局長に聞く 27
「福祉」と「保健・医療」を総合的に展開
福祉保健局長 杉村栄一氏
東京都の各局が行っている事業のポイントを紹介してもらう「局長に聞く」。27回目の今回は福祉保健局の杉村栄一氏。東京の実態に即した福祉施策や医療施策を展開する同局には、今後も都民からの期待が高まることが予想される。今回は特に子育て施策や医療人材の確保策などについて話をうかがった。
(聞き手/平田 邦彦)
高齢者を見守る「シルバー交番」を設置
―福祉保健局はその担当する内容が多岐にわたっていますね。
福祉保健局は6年前に旧福祉局と旧健康局が統合して発足しました。高齢者社会の進展に備え、「福祉」と「保健・医療」を一体として総合的に提供することが発足の理念ですが、大変守備範囲が広い局になりました。
福祉分野では、少子高齢化への対策が急がれており、特に子どもを社会全体で育てるための仕組みづくりが重要となっています。「東京都保育計画(後期計画)」では、平成22年度から26年度までに、3万5千人分の保育施設整備を行うことを目標に掲げており、現在、さまざまな取り組みを行っています。
今年度は、パートタイム勤務や育児短時間勤務など、保護者の就労形態の多様化に対応した「定期利用保育事業」を創設し、区市町村に対し支援を行っています。
また、現在、午後6時までとなっている学童保育を7時まで延長しようと「都型学童クラブ」を設置し、これも区市町村に働きかけています。
今年4月には待機児童が8千4百人を超えています。これまで認可保育所も認証保育所も増えているのですが、待機児童の解消には追いついていない現状があります。両保育所の設置促進はもちろん、定期利用保育など多様な保育事業を進めたいと思っています。
―高齢者対策はいかがですか。
高齢者対策では、昨年に少子高齢時代にふさわしい新たな「すまい」実現PT(座長:猪瀬副知事)を立ち上げ、施設中心の施策から、ケア付き住宅のあり方などについても検討し、ひとつの新しい方向性を打ち出せたと考えています。
今後は、①特別養護老人ホームなど介護施設の整備、②ケア付き住宅の整備、③在宅での見守り機能やケア機能の充実という3つの取り組みを同時に進めていく必要があると考えています。
昨年3月、群馬県にある低所得高齢者のための老人施設「たまゆら」で火災が発生し、都内から入所している高齢者が死亡するという衝撃的な事件がありましたが、これを契機として、低所得の高齢者でも入居が可能で、かつ地価が高い東京でも整備しやすいよう、施設基準を緩和した「都型ケアハウス」というものを国に働きかけて制度化しました。
また、地域の見守り機能を強化するため、「シルバー交番設置事業」も進めています。
福祉分野ではこのほか、児童虐待への対応、障害者の就労支援、認知症対策および低所得者対策など多くの緊急に取り組むべき課題があり、それぞれの部署が一丸となって施策を進めています。
また、一昨年、昨年と実施した年末年始のいわゆる「派遣村」について、今年は実施せず、働く意欲のある人に対する支援を通年対策として強化することにしています。
がん対策や医療人材確保も推進
―保健医療分野での取り組みは。
保健医療分野も課題は山積しています。
第一に「がん対策」です。がんは、都民の死亡原因の第一位を占めており、がん検診受診率50%の目標達成に向けた普及啓発の強化や、高度で専門的ながん医療提供体制を構築するための「がん診療連携拠点病院」等の整備を進めています。また、より適切ながん医療推進のため「地域がん登録」も準備を始めています。
第二に「医療人材の確保」です。産科、小児科医をはじめとする深刻な医師不足に対処するため、病院勤務医の労働環境改善支援や、都独自の奨学金制度による次代の医師の育成等を進めています。また、看護師についても育成・確保に努め、総合的な医療人材確保に取り組んでいます。
第三に「医療連携体制の整備」です。限られた医療資源を最大限有効に活用し、適切な医療を提供するためには、大学病院と中小病院の連携、病院とかかりつけ医との連携、さらには、地域における医療機関と介護サービス機関との連携など、切れ目の無い連携体制を構築することが不可欠です。都では、医師会等関係団体と密接に連携し、こうした体制の整備に努めています。
第四に「救急・災害医療等の充実」です。地域全体で救急患者を受け止めるため、昨年から「救急医療の東京ルール」を推進しています。また、本年度は、高度な救命治療を行う「こども救命センター」を4カ所指定するなど、小児救急医療体制も充実を図っています。さらには、NICU(新生児特定集中治療室)の増床や多摩新生児連携病院の創設など、周産期医療の充実も引き続き進めます。
ほかにも、感染症など健康危機管理対策、生活習慣病対策、自殺防止対策、食品の安全・安心対策など、大変重要な課題が多くあります。
―新型インフルエンザ対策ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。
昨年の新型インフルエンザ対応の教訓を踏まえ、強毒性の鳥インフルエンザの発生も視野に入れながら、サーベイランスの強化、流行状況に応じた医療体制の強化および感染予防策の周知徹底に万全を期したいと考えています。また、抗インフルエンザウイルス薬や個人防護具の備蓄も着実に進めていきます。