HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.127 株式会社コナカ 代表取締役社長 湖中謙介さん
1 The Face トップインタビュー2018年07月20日号
株式会社コナカ 代表取締役社長
湖中謙介さん
洗えるスーツ「シャワークリーンスーツ」や「形状記憶・防しわ」スーツなど、斬新な商品で世の中をあっと言わせてきた。その発想の源は“お客様の言葉”であり、それを商品に反映することが物を売る原理原則ときっぱり。紳士服業界最大手の一つ株式会社コナカ代表取締役社長、湖中謙介さんにお話をうかがった。
(インタビュー/津久井 美智江)
お客様の声を商品に反映する。それが物が売れる原理原則である。
—大きな名札ですね。下に書いてあるのは、どんなことなのですか。
湖中 サービス オブ ザ・イヤー2017」を受賞したことが書いてあります。
—それはどういう賞なのでしょう。すみません、存じ上げなくて。
湖中 この頃は海外からのお客さまも多くいらっしゃるので、ホテルの三つ星、四つ星、五つ星のように分かりやすいマーキングをしたということで、専門の調査員が抜き打ちで店を訪れて買物をして、接客や売場づくりなど店舗のサービスレベルを評価し、その上位10社程度を表彰するものです。サービスのレベルの“見える化”ですね。2014年から毎年開催されていて、参加店舗数は年々増えて3000店舗以上あるそうですが、今年も受賞いたしましたので5年連続で頂戴することができました。
—すごいですね。どんな点が評価されたとお考えですか。
湖中 私たちが扱う洋服は、電化製品や自動車のように何ヘルツとか何馬力とスペックが書けないものですから、お客様お一人お一人と相対して、必要な情報を的確により分かりやすく説明する必要があります。そういうことも含め、お客様が望んでいらっしゃるサービスを当たり前にできているかどうかということではないかと思っています。
もちろん、できない時もありますが、“できる限り”ということがいちばん大切だと思っていますので、私たちの最大限の努力をご評価いただけたと光栄に思っています。
—御社では、シャワーで汚れを落として一晩陰干しすれば、折り目も復活するという「シャワークリーンスーツ」とか、繊維に形状を記憶させる技術を用いた「形状記憶・防しわ」スーツなど、斬新な商品を開発されていますが、その発想はどこから生まれるのでしょう。
湖中 基本はお客様からいただいたお言葉です。何もないところからはいろんな発想は出てきません。お店でお客様のお声を集約し、商品に反映することが、物が売れる原理原則だと思っています。
—最近はカスタムオーダースーツ「ディファレンス」が人気だそうですね。
湖中 今までは同じようなもの、つまり他の人と変わらないものが無難でいいということでしたが、最近はすごく変わるとだめだけれども、ちょっと違うものをというご要望が非常に多くなりました。
スーツでいちばん大切なのはサイズが合っているかどうかなんですね。サイズが合っているとかっこよく見えますが、サイズが合っていないとどんなに高いものでも、あまりよく見えません。既製のものはだいたい皆さんに当てはまるだろうというところで作っていますので、逆に言うとほとんどの人に合わないんですよ。
お直しをしないと合わないわけですが、お直しは無理に合わせようとするのでスーツにもストレスをかけますし、もともとのきれいな形を崩してしまうことにもなりがちです。
だったら最初からきれいな形で、お直しのいらないもので作って、サイズが合っているというのがベストだと。おかげさまで、大変好評をいただいております。
スーツの縫製工場を残すことは、日本独自の縫製技術を伝承すること。
—オーダーメイドだとお値段もそれなりに?
湖中 オーダーメイドはすごく高いものというイメージがありますが、私どものような工場を運営しているSPA型、つまり生産直販の会社では、工場で既製品を一着作るのもオーダーを作るのも、時間的には若干オーダーの方がかかりますが、工賃が2倍3倍ということにはなりません。それに、従来のオーダーメイドのお店は、生地屋さんから必要な分の生地を買いますが、私たちは在庫するリスクと金利の負担を負って、生地を全部買取りしていますので、より既製服に近いお値段で販売することができています。
—そういう流れは同業他社でも一般的なのでしょうか。
湖中 しようとされても、できないでしょうね。まず縫製の工場がありません。日本国内で新しく工場を造り、スーツを縫製するということは、最初から赤字覚悟の話ですから、そんな投資をされる人は世の中にはいませんよ。
私どものオーダーのスーツは100%国内で生産していますが、年間を通じて縫製工場を運営しているのは私どもだけだと思います。言い方を変えますと、日本のスーツの縫製工場はそういう形でしか残せませんし、日本独自の縫製技術も伝承できません。
—日本の縫製技術は世界とは違うのですか。
湖中 明らかに違います。
生地は2次元のものですが、これを3次元のものにしていくわけですから、当然、生地を形にしようと思ってもできません。
日本式は、仕付け、つまり途中途中でとめをしながら形を作り、縫製してからその仕付け糸を全部外して、最終的にプレスして形を整えます。しかし、日本式以外の作り方は、仕付けのようなことはしないで、バーッと縫ってしまってから後で形を作る。たぶん40、50工程は日本式のほうが多いでしょうね。
—その技術を海外に輸出するというのはいかがでしょう。
湖中 日本式をやりたいという海外の工場もありますが、基本的に手間もかかりますし、熟練の匠の技も必要ですから、最終的には効率を考えて、ヨーロッパで生産されているような簡易な方式をとりますね。
私たちが海外で作っている既製のスーツはほぼ日本式ですが、それができるのは日本にマザーファクトリーがあるからなんですね。でも、そのマザーファクトリーが今、なくなろうとしています。それを守るためにも、もうおやめになられるかもしれないという工場を、私どものグループで引き継がせていただいて、オーダースーツにしろ、急ぎの既製のスーツの縫製にしろ、作れるような体制を整えているところです。
今は、日本の工場は注文をキャパシティの100%入れてもつぶれてしまうような状況ですから、工場を維持するのは大変厳しい。そのためにもオーダーを上手くアレンジして、一年中安定して注文がいただけるオーダーメイドが重要なんですね。
ネットショッピングなくしては、これからの商業流通は成り立たない。
—スーツは基本的に何着くらい持っていればいいものなのですか。
湖中 春夏用と秋冬用を3着ずつお持ちになられるのがいいと思います。それを交互に着ていただくとスーツの持ちも違いますし、何より男性の場合、女性の目が厳しいですから、「あの人はいつも同じスーツだね」と言われないようにするためにも各シーズン3着。加齢臭も含め(笑)、危険なことになりますので、それが理想ですね。
—ビジネスシーンではスーツを着る、あるいはジャケットを羽織るのは当たり前でしたが、最近は、特にIT産業に代表されるような業界では、記者発表の時もTシャツで出てくる人が増えました。スーツであるべきというファッションそのものが根底から変わってきているように思うのですが、そのような状況をどうご覧になっていますか。
湖中 それを認める風土というか環境になってきていますね。ただ、その時に着ていらっしゃるTシャツが1290円のものなのか、1万円もするけっこういいものなのか。そこをしっかりリサーチして、しっかりミートしていくようなものをご提案できないと生き残っていけないのかなと思います。
例えば、ユニクロさんのジャケットは私たちの判断では、カジュアルなんですね。ですからTシャツやラフなシャツの上にお召しになられるということでは最適な価格帯であり、十分に用はなすだろうと思います。しかし、ビジネスでネクタイをされたウェアリングでは、若干難しい。ビジネスにはビジネス用のコーディネートや商品が必要なので、私たちは、ビジネスで使っていただけるとしたらこういうものになるというものを「スキニートラッド」というブランドで提案しています。要はビジネスで使えるものしか扱わないということです。
—なるほど。業際にはっきり線引きがあるということですね。ただ、これからはさらなるマーケット・セグメンテーションが求められるような気がします。
湖中 おっしゃるとおりですね。それに、ネットを通じてお買い物をされる方が女性で3割ぐらい、男性で15%ぐらい、日本の市場では確実にいらっしゃって、増えることはあっても減ることはありません。そういう方々への情報提供とマーケティングをしていかないと、日本での私たちの商業流通は成り立たないでしょうね。
一方で、これからはお店がたくさんあることがメリットではなくなります。お店に来て買い物をすることが楽しいとおっしゃる方々の期待を裏切らないサービス展開が、ますます重要になってきます。
これからはネットとリアルの店舗の両方なんですよね。このサービスしかないというのはだめで、こういうサービスもありますから、お客様のいちばん望まれる方法をお選びくださいというものにしなければならないと思っています。
—いろんな業界が革命期に入っているのかもしれませんね。
湖中 間違いなくそうだと思います。
商業流通の世界で非常に大きな変化が起こっている現在、それに合わせてスクラップ&ビルドをスピーディにやっていくことが大切で、そういう変わり身の速さとフットワークの軽さこそが、これから企業を強くしていくと思っています。それができないと私たちの存在価値は、どんどん陳腐化してしまう。ですので、今年はスローガンに「チェンジ、チャレンジ」を掲げて、新しいことや新しいものに積極的に挑戦したいと思っております。
<プロフィール>
こなか けんすけ
1960年大阪府生まれ。1982年にコナカ(当時の日本テーラー)へ入社、1984年神戸大学法学部を中退。1999年に常務取締役、2003年に専務取締役へ就任。2005年から現職。紳士服のフタタ、FIT HOUSEなど多業態を展開し、連結売上高約700億円の企業を率いる。
タグ:コナカ スーツ カスタムオーダースーツ ディファレンス