4箇所の拠点により都市部の物流を合理化
災害時には物資輸送拠点として都民を支える

日本自動車ターミナル株式会社

  • 取材:種藤 潤

左から日本自動車ターミナル株式会社総務部総務・人事担当の下薗英作部長、同部企画・経理担当の栗原勝代部長、岡田敏宏企画課長

東京の暮らしを公的に支えるのは、都庁や市区町村自治体だけではない。東京都管理団体を中心とする公共団体が、ビジネス、環境、医療、福祉、スポーツなど、さまざまなシーンで都のくらしを支えている。今回は、東京の物流を陰で支える、報告団体(※)の日本自動車ターミナル株式会社にスポットを当てる。

高速バスターミナルの物流版
都内4箇所に設置

 約1400万人が暮らす東京には日々、大型トラックにより全国各地から大量の物資が運び込まれ、個人宅や全国の約1割を占める企業等の事業所に配送される。反対に、各個人宅や事業所から全国に発送される物資もあり、その物流ネットワークは極めて膨大で複雑だ。

 その物流を調整し、スムーズにしているのが、大田区から足立区を経て江戸川区までを環状に走る環状七号線沿いに点在する「京浜」「板橋」「足立」「葛西」の4箇所の公共トラックターミナルだ。

 それらを管理する、日本自動車ターミナル株式会社総務部の岡田敏宏企画課長は、「高速バスターミナル」を例に挙げてトラックターミナルの仕組みを説明してくれた。

 「高速バスは大勢の人を乗せて、各都市間のバスターミナルを行き来しています。そして人々はターミナルで路線バスや鉄道などに乗り換え、各自の目的地に向かう。その仕組みが人の都市間交通の無駄を省き、合理的な輸送を実現しています。トラックターミナルも構造は同じです。大型トラックが都市間を行き来し、大量の荷物をトラックターミナルに運ぶ。そしてターミナルから小型トラックで各荷物の目的地に運ぶ。東京ではこの4箇所のターミナルが、多くの貨物を合理的に運ぶ機能を果たしているのです」

同社は都内に4箇所のトラックターミナルを配置している(提供:日本自動車ターミナル株式会社)

増大する物流に対応すべく都・国・民間共同で設立

 東京以外の都市部にもトラックターミナルはある。しかし、限られたエリアに多くの人と事業所が集結する東京では、より大規模で高機能なターミナルが求められる。

 4箇所あるターミナルは、どれも10万㎡以上の敷地を持ち、大型トラック300台が乗り入れ可能で、1日数千台のトラックが、4箇所のターミナルを行き来している。

 同社は株式会社という形態だが、現在も都が筆頭株主の第三セクターだ。1965年の設立当初は都の他に、国土交通省、民間事業者が共同出資していた。時は高度経済成長まっただ中。人口も物流も東京に集中しはじめ、交通渋滞が社会問題化していた。その打開策としてトラックターミナルが設置されたと、同部総務・人事担当の下薗英作部長はいう。

 「特に大型トラックが狭い都市部に入り込み、大渋滞を引き起こしていたそうです。そこで、大型トラックは都市部に入る前に、環状七号線の外側で荷物を下ろし、小型トラックに積み替え、都市部各所に配送するようにした。その結果、物流が合理化するだけでなく、道路の渋滞も緩和し、さらには無駄な排気ガスが減り、環境負荷も少なくなった。単なる物流の合理化にとどまらず、近年の都市問題解決の機能も、トラックターミナルは担っているのです」

都市部にあるメリットを生かし変化する物流ニーズに対応

 近年はインターネットによる通信販売が拡大し、個人宅への個別配送が増加、多様な物流が求められるようになった。それに伴い、同社に求められる機能も変化していると、岡田企画課長は言う。

 「首都圏近くにこれほど大きな物流拠点を4箇所も整備するのは、他社では不可能です。その立地と規模を生かした、大都市物流戦略=メトロポリタン・ロジスティクスを掲げ、新たな物流ニーズに対応していきます」

 同社の4拠点には4つのメリットがあるという。一つ目は、都市部に隣接するため、消費地へ迅速かつ細やかな物流が可能なこと。二つ目は、鉄道、空港、港に近く、他の輸送網との連携が取りやすいこと。三つ目は、都市部に近いことで、通勤など労働環境が良く、かつ24時間365日営業可能であること。最後は、災害への強さだ。

 「各ターミナルでは非常用発電設備を設け、72時間自家発電できる体制を整えているので、首都直下地震などにより、都内全域の電源喪失が起こっても対処できます。また、新設する建物には、免震対策を施し、入居事業者様の事業継続を支援しています」(下薗部長)

災害に強い施設を目指し、全ターミナルに非常用自家発電設備を設置。こうした取り組みが評価され、2014年から5年連続で日本政策投資銀行より「防災および事業継続への取組が特に優れている」と最高ランクの格付けを取得した(提供:日本自動車ターミナル株式会社)

災害時には物資輸送拠点に災害に強く、働く人にも優しく

 4つのメリットを生かし、近年は敷地内に企業物流拠点の誘致を積極的に行っている。京浜では「ダイナベース」という40フィートコンテナ車が直接乗り入れ可能な巨大物流施設を建築。葛西ではオーダーメイド型の物流施設建設の提案を行っている。

 企業誘致を進めるなかで、女性が働きやすい環境づくりにも一層力を入れていると、同部企画・経理担当の栗原勝代部長は話す。

 「昔は物流といえば男性の職場でしたが、近年は女性も多く働くようになりました。清潔感はもちろん、パウダールームのような女性には必須の場所も設置し、性別年齢問わず『働きたい』と思われる場所にしたいです」

 災害に強い点は、国や都からも評価され、2012年には「災害時における東京都の支援物資輸送について」の協定を東京都と締結。災害時には、都の備蓄庫や全国から集められる災害物資の輸送拠点の機能を果たす。

 「東日本大震災の際は、災害物資は行政主導で輸送されましたが、うまくいかないことも多かったようです。そこで、物資輸送の専門である民間の力を生かした災害時輸送の構築を目指した今回の協定ができ、我々も協力することになりました。近年は行政や自衛隊などとの合同訓練も行っています」(岡田企画課長)

 日常の都市物流だけでなく、都の災害時物資輸送も支える、縁の下の力持ち。同社の存在があるからこそ、効率的かつスピーディーに物資が手元に届くことを、我々都民は忘れてはならない。

(※)報告団体:監理団体と同様に、都の行政運営を支援・補完する団体のひとつ。自らの経営責任のもと、自主的な経営を行うため、監理団体に比べて独立性が高い

    

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