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大庭麗のイタリア食材紀行 第46回2018年03月20日号
第46回 イタリアの食通たちが待ちわびる春のたんぽぽの季節
中世のペルシア語で、苦い野草を意味した言葉から、その名がついたと言われているイタリアのたんぽぽ、タラサッコ(tarassaco)。その葉や花の形状から、ライオンの歯、仔豚の鼻など、さまざまな別名をもつ事でも知られます。ベッドでのお漏らし、おねしょを意味するフランス語のピサンリ(pissenlit)と同様に、イタリア語でもピッシャレット(pisci alletto)とも呼ばれます。その由来はこの植物のもつ解毒作用を含んだ利尿作用の薬効からきていると言われています。
漢方薬で、花や葉、茎、根が使用されてきたように、ヨーロッパにおいても古くからフィトセラピー(薬用植物療法)として、消化不良に効き目のある健胃薬などとされてきました。体内の水分量を調節し、塩分や老廃物を排出する事から肝臓の機能改善、胆汁の分泌促進、便秘やむくみの解消などに、葉や根などが用いられます。また春先には、山菜狩りのように山や草原で摘んだタラサッコの新芽を使ったサラダも。葉には豊富なビタミン類と鉄分が含まれているため、貧血の予防や改善も期待できると言われ、春のこの時期の食卓に並びます。
また、主に北イタリアの地域では、タラサッコは春の蜂蜜として採蜜されてきた伝統があります。4月初旬、タラサッコの開花シーズンがはじまると、養蜂家も活動を開始します。特に、標高の高い地域に群生する野生のタラサッコの花は香りがつよく、美味しい蜜が採れることを、養蜂家たちは熟知しているそう。タラサッコの蜂蜜は、若干白濁し琥珀色がかった、なめらかなクリーム状の質感が特徴です。また、他の花の蜂蜜に比べブドウ糖を多く含有しているため、急速に細かな結晶化をする特性があります。濃厚な香りと柔らかな甘み、ほのかな苦みと、樹木を感じさせるような複雑な味わい。決して万人受けをする味ではありませんが、いつまでも残るその独特な余韻と風味に惹かれ、食通たちがこの蜂蜜を好みます。そんな彼らにとって春の訪れは、タラサッコの蜂蜜を待ちわびる季節です。
<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>
東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。
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