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大庭麗のイタリア食材紀行 第44回2018年01月20日号
第44回 イタリアの冬は暖炉と豆とテラコッタ
イタリア語で、焼いた粘土を意味するテラコッタ。その歴史は古く、紀元前の新石器時代には既に、その原型があったと言われています。今でも南イタリアを訪れると、さまざまなテラコッタの鍋や食器、壺などを見かけます。古くはワインやオリーブオイルをはじめ、豆や穀物の保存にも、異なる形状をした専用のテラコッタの壺などが使われていました。
イタリアで暮らしていたある冬、働いていたお店のシェフが驚くほどの豆料理好きで、毎日のように、賄いに豆料理を食べていた思い出があります。ひよこ豆に、レンズ豆、インゲン豆、うずら豆、そして乾燥ソラ豆。夜になると翌日用の豆を水に浸して、下準備をする毎日。一冬終わる頃には、私は豆料理に相当飽きていて、毎日美味しそうに食べ続けるシェフや同僚たちを不思議に思うほどでした。
そんな豆料理好きな人々が、特にテンションを上げるのが、暖炉の中、テラコッタで加熱したファジョーリ(インゲン豆)。冬の時期、多くの家庭が暖炉に火を灯すイタリア。暖炉の中で、若干の煙の香りを吸収しながら、加熱された豆の美味しさと言ったら!と、その美味しさを夢見心地で語るイタリア人に、今まで何度遭遇してきたことでしょう。
多くの豆は急速に加熱すると、豆の表面付近のたんぱく質が凝固し、内部に水が浸透しない事から、茹でムラが生じてしまいます。しかし、穏やかに熱が伝わるテラコッタの場合は、豆の加熱に適した80℃前後の温度が維持されるのだそう。とろ火で時間をかけた調理法を好む、豆料理をはじめとした、イタリアの伝統的な煮込み料理。テラコッタを用いた料理を、より美味しく感じるのは偶然ではないようです。
この冬、久々に彼らと一緒に、テラコッタで調理した豆料理を食べる機会がありました。久しぶりに食べると、やっぱり美味しいなぁと、しみじみ当時の事を思い出しました。
<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>
東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。
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