれている。東京国立博物館、国立西洋美術館、国立科学博物館など国立の施設のほか、東京都の施設として、恩賜上野動物園、東京文化会館、東京都美術館などがある。このほど、そのひとつの「東京都美術館」が老朽化のためリニューアルされることになり、昨年4月から改修工事が進められている。今回の改修計画のポイントについてレポートする。
建築学上貴重な「前川建築」を保存
「東京都美術館」の前身「東京府美術館」が開館したのは大正15年。その後、半世紀にわたり新作発表の場として都民に親しまれてきたが、建物の老朽化に伴い昭和46年、新館建設が決定された。
その設計を任されたのは前川國男氏。戦前、ル・コルビュジエに学び、モダニズムの旗手として戦後の日本建築を代表する建築家だった前川氏は、東京都美術館の設計にあたり、「平凡な素材によって、非凡な結果を創出する」ことを目指したという。そして派手さはないものの、機能性に優れ、公園という周辺環境に溶け込むデザインをつくりあげた。
新館は昭和50年に完成、以来、主に「日展」「院展」をはじめとする公募展を中心とした美術館として重要な役割を果たしてきた。
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バリアフリー化工事が進むエスプラナード。奥は食堂棟。右は建設が進む企画棟(昨年11月末)
しかし、建設以来、約35年が経過し、躯体そのものに問題はないものの、設備の老朽化が深刻な状況にあること、バリアフリーへの対応が必要なこと、企画棟展示室の天井が低いこと、搬入路の改善が必要なことなどから、大規模改修することが決まった。
改修にあたって最も配慮したのが都民に親しまれ、建築学上も価値の高い「前川建築」の保存。そのため、公募棟は躯体をそのまま活かすこととし、建て直される企画棟については新築時のものを再現した外壁タイルを使用するなど、これまでのイメージを後世に継承することを基本としている。
ユニバーサルデザインを導入
〈公募棟の改修〉
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ギャラリーのイメージ
躯体を活かして改修する公募棟では、内部の設備の改善が基本となる。
とくに展示室の照明装置が古いため、作品に影が出たり、逆に光が反射したりするなどの問題があることから、全面的に見直し、均一でムラのない照明を導入する。
さらに空調についても、来場者が快適に鑑賞できるよう、よりきめ細かい調整ができる設備に更新する。
また、公募展の場合、大量の作品が一斉に搬入されることから、トラックバースを増設し、よりスムーズな動線を確保する。
〈エントランスのバリアフリー化〉
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企画展示室ラウンジのイメージ
東京都美術館の特徴のひとつが公募棟と企画棟に囲まれた「エスプラナード」と呼ばれる中庭広場。来場者はここから階段を下りて、地下1階にある入口から館内に入るようになっていた。しかし、これまでは階段しかなく、お年寄りや体の不自由な方にはバリアとなっていた。
そこで、新たにエスカレーターとエレベーターを設置しバリアフリー化を図る。
〈アメニティ施設の充実〉
これまで1箇所しかなかったレストランに加え、改修後は気軽に軽食がとれるカフェと、落ち着いて食事ができるレストランの計3箇所とし、来場者の多様なニーズに対応する。
さらに小さなショップコーナーしかなかったミュージアムショップは、新たに広いスペースを確保し内容を充実させる。
〈北側アプローチの新設〉
上野公園全体の動線に配慮し、これまで行き止まりだった敷地北側に新たにアプローチを新設、隣接する奏楽堂に抜けられようにする。東京都美術館の敷地を含めた公園全体の回遊性が高まることから、来館者の増加も期待される。
昨年4月から始まった東京都美術館の改修工事はスケジュール通り、順調に進んでおり、2月現在の進捗率は全体の約4割。
これまでに全面建替えとなる企画棟やエスプラナード(地下1階の美術館入口に通じる中庭広場)の解体工事、公募棟の内部設備の撤去工事などを終えており、3月中には企画棟のコンクリート打設など躯体工事も完了する予定だ。
その後はいよいよ仕上げの段階に入り、設備工事などが行われ、本年秋頃には生まれ変わった全体像が姿を現すことになる。続いて各種検査を行った後、本年末に建物が竣工、準備期間を経て来年4月のリニューアルオープンを迎える。
工事の実施にあたっては、安全確保はもとより、公園内の施設であること、とくに隣接する「奏楽堂」の音楽鑑賞や上野動物園への騒音・振動の影響を極力低減するよう、関係者と連絡調整し管理を徹底しているという。
さらに、職員による秋の落葉清掃など一斉清掃を実施し、現場周辺の環境維持にも努めている。
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改修前の公募棟(昨年5月末)。外観の意匠はこのまま残される
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企画棟外壁に使われるタイルは何度も試作品をつくり質感を再現
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建替えのため解体された企画棟(昨年7月末)
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外壁の調査・補修のため足場で覆われた公募棟(昨年11月末)
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