社会に貢献するために 第1回
自動販売機とAEDが合体
日本光電工業株式会社/アーバン ベンディックス ネットワーク株式会社
緊迫したオペ室で、医師が両手にアイロンのような器具を持ち、“電気ショック”を与える―AEDは、まさにそのことを自動で行う医療機器。日本で唯一AEDを開発・製造している日本光電とアーバン ベンディックス ネットワークは手を携えてAEDの普及に励み、一人でも多くの人の命が救われることを願っている。
(取材/津久井 美智江)
東京マラソンでランナーの命を救った
昨年、第3回東京マラソンに参加した男性タレントが、一命をとりとめたことで一気に知られるようになったAED(Automated External Defibrillator/自動体外式除細動器)。駅の改札口、オフィスビルなどに設置されているので、目にしたことがある人は多いだろう。
日本国内において、病院外での心臓突然死は年間6万人ともいわれている。その原因のほとんどが「心室細動」で、これを治す唯一の方法がいわゆる“電気ショック”。発作を起こしてから数分以内であれば、電気ショックをすることで大切な命を救うことができる。
日本で最初に医療機関以外でAEDを導入したのは航空機内。機内で倒れた人を助けたいと、2001年から搭載するようになり、医療従事者ではない客室乗務員でも航空機内に限りAEDを使用できるようになった。
厚生労働省通知により、医師免許を持たない一般市民がAEDを使用できることになったのは04年7月のこと。
「営業を始めて1年くらいは、AEDは救急救命士が使うものと思われていて、AEDの必要性や使い方をお伝えすると同時に、救急車が到着する前に一般市民が胸骨圧迫と人工呼吸を含む心肺蘇生の実施とAEDを使用して電気ショックを行うことが、救命のためには重要であることを啓発しなければなりませんでした」と当時を振り返るのは、日本光電工業AED事業推進部販売企画一課長の渡部一十知さん。
自動販売機にAEDをセットできたら……
飲料の自動販売機は人が集まるところに設置されている。そこにAEDを入れることができれば、多くの人に知ってもらえるのではないか―。顧客との会話から画期的なアイデアが閃いた。
「素人考えとはわかっていましたが、何社かに声をかけてみました。次々と断られるなか、当時、アーバン ベンディックス ネットワーク(以下アーバン)さんだけが興味を持ってくれました」(渡部さん)
アーバンは、都内に1万台ものベンディングネットワークを持ち、自販機によるさまざまなサービスを提供している。AED格納型自動販売機の開発・営業に携わった同社パブリックリレーション営業部課長の村山豊さんは、
「心臓発作発生時にお役に立ちたいという思いから、AEDを自販機に格納し、付帯サービスとして貸与することにしました。最初の試作品はAEDを収納する部分が出っ張っていて、飲み物を取り出すときに頭をぶつけてしまうようなシロモノでした」と苦笑する。
改良が重ねられ、現在は都内および首都圏約300カ所に設置。実際に街なかで使用され、命を救うことができた事例が報告されている。
「ファストフード店で客が倒れた際、店のスタッフが近くのショッピングセンターにAED格納型自販機があることを覚えていてくれたんです。電気ショックは早ければ早いほどいい。1分遅くなるごとに救命率は約10%落ちるといわれていますから、人が集まるところであれば、100mくらいに1台あるのが理想ですね」(渡部さん)
AEDは各フロアに設置するべき
AED格納型自販機は、鮮やかなオレンジ色。街なかで目立つことも重要なポイントなのだ。また、AED格納部の扉を開けると大きな音が鳴るが、これは盗難防止だけでなく、周囲にここで何かが起こっていることを知らせる役割も果たしている。
実際に操作していただいた。「AEDはしゃべります」というACの広告があるが、まさにその通り。フタを開けると自動的に電源が入り、自動的に音声ガイドが流れて、やるべきことを的確に指示してくれる。まるでドクターがそばにいる感覚だ。
「皆さん、誤ったことをしてしまったらどうしようと心配されるようですが、例えば電気ショックをするべきかどうか、電気ショックを行うエネルギーの量を含め、すべてAEDが判断します。また、善意の救助者が法的責任を問われることはないとされています」(渡部さん)
AEDは、本体、バッテリー、電極パッドの3つのコンポーネントで構成。それぞれの使用期限や状態等はAED自身が毎日セルフテスト(自己診断)を行い、その結果はステータスインジケータに表示されるため、AEDが使用可能か不可の状態か分かる仕組みになっている。
胸にボールが当たり心臓しんとうを起こし死亡するという事故がたびたび報告されている。もしも校庭や体育館にAEDがあったら……。
病院関係や官公庁はもちろん、オフィスやショッピングセンター、学校関係などは、各フロアに1台AEDが設置されるようになってほしい。