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1 The Face トップインタビュー2017年12月20日号
東海大学 学長 山田 清志さん
今年、建学75周年を迎えた東海大学。全国に8つのキャンパスを構え、文系・理系の計18学部を有する総合大学だ。ソーシャルデマンドを考え、来年度は文化社会学部と健康学部を新設する。世界平和に貢献し、科学技術立国を担う人材の育成を建学の理念に掲げる同大学学長の山田清志さんにお話をうかがった。
(インタビュー/津久井 美智江)
モットーは「先駆けである」こと。
人のやらないことをやる大学である。
—建学75周年、おめでとうございます。2014年に学長になられて、一教員の時と何かお変わりになりましたか。
山田 変わらないようにしようと思っています。今年度まではゼミがありますし、去年までは授業も担当していました。我々のような大規模な大学では、学長自らが教鞭をとることはあまりないと思いますが、私自身の考えとしては、今の学生が何を考えており、何が流行っているのかは学生の口から聞くのがいちばんいいと思っています。
—貴学の学生の特徴はどんなところだと思われますか。
山田 私は残念ながら東海大学の出身ではないのですが、自分の学生時代を思い浮かべ、自身の出身大学と比較すると、東海大学の学生は実直で礼儀正しい学生がそろっていると思います。本当に素直で、行儀が良い。それも強制されたものではなくて、一定のディシプリンが保てている。
わかりやすい例をご紹介すると、本学のメインキャンパスである湘南キャンパスには約2万人の学生が在籍しています。この学生の多くが利用する小田急線「東海大学前」駅は、ピーク時にはホームに学生があふれ返ってしまいます。当然のことながらホームの階段は上りと下りに分かれておりますが、朝の通学時間帯は下り方面の箱根や小田原に行く人はほとんどいないにも関わらず、ルールを無視して階段を逆走する学生はおりません。実に整然と待っています。教職員が指導しているわけでも、駅員さんが笛を吹いているわけでもありませんが、一般社会のルールをきちんと守っているところは、我が校の学生の誇れるところだと思っています。
—人間の基本としてとても大事だと思います。
山田 社会規範を順守し、素直であることはとても誇らしいことではありますが、逆に言うと、枠をはみ出しても自分の意思を通すような気概が欲しいですね。その部分が物足りないというか、もう少しガッツがあっても良いのでは、という思いもあります。
—校風もそういうところがあるんでしょうか。
山田 校風は一言では言い表わしにくいところがありますが、多くの方が思い浮かべるのは、理工系を中心とした総合大学であること、スポーツ活動や国際交流活動が盛んであることなどが挙げられると思います。
これは、創立者の松前重義博士が確固たる信念によってつくりあげた大学の精神的な支柱であり、今でも、東海大学の学風として力強く息づくものと思います。
—東海大学には海洋学部や航空操縦学専攻、アジア学科や北欧学科など、珍しい学部や学科が多い気がします。
山田 我々の大学のモットーは、「先駆けである」ということです。「先駆けである」ということは、潜在需要を発掘していくという作業と言い換えてもいいと思いますが、ただしそこに金脈があるかどうかはわかりません。創立者の松前重義博士が、無装荷ケーブルという長距離通信方式を発明した報奨金で東海大学の前身である望星学塾を造ったように、誰もまだやっていないことをやるとか、人のやらないことをやるという精神が我々の大学の中には他の大学よりは強くあると思いますね。
自ら考える力、集い力、挑み力、成し遂げ力、社会で必要とされる4つの力を育む。
—ソーラーカーの世界大会に出場したり、乾電池を動力源にした有人飛行に挑戦したりといった活動も注目されています。授業の一環なのですか。
山田 2006年にスタートした「チャレンジセンター」のプロジェクト活動の一つで、通常の授業とは少し違います。「チャレンジセンター」では、学生が自由な発想で企画を提案し、学部・学科・学年・キャンパスの枠を超えて仲間を集め、1年を通して活動することで、社会で必要とされる4つの力、「自ら考える力」「集い力」「挑み力」「成し遂げ力」を体得する教育プログラムを実践しており、学内の座学では体験することができない感動や刺激が得られていると思います。
例えば、熊本では働き手のいない農家をサポートする阿蘇援農コミュニティープロジェクト、札幌では除雪作業を中心に地域に貢献する札幌ボランティアプロジェクトなどがありますが、素晴らしいのは、お年寄りや一人住まいの方のところに行ったのをきっかけに、学生の目線で行政に対して新たなサービスを提案するまでになっていることです。
—就職活動のエントリーシートに書くためにボランティア活動などをすると聞いたことがありますが、本当に善意から発しているから、行政に働きかけるところまで行くのでしょうね。
山田 就職活動のエントリーシート記入のためという自己都合が通じるほど、企業の人事担当者の目は甘くないのではないでしょうか。アルバイトの経験とか、1日体験的に行ったボランティアといった小手先の活動については、人事の方は見抜いていると思います。だから私は、「学業はもちろんだけど、学生時代にやったことで一つでも誇れることがあればそれで充分」と学生には話しています。
乾電池による有人飛行でギネス記録にチャレンジした際、残念ながらギネス記録達成はならず、琵琶湖に着水してしまったのですが、パイロットの学生が応援に来ていた母親に泣きながら、「お母さん、これが僕の大学生活です」と言ったんですよ。この事例がまさに学生時代にしか体現できない活動をしていることを如実に表わしていると思います。
—東海大学の科目で特徴的なものはありますか。
山田 全学生必修科目として「現代文明論」というのがあります。現代文明の諸問題に対して深い思慮と洞察を身につけ、自らの思想を培うことを期して開講されている科目ですが、これは解決に取り組むというより、むしろ答えのない問題が世の中にはたくさんあることを学生が理解することを目的にしています。また、文部科学省の平成25年度「地(知)の拠点整備事業」の採択を受けて、事業を推進しているTo-Collabo(Tokai university Community linking laboratory)プログラムについても、2018年度のカリキュラムから「シチズンシップ」「ボランティア」「地域理解」「国際理解」という科目を必修化することにいたしました。
科目の必修化は、卒業要件となりますので、大学としては極めて慎重に検討しているのですが、本学の特色としては体育科目も必修です。体育大学以外で必修にしている大学は少ないのではないでしょうか。
—私、必修だったような気がします。
山田 昔は必修ですよ(笑)。例えば今、都心にある学生数3万人、4万人の大規模大学で体育科目を必修にしたら、どこで開講するのかという問題が生じます。夏休みや春休みに山に登ったりスキーに行ったりするシーズン科目というのもありますけど、大規模な総合大学で実施するのは難しいと思います。本学は創立者が掲げた教育の指針の一つに「若き日に汝の体躯を養え」があり、その意思を引き継いで必修科目としております。
新たなブランドイメージは、QOLを追求し、QOLに資する人材を育てる大学。
—2018年度から文化社会学部と健康学部が新設されるそうですが、ソーシャルデマンドを考えてのことでしょうか。
山田 少し経営的な観点が入ってしまうかもしれませんが、大学では学生を「顧客」と考えるのが主流です。学生募集という面では、在学生の満足度をいかにして高めるかということに注力することで、次の顧客である受験生が大学を志望してくれるか否かということに繋がり、どの大学も汲々としているわけです。
保護者の立場からしてみても、大事な子供を大学に預けるわけですから、正課活動も課外活動も充実させたうえで、卒業・就職という形で社会に送り出すことを望んでいると思います。その意味でも、我々は学生が何を学びたいかという視点を重要視するとともに、社会がどういう人材を必要としているのかということにも着目しなければなりません。
今回新設する健康学部につきましては、社会は栄養士とか運動指導士といった専門的な人材よりも、もっとジェネラルに健康のことについてマネージメントできる人材を求めていると考え、今までの健康科学部を改組することにいたしました。我々は、大学が育成すべき人材はリテラシー(=知識)とコンピテンシー(=社会性)と捉えておりましたが、それにヘルシーをプラスして、“3シー”で行こうと考えています。そういった意味でも、学部名は○○健康学部とか健康○○学部ではなく、健康学部とすることにこだわりました。日本では健康学部という名称は我々が最初であると思います。
—社会が多様化してくると型にはまった人材だけでは務まらなくなっているということですね。
山田 今までは、就職してから企業風土に合わせて社内教育するという考え方がありましたが、これからの大学は、社会が求めている人材像を積極的に育成していくことが重要になっていくように思います。
—欧米では、職歴がない人間は就職できないという企業がいっぱいありますよね。インターンシップで勉強してこいと。要するに、どこの大学を出たかではなく、何を勉強してきたか、どんなキャリアを持ってきたかが重要だと。
山田 日本には、キャリアパスのためには、そこを通らなければいけないという切迫感がありませんし、現状の日本のインターンシップでその部分が鍛えられるとは思えません。日本の大学が本腰を入れて職業観を養うのであれば、極端な例ではありますが“大学生版キッザニア”みたいなものをつくり、就業体験をすることの方がずっとインターンシップに近いと思いますね。
—確かに。新たな学部の創設もそうでしょうけれども、100周年に向けての展望は?
山田 これまでの東海大学のイメージは、「理工系」や「スポーツ」のウエイトが高く、言い換えれば男性的なイメージです。それをいきなりフェミニンな大学にするわけにはいきませんので、私としては、本当の意味でのクオリティ・オブ・ライフ(=Quality of Life)を追求し、それに資する人材を育成する大学である、というブランドイメージを作っていきたいです。その中心にこの健康学部があると思っています。
東海大学は国内の評価よりも、THEやQSという国際的に大学を評価する機関に代表されるように海外の評価の方が高い大学です。25年後の100周年の時には、教育産業が日本の輸出産業になるくらいに世界的なレピュテーション(評価)が高まっていて、その先駆けとして本学が世界に存在感を示せる大学になりたいと強く思っております。
<プロフィール>
やまだ きよし
1955年生まれ。北海道出身。1980年早稲田大学法学部卒業、1984年東海大学入職。教養学部で教鞭を執りながら大学の国際部門で要職に就き、米国・ハワイ州にあるハワイ東海インターナショナルカレッジ学長などを歴任。2009年10月同大副学長、2014年10月から現職。学校法人東海大学常務理事。専門は経済法、消費者法など。
タグ:東海大学 松前重義博士 チャレンジセンター