HOME » サイトマップ » 加藤麗のイタリア食材紀行 記事一覧 » 大庭麗のイタリア食材紀行 第49回
大庭麗のイタリア食材紀行 第49回2018年06月20日号
第49回 そもそもは薬草だったイタリア人の大好きなハーブ“バジル”
インドを原産地とするバジル。その名の語源は、中世ラテン語で、帝王のハーブを意味します。しかし古代ギリシャ時代以降、長らく麻痺や錯乱を起こすとの迷信がつきまとい、バジルはサタン(悪魔)の象徴と言われていました。イタリアには、紀元前350年代アレクサンダー大王の時代に伝わり、中世においては、切り傷など怪我の治療薬でした。実際に食用とされたのは、だいぶ後の18世紀以降のことです。
先日少し体調を崩し、喉の痛みが続いた時に、ふとイタリアに暮らす、薬草に詳しいご婦人の事を思い出しました。イタリアでは、人に会うと必ずお互いの体調を訊ねる習慣があります。通常は、決まり文句のように“元気よ。ありがとう。あなたは?”と訊き返すのですが、その日は珍しくcosi cosi(コズィ・コズィ)“まあまあかしら”と。このまあまあという言い回し、日本語では概ね良いという意味合いですが、イタリア語の場合、概ね“優れない”を意味します。すると、いかにも放っておけないといった様子で、理由を尋ねてくるご婦人。“咳で喉が痛くて”と話すと、即座に“バジルの葉を煎じて、ガルガリーズミよ”と。初めて耳にしたそのオノマトペ(擬音)的なガルガリーズミという不思議な言葉に、若干きょとんとしていると、ガラガラとうがいをする真似をして、“ガルガリーズミは大切よ”とご婦人。
勿論、イタリアでも薬局に行けば、市販のうがい薬があるのですが、そのご婦人のお勧めはやはりハーブ療法。乾燥させたバジルの葉を約5分間煎じ、冷ましてうがいに用いると、バジルの持つ成分サポニンのお陰で、喉の痛みを改善する効果があるとのこと。“因みに15分煎じて食後に飲むと、胃もたれにも効くわ”といった予備情報まで。伝統的な民間療法でもある、ハーブ療法が生活に馴染んでいるお宅の多いイタリア。先人の知恵袋的な、生活に根付いたアドバイスを貰うのが、個人的にとても好きでした。
<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>
東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。
タグ:大庭麗 バジル 薬草 ガルガリーズミ