局長に聞く 28
限られた医療資源を最大限に活用
病院経営本部長 川澄俊文氏
東京都の各局が行っている事業のポイントを紹介してもらう「局長に聞く」。28回目の今回は病院経営本部長の川澄俊文氏。平成13年度から始まった都立病院の再編整備を基本とした「都立病院改革」が総仕上げの時期を迎えている。この間の取り組みでは、安全・安心の医療を確保する上で、限られた医療資源である都立病院をいかに効率的に運用すべきかが大きなテーマとされてきた。都立病院改革の現状、医師不足対策、経営改善などについて聞いた。
(聞き手/平田 邦彦)
都立病院の再編整備を推進
―都立病院の再編整備の現状についてお聞かせください。
いわゆる「都立病院改革」は、365日24時間の安全・安心の医療を確保すべく、平成13年にマスタープランが策定され、10年間を計画期間として取り組みが始まりました。
その後、5年ごとの第1次都立病院改革実行プログラム、第2次実行プログラムに基づいて、大久保、荏原、豊島病院の公社化や、清瀬、八王子、梅ケ丘病院の小児総合医療センターへの移転統合、府中病院の多摩総合医療センターへの再編、各病院の改修などが進められてきました。
現在は、8つの都立病院と(財)東京都保健医療公社が設置する6つの病院という体制となっており、主に都立は高度専門医療、公社は地域医療を担っています。
第2次実行プログラムの最終年度は平成24年度なので、いまは仕上げの時期と言っていいと思いますが、着実に計画を進めていきたいと思っています。
―患者の立場とすれば、都立病院など、より大きな病院で診てほしいという本音もあるのではないでしょうか。
確かに大きな病院のほうが安心だと、都立病院に来られる患者さんはいます。患者さんにとっては、「最初は地域のかかりつけ医に行ってください」という役割分担のしくみは、わかりにく面があると思います。
そのため、日ごろからの医療連携が大切になります。各病院では、地元のお医者さんと一緒に症例の研修会を実施したり、講演会を開くなど、相互の緊密な関係づくりに努めています。また、入院治療の後に病状が安定した患者さんを紹介元に戻す「返送」や、都立病院に来た患者さんで病状に大きな問題がなければ、地元のお医者さんを紹介する「逆紹介」も進めており、より適切な医療機関で受診することが理解されてきています。
いずれにしても、限られた医療資源を有効活用するには、役割分担と連携が重要ですから、今後もそうした努力を続けていきたいと考えています
東京医師アカデミーで人材育成
―医師不足への対応はいかがですか。
医師の数は全体的には増えているのですが、診療科によって偏りがあり、とくに産科、小児科の医師不足が深刻です。ほかにも外科医のなり手が少ないなど、比較的ハードな医療を担う医師が少ないですね。
即戦力を確保するには、ほかから引き抜くしかないわけですが、それは結果的に地方へのしわ寄せにもなりかねません。
そこで東京では集めるだけでなく、育てていこうと、「東京医師アカデミー」という臨床研修医(レジデント)の研修制度を立ち上げました。都立病院と公社病院を合わせると、病床数は7200床にもなりますから多数の症例を経験でき、研修カリキュラムがつくりやすいというメリットがあります。
今年で3年目になりますが、初期研修(大学を出て2年間)を終えた多くのレジデントが来ており、来年には第1期生が研修を終えます。産科、小児科を目指している人も多く、かなりの人が都立病院にとどまる見込みです。
この「医師アカデミー」の試みは、優秀な実績をあげたことが評価され、先日、「第15回東京スピリット賞」を受賞、知事表彰を受けたところです。
―「病院経営本部」という名称にもあるとおり、病院事業にとって経営の安定ということも重要です。
都立病院の経営は公営企業会計の「病院会計」で行われており、よりよい医療を提供すると同時に、経営面でもきちんと経営改善して、効率的な運営体制をつくっていくことが求められています。
しかし、我々が担っているのは高水準で専門性の高い診療機能のもとに提供する、救急医療、感染症医療、がん医療、周産期医療といった「行政的医療」が重要な分野です。
これらはいわゆる「不採算医療」とも言われるもので、患者さんが支払う診療費だけではやっていけません。そのため、年間、約500億円の税金が投入されています。
医療技術は日進月歩で進展しています。これに遅れを取らず、病院の機能の充実を図りながら、経営改善をどう進めていくかが課題です。
本部と各病院では、手厚い看護体制によって高い診療報酬が得られる7対1入院基本料の施設基準を取得するなど収入の増加策、一括購入することでコストの縮減ができる医薬品や診療材料の共同購入など経費節減策を推進し、収支改善に努めています。