HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.126 アーティスト/新宿Bee&Green代表 松宮真理子さん
1 The Face トップインタビュー2018年06月20日号
アーティスト/新宿Bee&Green代表
松宮真理子さん
もともと新体操の選手だった。中学時代からの恩師に「新体操の次の何かを見つけなければだめだ」と言われ、ずっと好きだった絵画の世界へ。コンプレックスを抱えながらも創作活動を続け、やがて万華鏡と出合う。そして、アートを通じた人とのつながりで養蜂に携わることに。アーティストであり、新宿Bee&Greenの代表を務める松宮真理子さんにお話をうかがった。
(インタビュー/津久井 美智江)
アートの一環として気持ちを喚起させる装置としての万華鏡を作りたい。
—万華鏡作家とお呼びしてよろしいのでしょうか?
松宮 アーティストと……。実は万華鏡作家と言われるのは望んでいないんです。
私はもともと絵画なんですね。油絵を20年ほどやっていまして、大きい公募団体展に10年ぐらい出していたんですが、行き詰まりを感じて、渋谷にあったステンドグラスの専門学校に行ったんです。そこの先生はフランス国立高等工芸美術学校を出られた方で、1年間みっちりステンドグラスのパネル作りをやりました。
その最後のほうの授業に万華鏡があり、それがすごくおもしろかった。その時の先生が中里保子さんで、万華鏡の基礎を教えてもらうためにしばらく通いました。
万華鏡というのは誰が見てもきれいで、万人受けするんですね。でも絵画は難しくて、特に抽象画になると、詩とか本を読むように考えて咀嚼して読み取らなければなりません。それぞれの世界が乖離しているので、自分にとってアートとは何かとすごく悩んだんです。きれいなだけじゃない、アートの一環として気持ちを喚起させる装置としての万華鏡を作れないかと……。
いろんなことをやっていくうちに偶然発見したのが、今メインとしている天体観測というシリーズです。
—絵の世界と万華鏡が近づいてきたという感じですか。
松宮 そうですね。以前は個展をやっても、絵と万華鏡の作家が完全に別人の感覚でしたが、今はあまり差は感じないです。
—言葉で説明するのは難しいと思いますが、天体観測シリーズはどういう万華鏡なのですか。
松宮 万華鏡は色を変化させて展開させていくというパターンがほとんどですが、私が作っている天体観測というのは、極端な言い方をしますと、奥行きのある宇宙空間のような世界なんです。そのためにいろいろ仕かけをしているんですけれども、それは他の人は一切やっていません。
—望遠鏡で夜空を眺めているような感覚なのでしょうか。
松宮 「この万華鏡を見ていると泣ける」と言われたことがあるんですが、すごくうれしかったですね。万華鏡を見て、癒されたり、何かを考える時間を持ってもらえる……。それは私がすごく望んでいたことなので、それができているとしたら素敵だと思います。
—いわゆる万華鏡の固定観念とは全然違う、新しい芸術として確立できるといいですね。
松宮 そうですね。今はもう映像の世界が発展していて、プロジェクションマッピングとかコンピュータで何でも作れてしまいます。でも、コンピュータではできない部分があると信じています。
—いくらAIが発達しても全部それでできてしまったらいやですよね。
松宮 万華鏡には液体が入っていますので、ちょっとした揺らぎがあったりとファジーな世界なんですね。AIにできないということで万華鏡と養蜂は共通しているのかなぁと思っています。
新宿という場所で養蜂をすることが、将来的な環境保護につながったらいい。
—今、養蜂とおっしゃいましたが、何でまた養蜂に?
松宮 私がたまたま応募して賞をいただいた絵画コンクールのビルのオーナーが、私たちがやっている養蜂活動を立ち上げた方なんです。新宿御苑前にある株式会社四谷恒産という会社の会長なんですが、オリンピックもあることですし、あの界隈を活性化させるために何かできないかと立ち上げた研究会に、なぜか私も呼んでいただいたんです。
「銀座では有名なミツバチプロジェクトがあるけれど、新宿にはないのでやってみたらどうか」とおっしゃる方がいて、それで会長が工学院大学の学生を誘い、四谷恒産の社員と工学院大学の学生とで去年の4月から始めました。
ただ、そこは学生とボランティアで、リーダーシップを取る人もいなくて、後半あまりうまくいかなくなったんですね。その頃に私がちょうど参加しはじめて、友達とかでボランティアしてくれる人を連れて行ったりした経緯もあって、リーダーを任された(笑)。
—養蜂には興味はあったのですか。
松宮 全然(笑)。虫が、たぶん世界一くらい苦手だったんです。私は本、映画、音楽がすごく好きで、たまたまハチが世界から消えているというCCD(蜂群崩壊症候群)についてのアメリカの本を読み、すごく衝撃を受けたんです。
それから、ハチというものの世界観がすごく複雑で奥深く宇宙的だと感じて、自分がやっているアートとリンクした。それでやりはじめたら、大変で(笑)。
—銀座もそうでしょうけれども、新宿で養蜂を行う一番の意義はどんなことでしょうか。
松宮 新宿とか銀座というと自然からは離れたイメージがありますよね。特に新宿は、高層ビル群や歌舞伎町といった繁華街のイメージが強いです。
私は都会生まれの都会育ちなので田舎を知らないんですね。ハチと接するようになって、今まで意識していなかった天候をすごく意識するようになりました。天気が悪い、雨が降る、寒くなった、ハチは大丈夫だろうかと。だから、ハチが、初めて身近にある大自然なんですよ。
もっと言えば、ハチは総合的な環境の変化に大きく影響されます。今までニュースでしか知らなかった地球温暖化なども、本当に肌で感じるようになりました。そういうことを都会の人にもっと広く知ってほしいと思っています。
—そうですね。新宿御苑の近辺だと採れるのは桜のハチミツですか。
松宮 主にユリノキです。新宿御苑のシンボルツリーなんです。実際にユリノキのハチミツがすごく採れました。さわやかで癖がなくておいしいですよ。それに採れたての、非加熱で何もしていない純粋なハチミツは、びっくりするほど違います。その効能とか、本当に薬みたいな部分とかもぜひ多くの人に味わってもらいたいですね。そういうワークショップとか食育といったことにもつなげて、将来的には環境保護につながっていったらいいなと思っています。
私はハチもアートも人類にとって同じく必要不可欠だと思っているので、この養蜂活動が緑化だけでなく新宿の文化やアートの活性化につながらないかと考えているところです。
高校、大学と新体操の選手。根性とストイックな精神が鍛えられた。
—絵画と万華鏡と養蜂の労力のバランスはどうなっているのですか。
松宮 週2日は養蜂場、あとは家で制作しています。
—養蜂を始めたことによって、リフレッシュになったり、新たな創作意欲がわいてくるといったことはありますか。
松宮 いいものができる気がする時もあれば、重荷に感じる時もある。その時々ですね。どちらもけっこう重労働なので、養蜂でしわ寄せが来た分、制作の時間はタイトになるので、頭の中に緻密なスケジュールを立てて、朝から晩まで動いている感じですね。
—創作活動と養蜂、楽しいのはどちら?。
松宮 それもその時々ですね。これまで絵画と万華鏡の二足のわらじで来ましたが、絵画の調子がいい時は万華鏡が調子悪いとか、その逆とかということがあるので、ある意味、両方あるから救われているのかなという気はしています。
—そこに養蜂が加わったと。
松宮 養蜂に関しては、学ぶこともすごく多いですし、感じ取ることもすごくあります。最近の絵画はハチの蜜ろうを使って描いているんですけど、いろいろな思いつきが万華鏡の世界観にリンクしていく部分もすごくある。
結局、創作活動はいろんなところからいろんなものを取り込んで吐き出すということなので、養蜂の体験もいいのかなと思いながらやっています。
とにかく好奇心が旺盛なので、おもしろいと思ったらやってみる。だめならだめでどうせまた元に戻るだろうと思っているので、流れに身を任せています。ただ、絵画と万華鏡に関しては自分の主軸、コアの部分なので、これをなくすことは考えられないです。
—もともとは美術とは関係のない世界にいらしたそうですが、何で絵の世界に行こうと思われたのですか。
松宮 ずっと絵を見るのが好きだったんですね。驚かれるんですけど、実は私は体育会系というか、大学は体育専攻だったんです(笑)。
—ええ! 何をやられていたんですか。
松宮 新体操です。高校、大学と新体操の選手で、全日本とかにも出て、それしかやってこなかったんです。その時に根性が鍛えられたんです(笑)。あとストイックな精神も。周りはみんな教える側になったんですけど、私はそっちには興味なくて……。
中学時代からの恩師がいまして、その先生がアーティストなんですね。コンテンポラリーダンスの。その先生に、新体操が終わってからの次の何かを見つけなくちゃだめだとずっと言われていたので、新体操を離れてから絵画教室を探したんです。
たまたま抽象画の二紀会の先生に出会って、それで公募展に出展していたというわけです。だから、美大を出ていないというコンプレックスがすごく強かったですね。
—なるほどねえ。でも今となっては関係ありませんでしょう。
松宮 結局、アートの世界もハチの世界も、何がいちばん重要かというと、想像力なんですね。
この前ニュースで見たんですが、今、欧米のITの大企業が芸術家をどんどん採用しているんだそうです。新しい発想力を持っている人が求められている。AIの時代になって、これからどんどん様変わりしていくと思いますが、やはり重要なのは、人間の特有の想像する力なんだと思います。
<プロフィール>
まつみや まりこ
大阪府生まれ。武庫川女子大学文学部教育学科体育専攻卒業。アパレルメーカー勤務を経て、画家・高瀬善明氏に師事。結婚を機に東京へ移住。ステンドグラスアートスクールプロ養成所本科卒業、武蔵野美術大学油絵学科卒業。万華鏡を中里保子氏に師事。2002年〜11年東京二紀展に出展、マツダ賞、第25回記念賞等を受賞。その他、マスダ展、トーキョーワンダーウォール展、上野の森美術大賞展、未来抽象芸術展等に出展。近年は個展やグループ展(9面参照)を開催している。
タグ:万華鏡 養蜂 新宿御苑