局長に聞く
都民の防災力を高める
東京都消防庁 消防総監
新井雄治氏
東京都の各局が行っている事業のポイントを紹介してもらう「局長に聞く」。19回目となる今回は東京消防庁の新井雄治消防総監。4月から住宅用火災警報器の設置が義務化されるが、そのねらいをはじめ消防業務が果たしている役割について話を伺った。
(インタビュー/小林 明雄)
火災報知器の設置が急務
―今年4月からすべての住宅に火災警報器の設置が義務化されますが、義務化の経緯は。
かつて都内における火災発生件数は、昭和45年がピークで年間約1万件にも及んでいました。その後、建物の耐火性などの火災予防対策が進められたことで、昨年の火災発生件数は5500件と、ピーク時に比べ半減しました。
しかし火災による死者数は、ここ10年間は100名前後で推移しています。住宅の火災で亡くなる方が全体の8割近くを占めており、これが住宅用火災警報器設置の義務化の大きな要因です。
―現在の普及状況はいかがでしょう。
昨年6月の調査では設置率は48%ほどでした。暮れの調査では62%でしたが、まだまだ十分な普及状況ではないと認識しています。4月まで残りわずかですが、テレビCM、電車の窓上広告などあらゆる媒体や手段を講じて普及啓発に努めています。専用の相談窓口も設け、フリーダイヤルで受け付けていますが、「どこでどんなものを買えばいいのか」といった相談が多いですね。
「4月から義務化になるんだからそれまでに警報器を付ければいいだろう」と考える方もいますが、火災は4月まで待ってはくれません。一刻も早い設置をお願いしています。
―東京消防庁では「救急相談センター」(♯7119)を開設しています。
年間の救急件数が一時期に70万件にまで増加したことがあります。しかしその中には、必ずしも重症でない方が救急要請をしているという実態があり、重症の方にすばやく対応できるよう、救急利用の適正化を図るために「救急相談センター」を開設しました。
救急車を呼ぼうか迷った際は看護師に相談し、救急かどうかを判断してもらうことで、救急車が本当に重症の方に対応できるようにしようということです。看護師と看護師に助言を行う医師が常駐して、24時間365日対応しています。
―高齢者の方は、どうしても「早く診てほしい」と救急車を利用するようですが。
昨年から東京都福祉保健局、東京都医師会とも連携し、「東京ルール」を立ち上げました。このルールの一つには、「救急車で病院に行っても早く診てもらえるとは限りません」というもので、病院内で重症度を判断して診察の順番を決めます。仮にマイカーで病院に来た方でも、症状が重ければ救急車で運ばれてきた方よりも先に診察されることもあり得ます。
―相談センターは重要な役割を担っていることがわかります。課題はありますか。
相談センターの周知度がまだまだ低いことが課題ですね。昨年6月の調査では周知率は28%ほどでしたので、多くの都民の方に知っていただきたいです。
防災活動が地域の再生に
―東久留米市の消防事務を東京消防庁が受託するとのことですが。
消防の広域化により、特殊な消防車の保有が可能となるほか、大災害が起きたときの対応が、より効率的になるというメリットがあります。4月から東久留米市の消防事務も東京消防庁で担うことになりました。今後は東京消防庁のスケールメリットを活かした消防活動が可能となります。
―最後に今後の抱負をお聞かせください。
一番懸念しているのは大規模災害の発生です。我々や地域の消防団をいくら拡充しても災害規模のほうがはるかに大きい場合もあるので、都民一人ひとりの防災力を高めることが緊急課題です。
特に若い人たちに防災の知識や技術をしっかり身に付けてもらうことが大事だということで、幼児期から大学生までを対象に防災教育を実施しています。これまでも取り組んできましたが、今後、さらに力を入れていきたいですね。
都内は地域のコミュニティが崩壊してしまっているといわれますが、防災訓練等を通じて地域のコミュニティが再生できるきっかけになればいいですね。心と心をつなぐ手助けを消防ができればと思います。
火の用心は地域活動が原点ですから。