誇りを持てる足立区を目指す
足立区長
近藤やよいさん
今、足立区は大きく変わりつつある。
近藤やよい区長は平成19年の区長就任以来、これまでの足立区のイメージを払拭すべく奮闘中だ。
都市基盤整備がひと区切りついた今、区民満足度をあげるためにソフト面の施策にも意欲を見せている。特に教育と治安の課題解決に向けた決意は強い。次のステップを視野にする近藤区長に区政に対する思いを伺った。
(インタビュー/遠藤 直彦)
東京電機大の誘致に成功
高層ビルだらけの足立区はいらない
―近藤区長は平成19年に就任しましたが、区政運営の基本的な考えは。
近藤 区長に就任する前は区のやっていることが見えませんでしたね。そのため、透明性を高めるとともに、区政に関する情報発信に努めてきました。
足立区の基本理念は「区民との協働」ですので、協働を進める上で役所を信頼していただく必要がありますし、信頼の前提条件は知ってもらうことだと思います。
「最近、新聞や雑誌、テレビなどを見ていると、足立区に関する話題に触れる機会が多くなった」という声を街の中で聞くようになってきました。これまでの努力が実りつつあるのかなと思っています。
―昨年、政権が交代しましたが、これが区政に与えた影響はあるでしょうか。
近藤 政権交代で何が変わったかといえば、東武線の竹ノ塚駅周辺の立体交差事業は、これまでは国土交通省に対して要請活動を行ってきましたが、今は政府に直接行わなければならないので、区議会や都議会の皆様にご協力いただいてルートを作っています。
国政はどうであれ、国民生活に身近な自治体の観点から考えて冷静に対応しています。国の対決図式を区に持ってきて何もできずに任期の4年が終わってしまうことだってあり得ますからね。幸い、区議会にはご理解をいただいていると感謝しています。
―日暮里・舎人ライナーの開通など、都市基盤整備はある程度進んだということで、これからはソフト面の施策を充実させようというお考えのようですが。
近藤 都市基盤整備は「もうこれで終わり」というものではなく、「ひと区切りついたかな」ということです。今まで足立区の大きなボトルネックだった交通の不便性が解消し、区民満足度が大きく上がりました。では足立区の次のボトルネックは何かというと、教育と治安なんです。この二つを取り上げていきたいと思っています。
―今後の政策の柱ということでしょうか。
近藤 この二つは非常に重い課題ですので、財政がどんなに厳しくても何としても突破していきたいです。
千住地域に東京電機大学を誘致することになりましたが、大学生が日常生活の中で街中を闊歩していることがごく普通である雰囲気を作ることにこだわりました。大学が地域の中にあることで、子どもたちが将来、その大学で学びたいという憧れを植えつけることが重要だと考えています。
当初、別の目的での再開発が決まりかけていたのを、直前で大学の誘致に変更しました。東京都からは「足立区には計画性がないのか」と言われてしまいましたが、そうでなければただ単に高層マンションが建っていたでしょうね。
―従来のマンション建設だけの再開発、まちづくりでいいのかということですね。
近藤 私には子どもの頃の足立の風景を残したいという思いがあって、正直なところ、足立区に高層ビルが建つことには違和感を感じています。
もちろん、高層ビルのある地域があってもいいのですが、足立区中が高層ビルだらけになる必要はないと思っています。
千住地域もちょっと表通りから中に入ると、映画「三丁目の夕日」のようなイメージのところもまだ残っています。狭い立ち飲み屋がひしめいている飲み屋横丁もあります。新しいものと古いものが渾然一体となった街で良いと思います。
治安対策には背水の陣で臨む
「ビューティフル・ウインドウズ事業」を開始
―先ほど区民満足度というお話がありましたが、さまざまな施策を通じて区に対するイメージは上がっているということでしょうか。
近藤 毎年9月に区民の意識調査を行っていますが、昨年、「足立区に愛着を感じるか」という新しい項目を設けました。
その結果、約7割の方が「愛着を感じる」と回答してくださって、非常に力強く思っています。しかし「誇りを感じるか」という設問については、約半分の方が「感じられない」と解答しているんです。
住んでみれば意外と便利なので愛着はあるけれど、「私は足立に住んでいます」と胸を張って言えるまでには至っていない過渡期なのかなと。ただ、愛着は持っていただいているので、これから先、孫子の代までかかっても、それを誇りにまで高めていきたい。足立区は確実に次のステップに向かっていると思います。
―治安の問題についてはいかがでしょう。ひったくり一掃キャンペーンなど、さまざまな取り組みを展開していますが。
近藤 足立区というと「危ない町」だとか、「昼間でも女性が一人で道を歩けない」などということがまことしやかに語られています。そういうことを言ったり思っている方には、足立区に来たこともなければ場所も知らないという方もいらして、漠然としたイメージで感じているんです。
しかし刑法犯の認知件数が4年連続でワーストワンという歴然とした事実もあり、これを区民の力で変えていく必要があります。
かつてニューヨーク市長だったルドルフ・ジュリアーニさんは「ブロークン・ウインドウズ理論」を提唱していました。これは「治安が悪い」というマイナスイメージをゼロにすることだと思うのですが、足立区が取り組んでいる「ビューティフル・ウインドウズ事業」は、マイナスをゼロにするだけではなく、プラスに転じることです。今回、警視庁の生活安全部と連携できたことは大きいですね。
―効果に期待が持てそうですね
近藤 警視庁と連携しているということは、私達も背水の陣をとっているということです。区としても庁内が一丸となって取り組んでいくことが強く求められています。
朝夕には職員を動員して、駅前でキャンペーンをやりましたが、区民にお願いする以上、まず私達が汗をかかなければなりません。治安の問題を解決しないと足立区の次のステップはないということです。
―次のステップというのは……。
近藤 足立区は、江東区に次いで人口の流入が多いのですが、特に20代後半から30代の、マンションを購入して子育てをする年齢層が増えています。川に囲まれ、区部では公園面積が最も広いことから、子育てに良い環境だということが評価されているのだと思います。
足立区の良いところは、週末におにぎりを持って家族で公園で遊んだりできる環境があるということです。そんな生活を求める方には是非、来ていただきたいですね。
もちろん、区内には劇場をはじめとした文化施設もありますので、色々な時間の過ごし方ができると思います。今後、大学ができて若い学生さんが増えれば、自然発生的に新しい文化的な動きも出てくると期待しています。
正念場迎える竹ノ塚駅連続立体
国からの財政支援を強く要望
―東武線竹ノ塚駅の連続立体交差事業は区が施行するという、あまり例のない形での実施となります。この事業について説明をお願いしたいのですが。
近藤 都市計画は来年3月までに決定を予定しています。5年前に竹ノ塚駅の踏切で悲惨な死亡事故が発生しています。それまでも線路を高架化して踏切を除却する連続立体交差事業の推進を訴えてきましたが、この事故を契機に、区議会をはじめ地域の皆さんが一体となって、法的には道路の関係で立体化が困難だったにもかかわらず、立体交差化を訴えてきたことは強い思いの表れです。
私も区長選の公約で、連続立体交差事業の平成23年度の着手をうたっているので、何としても実現したいです。
しかし、都市計画決定がなされても、これが将来の事業費の財源の保証にはならないとも聞いています。このことはしっかりと対応しなくてはなりません。
―東京都からの財政支援はあるのでしょうか。
近藤 都が出すにしても、国の財政支援があることが大前提なんです。国の支援がなければ最悪の場合、区が事業費をすべて出さなくてはなりませんが、それはまったく現実的な話ではありません。何としても国の財政支援を得るために、地域の方々とも連携して盛り上げていかないとなりません。これからが正念場です。
連続立体交差事業で線路が高架化されれば、駅前広場も広がります。現在は東西に分断されたまちが、新たに生まれ変わることで竹ノ塚駅周辺の活性化、まちづくりが重要になりますので、このことを肝に銘じていきます。
―最後に区長からぜひ話しておきたいことがあれば。
近藤 足立区は私が就任する以前から、行政改革には一生懸命取り組んでいます。区職員の定数は減らせるところまで減らしていますので、これ以上の削減は難しいというレベルまで達しています。
内閣府に官民競争入札等監理委員会がありますが、これまでの取り組みが評価され、自治体では唯一足立区が委員として認められ、私が参加しています。
国の議論を聞いていると、「まだそのレベルなのか」と思うことが沢山あります。枝野行革刷新担当大臣が今後、この委員会の視察に訪れるようですが、その際には地方自治体に市場化テストの導入が進まないことについての課題を話す必要があると思います。
足立区ではできることはすべてやっているので、これ以上進めるとなれば国の法整備を求めなくてはなりません。足立区はこの面ではこれまでも地方自治体のトップランナーでしたから、これからも先頭で走り続けていきたいです。
<プロフィール>
こんどう・やよい
昭和34年、東京都足立区生まれ。青山学院大学大学院経済学博士前期課程修了。昭和58年4月警視庁女性警察官に。美術品盗難事件などの外国人犯罪捜査に携わる。平成8年税理士事務所開設。平成9年都議会議員初当選、以後2期努めた後、平成19年足立区長に就任。精神を集中するために写経を行っているという。「一枚書き上げるのに45分ほどかかるが、集中することでアイデアが生まれたり迷いが晴れる」と語る。座右の銘は「継続は力なり」